天才の愛、天才の愛……と、このアルバムのリリース情報を目にしてからずっと心の中で呟いている。「天才のための愛」なのか、「天才への愛」なのか、「天才的な愛」ということなのか、それは結局このアルバムを繰り返し聴いてもわからないのだが、ひとつだけ言えることがあるとすればこの『天才の愛』と名づけられたアルバムが描くのは、小さいものから大きいものまで様々な欲望や怠惰や逃避や闘争を必要な音と必要な言葉だけを吟味して紡ぎ上げた人間絵図であるということだ。
近年のくるりのアルバムの中でもかなり自由度が高く、同時にミニマルでもあるサウンドデザイン、野球からギター、金曜夜のビールまでを奔放に歌いながら、半径3メートルの生活を悠久の歴史や生命の神秘にまで接続してしまうような歌詞。そしてその中にふっと紛れ込んでくる極限的に美しいメロディ。10年に一度の大名曲“潮風のアリア”と《オッペケペッポー ペッポーポー》がクセになる“益荒男さん”に同じ美を見出すのが『天才の愛』であり、それこそくるりのことだと思う。(小川智宏)
万物への愛が音になる
くるり『天才の愛』
発売中
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