サイケ&ルーツィな深化と真価

アイスエイジ『シーク・シェルター』
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ALBUM

活況が続く英国のインディペンデントなロック・シーン。その導火線の役割を果たした先鞭として、2010年代の中盤にかけて最盛期を迎えたコペンハーゲンのアンダーグラウンドを挙げることに異論はないだろう。そしてその中心的存在を担ったのが、ご存知このアイスエイジ。本作は通算5枚目、3年ぶりのニュー・アルバムになる。

一昨年の来日公演にも帯同したサポートのギタリストが正式加入し、新たに5人編成で制作された本作。加えて注目すべきトピックは、初の外部プロデューサーとしてソニック・ブームことピーター・ケンバーが迎えられたことだろう。ケンバーといえば、自身の作品やプロデュース業(MGMTビーチ・ハウスetc)を通じたモダン・サイケの導師としての顔と併せて、初期ロックンロールやロカビリー、リズム&ブルースの偏愛家としても知られる異能多才のサウンド・クリエイター。

聖歌隊を擁した“Shelter Song”や“LoveKills Slowly”、アンセミックなコーラスが飾るサザン・ロック風の“High & Hurt”は、そんなケンバーの両側面が成果をみた楽曲といっていい。鋭利なハードコア・パンクスの面影はさらに後退し、サウンド全体を包み込むアーシーでユーフォリックな高揚感が印象的だ。

前作『ビヨンドレス』に増して管弦楽器がふんだんに使われ、オーガニックな色合いを深めたバンド・アンサンブルもそうした傾向に拍車をかけている。バカラック風のラウンジ・ミュージックを聴かせる“Drink Rain”や、かと思えばトリッピーでマッドチェスターなダンスフィールを湛えた“Vendetta”も白眉に挙げたい。先駆けてリリースされたコミュニオンズの新作と共に、コペンハーゲンの現在地を探る意味でも格好の機会を提供する作品だろう。(天井潤之介)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年6月号