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ひらひら、くるくると踊るようなストリングスは華やかだが、曲全体はゴージャスというよりは淡々と突き進んでいく日常のような質感を持っている。その隙間から、米津玄師は感情を滲ませる。「露わにする」というより「滲ませる」という表現がしっくりくるやり方で、彼は人間を描く。噛んだ唇から滲んだ血をこっそり舐めて自分の味を味わう時のように、笑っちゃいけない場所で湧き上がる笑いを押し殺している時のように、他人から見たらわからないかもしれないが、その瞬間にひとりの人間の中でどうしようもなく激しく渦巻く感情が、この曲からは滲んでいるように感じる。本来、感傷的にもなりそうな別離の言葉をあっけらかんと表記したタイトルも、世界と平行になど存在しない、むしろ垂直に突き刺さる個人の存在や尊厳を表そうとした結果ではないかと思える。《100年》という遥かな時間を歌っているが、この曲が目掛けているのは100年先の誰かではなく、今この瞬間に100年のスタート地点にいる私やあなたではないか。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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