異なる視点から見える新たな響き

ニール・ヤング『ニール・ヤング・アーカイヴス VOL.Ⅱ(1972-1976)』
発売中
ALBUM
クレイジー・ホースとの久々のスタジオ新作、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』50周年再発、と走りを止める気配のないニール・ヤングだが、膨大な量の未発表音源やライブ音源を年代ごとにまとめ足跡を振り返る、本人監修によるアーカイブ作業も脈々と進行中だ。いまや入手困難な第一弾『Neil Young ArchivesVol.1 (1963-1972)』から10年以上、遂に登場した待望の続編は昨年DXボックスとしてオフィシャル・サイト限定で3000部販売されたところ即完売。その再生産に伴い、同内容を一般流通向けにパッケージし直し登場するCD10枚組(!)が本作になる。1976年の武道館公演音源収録も嬉しいこの作品、ファンからの熱い要望に応え入手しやすい形態で発売となったのは実にめでたい。

それだけ反響が大きかったのは、本作のタイム・スパン=1972年から1976年が、『ATGR』&『ハーヴェスト』の二大ヒットを経て彼のクリエイティビティが更に加速・拡大しひとつのピークに達していた、いわゆる脂ののったダイナミックな季節だからに他ならない。アルバムで言っても『時は消え去りて』、『渚にて』、『今宵その夜』、『ZUMA』等にかけての多作な頃に当たるのだが、かつて本人がCD化を渋っていた作品や昨年までお蔵入りになっていた『ホームグロウン』(74〜75年録音)も含むこの時期にはまた、「いわくつき」とでも言うべき謎めいたイメージもついて回ってきた。

しかしソロ、クレイジー・ホース、ストレイ・ゲイターズ、サンタモニカ・フライヤーズを始めとする様々な編成に挑戦し、かつ豪華な共演者の数々(CSN、ジョニ・ミッチェルエミルー・ハリス他)と繰り広げたセッションやライブ音源の数々はその多彩さを反映しロック、フォーク、ブルース、ポップ、カントリー、ラウンジ調等々貪欲なまでに幅広い音楽性を誇り、活気に満ちている。それだけ当時の彼もライター/パフォーマー双方の面で霊感がみなぎっていた、ということだ。

筆者はコアに博識なニール研究者ではなく、標準的なファンに過ぎない。そんな耳にすら本作を聴いていると公式スタジオ・アルバムからだけでは理解しにくい文脈や行間が浮かび上がってくるし、彼の音世界が新たな色彩を伴いより立体的に迫ってくる様に興奮せずにいられない。大ボリューム作なので敷居は高い。おいそれとは手を出せない価格でもある。

だが、ロックを聴いていればいつか必ずニール・ヤングに出会うし、その歌に涙する日もやって来る。その日を信じて、未来の自分への投資として奮発する価値のある作品ではないかと思う。(坂本麻里子)



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ニール・ヤング ニール・ヤング・アーカイヴス VOL.Ⅱ(1972-1976) - 『rockin'on』2021年5月号『rockin'on』2021年5月号
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