異形の気配

ジョシュ・グローバン『イルミネーション』
2011年01月26日発売
ALBUM
ジョシュ・グローバン イルミネーション
ジョシュ・グローバンといえば、典型的なセレモニー・シンガーという先入観を持っていたのだが、これが、じっくり聴いてみるとかなりいい。声楽的な基礎をしっかり持った正統派だという印象を改めて持った。プラス、何かこの人の歌声には、身も凍るような「寄る辺のなさ」があって、それがポップ・スターとしての魅力につながっている。現実世界ではうまく生きられなさそうな免疫のなさや、ファンタジーの過剰が音楽のふしぶしから伝わってくるのだ。

過去にはセルフプロデュースにこだわったアルバムもあったが、本作ではリック・ルービンがプロデューサーとして参加。古きよきアメリカを思わせるノスタルジックな甘い曲が並ぶ。ミュージカル歌手を目指したけどダンスが苦手で諦めた、というキャリアもうなずけるほど、ボーカルの様式美は際立っている。ただ、こうした安心して聴ける「家庭用」以外にも、彼の魅力を知ってみたいという欲もあるのだ。何かを渇望するようなジョシュのビブラートは、あのアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのアントニーの豊潤な狂おしさと、時折びっくりするほど似ているのだからして。(小田島久恵)
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