今だからこそ描けた「大森元貴の根源」
映画の主題歌として書き下ろされた“Soranji”。最初に聴いた時、とても乱暴な言い方をすれば大森元貴のソロ楽曲のような感触を持った曲だと思った。美しいストリングスと神秘的なコーラスを背景に深く深く潜っていく思考と願い。「生きていたい」「生きていてほしい」という切実で根源的なメッセージが選び抜かれたシンプルな言葉で綴られた、とても個人的で内省的なバラードである。しかしそういう曲をタイアップで、かつ「ミセスとして」生み出せたということが重要だ。この曲の制作過程ではほとんどメンバー間のディスカッションはなく、それぞれの感性に任せる形でアレンジが進んでいったという。そういうこともミセスにはなかったし、ましてやこういう曲であれば大森はすべてを自分自身で描き切ろうとしていたはずだが、そうではなくてバンドで共有しながら作るという道を選んだ。だからこそ若井のギターも藤澤のピアノもここぞというところで決定的なフレーズを鳴らせているのだ。ミセスが狙い澄まして「ミセス」をやっている“私は最強”のセルフカバーと聴き比べると、あらためてミセスの現在地がはっきりとわかる。(小川智宏)ミセスにしか作り得ない音楽の境地
“Soranji”は、Mrs. GREEN APPLE史上、最も深く抽象的なテーマを有した楽曲となった。最も哲学的、根源的であると言ってもいい。大森元貴の歌声が「生」の意味を問いかけるように響き、ひとりの人間の在り方のみならず、絶えず引き継がれていく命について、思考と逡巡の果てに《我らは尊い。》という福音のような答えにたどり着く。“Soranji”はそんな深遠なるテーマを明確なる説得力を伴って響かせる楽曲だ。クワイアの荘厳にしてすべてを包み込むような歌声も、そのテーマにふさわしい。カップリングとして収録された“私は最強”のセルフカバーでは華やかなバンドサウンドで楽曲の新たな魅力を提示し、“フロリジナル”では19世紀に考案された「香階」の手法を用いて実験的な曲作りを試みている。鮮烈に香るトップノートから徐々に肌に馴染んでいくミドル、そしてラストノートへと、香りの変化を楽しむように音楽が心地好く耳に馴染んでいく様は見事。テクニカルであり官能的。これもまたミセスだからこその音楽表現だ。3曲入りシングルだがミセスのキャリアにおいて非常に重要な作品となることは間違いないだろう。(杉浦美恵)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年12月号より)
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号にMrs. GREEN APPLEが登場!