東京事変、ポップミュージックの概念を鮮やかに覆す10年ぶりのフルアルバム、その名も『音楽』徹底合評

東京事変『音楽』
発売中
ALBUM
東京事変 音楽

世間よ食らえ、これが音楽だ

様々なチャンネルで時事を映し出してきた東京事変が、ついに『音楽』(ミュージック)にチャンネルを合わせた。マイクチェックからスタートし、メンバー紹介からの般若心経に向かう――。バンドに対するプリミティブな祈りのようなものが感じられる“孔雀”で幕を開けてからは、今の時代を想起させられるキーワードが、読み解くほどに味わい深い文学センスによって、歌詞に落とし込まれていく。それを、ヒップホップ、ファンク、ソウル、ロックなどのいちばん濃厚なグルーヴに乗せてリスナーの身体に染み込ませ、いちばん鋭利なサウンドに乗せてリスナーの心に突き刺してくるのだ。

攻撃的な歌詞と、インプロ的な演奏に耳を奪われる場面もあるけれど、実際は綿密に押し引きを熟考した楽曲ばかりだろう。プロフェッショナルなアーティストたちが、敢えてバンドとして「再生」した意味合いが、期せずしてコロナ禍で色濃く見えてくる。社会に対する疑問や、生きるうえでの苦しみで、こんがらがった脳内。現実に追い詰められ、張り詰めた心身。それらから解き放ってくれるのは、まさに音楽なのではないだろうか。もちろん、音楽以外に必要なものもたくさん知っている。大人だし。しかし、聴けば聴くほど「こういうことだったのか」という気づきに出会い、気持ちが楽になり、生きる力が湧いてくる。(JAPAN読者には改めて言うまでもないと思うけれど)音楽って、世間が思っているよりも、絶対にすごいものだ。それを5人が、大人の本気で証明してくれた。すべてを包み、なぎ倒す、圧倒的な音楽の誕生である。(高橋美穂)

バンドという生命体ゆえに体現し得る必然と奇跡

8年間の空白期間を境にそのバンド史を折り重ねると、5人が1曲ずつ持ち寄ったミニアルバム『color bars』〜閏日ライブで活動終了/2020年閏日ライブ〜全員作曲による5曲入りEP『ニュース』、と見事にシンメトリーを描き出しており、その対称構造は今作の全13曲の構成においてもよりいっそうコンセプチュアルな形で展開されている。そして、コロナ禍を経て「再生」翌年にリリースされる今回のフルアルバム『音楽』もまた、解散前年=2011年の『大発見』(ボーナストラックを除いて全13曲収録)と今なお麗しのシンメトリーを体現しているのは果たして偶然だろうか?

椎名林檎亀田誠治、刄田綴色、浮雲、伊澤一葉の5人それぞれが、精緻なアートフォームを宿した歌と実演を繰り広げながら、それらを織り合わせてパンキッシュなまでに自由闊達なポップミュージックとして炸裂させる痛快さ。《統制の済んだ集団が多様性/謳うなんてパラドックス》(“毒味”)、《薬とは毒だねそりゃ万能な蜜なんて無いねだって生きるうえで/死ぬことのみ唯一決まり切った大前提ダメージ酷いステージⅣ》(“闇なる白”)と時代の闇も毒も全身で呼吸しながら、それ自体をクールで粋な音楽表現へと昇華する、戦慄&感激必至のクリエイティビティ。あらゆる制作手法がパラレルに存在する2020年代において、東京事変がバンドとして――ひとつの生命体として音楽を響かせる必然そのものの名盤だ。その旋律とビートのひとつひとつが、僕らが「今、ここ」で生きる営みと等しく目映く、悲しく、切なく、艶めかしく、常に切迫した衝動に突き動かされている。(高橋智樹)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年7月号より)

【JAPAN最新号】東京事変、椎名林檎独白。8年ぶりの再生と新たな金字塔アルバム『音楽』までのすべてを語る
生きているうえで人間として願っていることに根ざしたものをやろうという思い直しはあったかもしれない 現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号に東京事変・椎名林檎が登場! 東京事変、椎名林檎独白 8年ぶりの再生と新たな金字塔アルバム『音楽』までのすべてを語る イ…
【JAPAN最新号】東京事変、椎名林檎独白。8年ぶりの再生と新たな金字塔アルバム『音楽』までのすべてを語る
東京事変、10年ぶりのフルアルバム『音楽』のすべて、そして「再生」に至る日々を語る[PR]
東京事変が「再生」を発表したのは、2020年元旦。閏年にしてオリンピックイヤーのビッグニュースとなったが、「東京事変 Live Tour 2O2O ニュースフラッシュ」は、新型コロナウイルスの影響でほとんどの公演が中止に(東京オリンピックも延期)。しかし5人はEP『ニュース』を皮切りに、数…
東京事変、10年ぶりのフルアルバム『音楽』のすべて、そして「再生」に至る日々を語る
JAPAN最新号 表紙は星野源! BUMP OF CHICKEN/宮本浩次/ゆず/東京事変/あいみょん/WANIMA/UNISON SQUARE GARDEN/JAPAN JAM 2021
5月28日(金)に発売する『ROCKIN’ON JAPAN』7月号の表紙とラインナップを公開しました。今月号の表紙巻頭は、星野源です。 そのほかラインナップは以下のとおり。 ●星野源 『不思議/創造』に至る日々、そのすべて。最新ロングインタビューで迫る全34P ●JAPAN…
JAPAN最新号 表紙は星野源! BUMP OF CHICKEN/宮本浩次/ゆず/東京事変/あいみょん/WANIMA/UNISON SQUARE GARDEN/JAPAN JAM 2021

公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする