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「うまいよね」って言われるのの、1万倍うれしいですよ。ピアノがエモいって言ってもらえるのって

――(笑)考え方的にはすごくピュアですよね。聴く側の「ああ、気持ちいいなあ」って気づきを与えるその精度の高さが、僕はまらしぃさんの音楽の一番の根本だと思います。

「インストですからね。メロディがすごく素敵な曲は、よりいっそうそれが聴こえるんじゃないかなと思ってたりはしますけど。歌詞があると、みなさんやっぱりそこに共感して、とかあると思いますけど、やっぱりいい曲はメロディが素晴らしいですから(笑)。それはインストのほうが伝わりやすいのかなと思います」

――ああ、そうなんですね。

「メロディしか主張することがありませんのでね(笑)。メロディを聴いて歌詞まで連想させることができたらいいなあと思いますけど、そこは今修行中です(笑)。不思議だなあと思うのは、『この曲は聴いてほしいんです』と思いながら弾いた曲はやっぱり聴いてもらえますし、『この曲は僕がめっちゃ楽しんでるから、みんなもそんなに身構えずに聴いてね』とか思いながらライヴで弾いてたりすると、終わったあと『あの曲はすごく楽しかった』とか言ってもらえたりして。もしかして感づいてもらえてたのかなとか思うと、ちょっとうれしいですよね」

――まさにそういうことだと思います。僕が聴いて強く思ったのは、気のおもむくままに弾いているんだなあと。“粉雪”なら“粉雪”という曲が持っているメカニズムってあるじゃないですか。徐々に感情が高ぶっていって、サビでガツーンとくるっていうドラマ。それを、弾きながら自分の中で感じていて、動く感情にすごく素直な人なんだなあと思ったんですよね。それって要は演奏に再現性がないってことだから、もしかするとピアニスト的にはご法度なことなのかもしれないんですけど。

「そうですね(笑)。楽譜通りじゃない、みたいなことですよね」

――そう言われると、「いやいや、言うても結構ストイックにやってますよ」みたいなところもありますか?

「練習はたくさんしないに越したことはないので(笑)。ただやっぱり弾いてないと下手くそになっていきますから、それだけは避けるぐらいはやってますけど、できることなら毎日ゲームして暮らしたい(笑)」

――ははははは! だから、クラシックピアニストっていうよりも、ポップミュージシャンなんですよ。

「良かった(笑)。恥ずかしくない程度に練習は頑張りますけれど、そこから先はもうテクニックがどうだとかじゃなくて、僕が好きなようにやるので、そんな硬くならずに聴いて下さい、みたいな、そういうとこなんでしょうね」

――だからまらしぃさんのピアノはすごくエモいじゃないですか。

「(笑)ありがとうございます」

――今回のアルバムで言うと“わたしのマーガレット”とか、なんてエモい仕上がりなんだと改めて思いましたけどねぇ。

「『うまいよね』って言われるのの、1万倍うれしいですよ。僕よりうまい人なんていくらでもいますから。ただ、僕のピアノがいいとかエモいとか言ってもらえるのって、僕じゃない誰かだとひょっとしたら成り立たないかもしれないことなので。『きみじゃなきゃダメですよ』って言ってもらえたみたいな、そういう感じがしてすごくうれしいなと思います」

――我々は“千本桜”を弾くことで生まれた、まらしぃの旋律が好きなわけですよ。リスナーとの間で、きっちりエモーションの交感がなされているし、それができるピアニストなんだなあという。そりゃクラシックピアノの先生とはぶつかるんだろうなぁと(笑)。

「『なんでショパンはこの音を入れたか明日までに考えてこい』って言われても、僕ちょっとわかんなかったですから(笑)。まあ、どれが正しいのかわかんないですけど、一貫して思うのは、僕がその曲、その作品が好きだからたぶん受け入れられたんじゃないかと。『ああ、こいつは流行ったから弾いてるんだな』って、観てる人はきっとわかるんですよ。僕、たぶんわかりますんで。そういうところが大きかったんじゃないかなと思います。動画投稿し始めてもう6年になりますけど、プラットフォームがあって、そういう環境がある限り、僕はたぶん遊んでると思います、ずっと。それでまたたとえば10年ぐらい経ったら、『まだやってんのかよ、こいつ』って思われたらうれしいじゃないですか(笑)」

――健全な気持ちで音楽をやる人は健全なリアクションを得ることができるし、この人をちゃんと人気者にしたニコニコ動画のユーザーはやっぱりすごいなという。

「おー、そっちのほうを大きくしてあげて下さい(笑)」

「間違えないように弾きましょう」みたいな感覚をどんどんゼロにできてる

――ちなみに今回のアルバムは、構想みたいなものがあったんですか?

