JAPAN'S NEXT vol.3ライブレポート!
『ROCKIN’ON JAPAN』の誌面での特集企画からスタートしたこの「JAPAN’S NEXT」、通称「ジャパネク」。コンピレーションCD付きの誌面企画はこの7月30日発売の号で第3弾、そして今年1月に産声を上げたライヴ・イベントも今回で3回目を迎えた。新世代のアーティスト、新世代のオーディエンスとともに、新しい時代・シーンを作っていく「ジャパネク」。この日のTSUTAYA O-WESTには出演順にさよなら、また今度ね、森は生きている、パスピエ、東京カランコロン、ceroと、多様な個性が集結した。ライヴのレポートをお届けする。
ライブレポート
■さよなら、また今度ね
トップバッターとして登場したのはさよなら、また今度ね。“瑠璃色、息白く”からキックオフ、菅原達也(Vo)はしょっぱなからフロアを煽り立てる。そしてその勢いのまま“輝くサラダ”、さらに短いMCをはさんで「どんどん行こうぜ」と“2秒で手に入る”へ。スネアロールと刻まれるギターにのせて、アグレッシヴなロックンロールを繰り出す。と思いきや一転してメランコリックなメロディと歌詞が印象的な“素通り”を披露。菅原と佐伯香織(B)のユニゾン・ヴォーカル、そして一気に感情があふれだすようにクライマックスへと上り詰める。ノリと勢いだけではないさよ今の奥行きが見えるような展開だ。続いては佐伯がヴォーカルを務める“ミルクアイス”。性急な8ビートとギターリフが引っ張るパンキッシュなロックチューンだが、佐伯の声が乗ると途端にキュートな一面が顔を出す。「みんなまじめに聴いていただいてありがとうございます」。いつものTシャツ&ショートパンツ姿とは違う佐伯の服装(黒のノースリーブのワンピース)に突っ込む菅原に、佐伯は「ノースリーブだったら人気出るかなと思って」と応じる。そして9月3日に2ndミニアルバム『夕方ヘアースタイル』をリリースすることをアナウンスし、そのレコ発ライヴとして名古屋・大阪で行う自主企画「先輩あざーす!」に、すでに発表されていたindigo la End(名古屋)、ヒトリエ(大阪)に加え、両公演に忘れらんねえよが出演することを発表! 拍手の中、「体中の細胞ふつふつしようぜ!」という菅原のかけ声から“僕あたしあなた君”で後半戦に突入する。ラストチューン“信号の奴”でもハンドマイクでステージ一番前に出てさらにあおる菅原。「今日はどうもありがとー!」と最後までハイテンションに30分を駆け抜けた。
■森は生きている
続いては、東京・武蔵野を拠点に活動をする音楽集団、森は生きているの登場だ。フォーク・ロック、ブルースなどを基調にしながら、その若さからすれば図抜けた演奏力と博識を武器に活動をする6人組。すでにアナウンスされていたとおり、ベーシストの久山直道が一時的にバンドを脱退、この日もサポートベーシストとして五野上欽也が参加してのパフォーマンス。転換からそのままゆるやかに演奏に入っていき、ドラム、ベース、ピアノ、2本のギターにクラリネット。6つの音の重なりが、徐々に大きなうねりとなっていく。フロアタムと執拗に繰り返される岡田拓郎(G・Pedal Steel・Mandolin・Banjo・Cho)のギターリフを道標に、ひたすら高みに向けて進む一本道のインプロヴィゼーション。なめらかに、しかしめまぐるしく景色が移ろっていくなか、演奏開始から15分を過ぎて竹川悟史(Vo・G・B・Syn・Percussion)の澄んだ歌が入ってくると、そこに突如、物語が生まれ出す。初めて観た人は驚いただろう。これが森は生きている、である。いや、正確にいうと、いつの間にか彼らはこういうバンドになっていた。さまざまな曲の断片を重ねながら、ときに軽やかに、ときにトランシーに、ときにサイケデリックに、まるで旅を行くように音が描き出していく感情の波。風が吹いたり、雨にさらされたり、かと思えば晴れ間が覗いたり……まるで世界そのもののような絵が描き出されていく。そんなプログレッシヴな展開にもかかわらず、ふとした瞬間に挿入されるメロディやメンバー同士のアイコンタクトから生まれるグルーヴにはとっつきにくさはない。終わってみれば30分1曲。“煙夜の夢”と名付けられたその曲は、強烈な残響をO-WESTに残していった。
