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進んでいるのか置き去りにされているのか、選んだのか失ったのか。もはやそれらを明快に判断できるわけもない、ひとりの人間のリアルな「生」の現在点から、この音楽は立ち上がっている。そして勝つことでも負けることでもなく、「自分の人生を生きたい」と願う人間の生き様が音楽になって響いている。RADWIMPSでもillionでもなく「野田洋次郎」名義での初のフルアルバムは、「野田洋次郎と音楽」の関係性を白日の下に晒す傑作になった。ヒップホップやハイパーポップを消化したパーソナルな音楽世界。これまで私たちが作品やステージを通して触れてきた野田洋次郎という人間の、卑屈なところのない、あの力強さと優しさの根源にあるものの正体がここにある。どれだけ自分自身の内側にある辛さや弱さ、迷いを吐露しようとも、それが歌になった瞬間に、彼はそこに願いや、祈りや、決意を、どうしようもなく重ねてしまうのだ。野田洋次郎は音楽を利用しない。彼は音楽に導かれるようにして、ずっと生きてきたのだろう。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年11月号より)
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