「もともとトヨタさんのCMで使って頂いている楽曲とかを、ひとつの形にしたかったっていうのが根底にあって。僕の中で改めてほんとにやりたい曲を集めた結果このアルバムができたっていう、すごくうれしいアルバムになりました」

――タイトルが『marasy piano world』じゃないですか。すごく象徴的ですよね。

「そうですね」

――よりいっそうパーソナルに弾いた楽曲ばかりなんじゃないですか?

「おっしゃるとおりだと思います。5月の段階でアニソンとオリジナルアルバムとを2枚出したんですよ。その前ぐらいまでは、限られた時間内に録れるかっていう不安であったりとか、もう少しこうやればよかったっていうところがあったりして。そのときも合格ラインのハードルを上げ始めてたんですけど、今回はその時よりももう少し上げることができるようになって。『いいんですけどもう1回やります』みたいなことをやって、『やっぱり最初のほうが良かったです』とか吟味もできて。表現としての幅も少し広げることができたかなあと思います」

――完成度を求めて何回も弾くということではないですよね。

「ミスがゼロでとかそういう話より、ノリとか勢いですよね」

――まらしぃさんが気持ちいい、エモいと思う間の取り方とか強弱のつけ方と、みんなにとって気持ちいいと思える部分の真部分集合っていうんでしょうか。そこをちゃんと射抜こうという考え方を常に持っているし、その精度はどんどん上がっていると思うんです。すごく自信作ですよね、これ。

「ちょっと聴いてほしいなあとは思ってますが(笑)。もちろん前作もやれることは全部やったんですが、今回はやっぱりやれることが増えてますので」

――それを具体的に言うと?

「わかりやすいところで言うと、余裕が生まれました。できあがったものをスタジオに持っていくのは前提として、録ってる時に『間違えないように弾きましょう』みたいな感覚をどんどんゼロにできてるっていうことがまず大きいかな。どうせほっときゃどっかで間違えるんですから(笑)。そんなことより、多少テンポがぶれてようがこのほうがいいとか、ちょっと揺らしすぎたんで気をつけてもう1回やりますとか、そういうことをやりつつ、これですっていう演奏ができるまで頑張れるようになってきたかなあとは思います。細かな表現方法だったりっていうのは単なる手段であって、根底から作りたいものにどんどん近づけてるような気はします」

――基準がディテールっていうよりもでっかくなったんですね。

「そうです! 細かなところももちろん気にしなきゃいけないですけど、全体通して聴いてみてっていう。手を抜いてるわけではなく、そういうのがちょっとずつやれるようになってきたので、もしかしたらこの次はもっといけるかもしれない。そこはまた次の私次第ということで」

――曲に正しく呼ばれた演奏を閉じ込めたいっていうことですかね。

「かっけえですね(笑)」

――(笑)いや、まらしぃさんはそういうピアノを弾こうとしてるように聴こえる。だから、エモーショナルなんですよね。

「たとえば歌詞がある曲を頭の中で流しながら弾くと――すごく客観的な見方をすると、ここは高音がかすれるから抜き気味に弾きますとか、きっとそういう話なんでしょうけど。そういう思惑はなくても、自分で弾きながら自然とそういうふうになるものだなあと。そうやってバッチリやれた時ってやっぱり気持ちよかったりしますので」

――やっぱりそうなんですね。

「歌はどうしても息継ぎとかありますからね。ピアノだったら息継ぎなしで弾くのが可能ですけど、人間だと途中で倒れてしまいますので(笑)。息継ぎしたり感極まるところもあれば、ちょっとぼそぼそ言うところもあればっていう、そういうのをちょっとずつ取り入れたらいいんじゃないかなあとか、試行錯誤してやってた時もありましたね」

――僕は、ピアノ=物語を演出する楽器だと思ってましたけど、まらしぃさんのピアノは、まらしぃさん自身が演技をしている姿に感動するっていう行為なんだと思いましたね。

「確かに、演劇とかに近いかもですね。僕のピアノはそんな高尚なものじゃないですけど(笑)。でも、これからまだ10年ぐらい続いてたら、またぜひインタヴューして下さい(笑)」

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提供:Subcul-rise Record

企画・制作:RO69編集部

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