■パスピエ
ヒット中のアルバム『幕の内ISM』を引っさげジャパネクに登場したパスピエ。さよ今同様、このバンドもvol.1以来2度目の出演だ。1曲目、“トーキョーシティ・アンダーグラウンド”がスローなアレンジからギアを上げてスピードアップすると一気にフロアのテンションは高みへと駆け上がる。大胡田なつき(Vo)が「ありがとう」と短く挨拶。そこから“MATATABISTEP”へ雪崩れ込む。オーディエンスからは自然と手拍子が。そしてそのまま彼らのキラーチューンのひとつである “チャイナタウン”へ。大胡田がタイトルをコールすると歓声が起きる。「いくよ」とサビではさらなる盛り上がりを要求。もちろんフロアも拳を突き上げそれに応える。こういう場面を見ると、この1年でパスピエがライヴバンドとして成長をしてきた軌跡を目の当たりにしたような気分になる。MCでは成田ハネダ(Key)が今年のROCK IN JAPAN FESTIVALで、初となるLAKE STAGEへの意気込みを語り、大きな拍手を受ける。そして、新作『幕の内ISM』からポップなメロディが耳に残る“七色の少年”を披露。夏らしい伸びやかなメロディがフロアに響き渡る。さらに「初めてライヴでやる曲です」という紹介とともに鳴らされたのは“アジアン”である。これを待っていたファンもたくさんいたのだろう、初披露とは思えないほどの盛り上がりがフロアを覆う。メロディがポップなのはもちろんのこと、アレンジにはパスピエらしいユニークさが詰め込まれ、大胡田のパフォーマンスもはまっている。今後のパスピエの代表曲になっていきそうな予感を感じずにはいられなかった。そして最後の曲は“S.S”。前作『演出家出演』収録、すでにパスピエのライヴ鉄板曲となっているこの曲でフロアの盛り上がりはピークに。ニューアルバムで手に入れたポップミュージックとしての強さとライヴバンドとしての成長、そして引き出しの多さを見せつける、痛快なライヴだった。
■東京カランコロン
せんせい(Vo・Key)がヴォーカルを取るシングル曲“恋のマシンガン”からスタートした本日のカランコロン。いちろー(Vo・G)がカオシレーターを駆使するこの曲でいきなりフロアを踊らせたあと、「JAPAN’S NEXTへようこそ、東京カランコロンです」といういちろーの挨拶に続いて繰り出されたのは、7月16日発売のシングル表題曲“笑うドッペルゲンガー”だ。ザクザクとリフが進む暴れ馬のようなロックアレンジにのせて、ハンドマイクのいちろーが叫ぶ。そのままたたみ掛けるように“16のbeat”へ。のっけからシングル曲を立て続けに披露、しかも完全にロックモードのカランコロンである。怒涛の勢いで3曲を駆け抜けた後、MCへ。いちろーは本イベントのタイトルにかけて、「僕ら永遠のネクストブレイクで。ライヴハウスでちょっと盛り上がったときから『ネクストブレイク』と言われて」と自虐ネタを語り始めるが、それも結局佐藤全部(B)の『ワンピース』ネタ(ゴムゴムの実を食べて腕が伸びたという謎設定で、長い腕を持参)でうやむやになるという東京カランコロンらしい展開を見せる。いちろーさん、ジャパネクの「ネクスト」はただの「ネクストブレイク」という意味じゃないですからね。次の時代、次のシーンを背負ってほしいという期待と希望の表れですから。そんなMCから、“ラブ・ミー・テンダー”へ。ツイン・ヴォーカルの魅力がふんだんに盛り込まれたこの曲に続いて、最後は“泣き虫ファイター”。ひねくれながらもポップに弾ける、東京カランコロンの妙味が詰まったこの曲で、オーディエンスは一段と大きな歓声を発していた。
■cero
JAPAN’S NEXT vol.3、トリを務めるのはcero。入念なサウンドチェック(そこで“21世紀の日照りの都に雨が降る”を披露!)に続いて「こんばんは、ceroです。やっちゃいます」という挨拶から演奏に入っていくceroの面々。メンバー3人に加え、サポートメンバーを加えた7人編成である。高城晶平(Vo・G・Flute)の合図から“マイ・ロスト・シティー”へ。フルート片手に踊り歌う高城の笑顔が、緊張感のあるアンサンブルのなかで人懐っこく弾ける。ドラム光永渉が岐阜から帰ってきたばかり、サポートベース厚海義朗も神戸から戻ってきたということで、この日は本番前のリハーサルができなかった彼ら。「ここで作っていくリアリティ」という高城の言葉そのまま、客席も巻き込んで展開する2曲目は“マウンテン・マウンテン”だ。器楽的な面白さはもちろんだが、ライヴ・ミュージックとしてのダイナミックなグルーヴもこのバンドの魅力。そして「7月のceroは新曲月間ということで、ここで練習していくぐらいの。ここでみんなで作っていこう」と新曲を連発していく。スローなファンクが夕立の後のような清々しさを感じさせる楽曲“Summer Soul”、ループするビートがじわじわと脳と心を占拠していくような極上のダンス・ナンバー“Elephant Ghost”。どちらも90年代っぽい雰囲気を感じさせながらモダンなグルーヴをもった2曲を披露して、「いやー、練習になる。人前でやるのがいちばん練習になる」と語る高城。自分たちも3、4年「ネクスト」と呼ばれ続けているという彼は「みんなも『俺がネクスト』っていう気持ちで生きていこう。違うか」とゆるいMCで笑いを取る。続いては橋本翼(G・Clarinet)がcero で初めて書いたという曲“Orphans”。あたたかなスウィート・ソウルがO-WESTを艶やかに塗り替えていく。高城がギターを持ち、コードを弾き始める。そこにあだち麗三郎のサックスが追従し、シンバルが弾けると“わたしのすがた”のスタートだ。ぶっといキックの音が気持ち良いcero流ヒップホップチューンで、自然と体が動き出す。最後はおなじみ“Yellow Magus”。華やかなサウンドが音楽の幸福を携えて降りてくるような感覚を覚える。
アンコールの手拍子に応えて、早々にステージに戻ってきた高城。アンコールでお客さんを待たせるのが苦手、という微笑ましい告白を経て、メンバー紹介に続いて披露されたのは“Contemporary Tokyo Cruise”。祝祭感とせつなさ、これぞceroという音の広がりとポップさが同居するこの曲は、熱狂の一夜の終わりにとてもふさわしかった。(小川智宏)
セットリスト
01.瑠璃色、息白く
02.輝くサラダ
03.2秒で手に入る
04.素通り
05.ミルクアイス
06.僕あたしあなた君
07.信号の奴
■森は生きている
01.煙夜の夢
■パスピエ
01.トーキョーシティ・アンダーグラウンド
02. MATATABISTEP
03.チャイナタウン
04.七色の少年
05.アジアン
06. S.S
■東京カランコロン
01.恋のマシンガン
02.笑うドッペルゲンガー
03.16のbeat
04.ラブ・ミー・テンダー
05.泣き虫ファイター
■cero
01.マイ・ロスト・シティー
02.マウンテン・マウンテン
03.Summer Soul
04.Elephant Ghost
05.Orphans
06.わたしのすがた
07.Yellow Magus
(encore)
08. Contemporary Tokyo Cruise