FIVE NEW OLDのメジャー2nd EP『For A Lonely Heart』が実にいい。今年1月にリリースされたメジャー1stフルアルバム『Too Much Is Never Enough』を経て、ロック/R&B/ソウル/ファンク/ゴスペルなど多彩な音楽性を内包した彼らのサウンドが格段に躍動感と訴求力を増したことも、ベーシスト脱退後の1年間をサポートし続けたSHUN(B)が今作から正式加入したことによるプレイ面での安定感も、今作の眩いばかりの高揚感の理由ではある。が、特に1曲目“Gotta Find A Light”に象徴される通り、「諸行無常」と「孤独」という普遍的な命題をポップの色彩感へと位相変換するフロントマン:HIROSHI(Vo・G)の世界観が、バンドを日々前へ先へと突き動かす大きな推進力であることは間違いない。パンクをルーツに持ちつつ独自の進化を続けるFIVE NEW OLDの「今」を、HIROSHIにじっくり語ってもらった。
インタビュー=高橋智樹
自分のパーソナルな根本的なところで、『前向きなペシミスト』でいること、それがすごく居心地が良い
―― 今回のEPにもツアーファイナル(4月14日@SHIBUYA WWW)のライブテイクが3曲収録されていますが、『Too Much is Never Enough Tour』は最高でしたね。「クール」と「ポップ」と「パンク」がFIVE NEW OLDの音楽を構成する重要な軸であることは十分知ってたはずなんですが、その三つは別個に存在するんじゃなくて、この音楽世界の中では全部一緒にあるんだ――というのが、あのライブで改めてわかった気がしました。HIROSHIさん的にも手応えのあるツアーだったんじゃないですか?
「あの時に改めて、自分たちが持ってるいろんな要素が、全部自分たちのものなんだっていう……あのツアーを通して、自分たちの表現だったり、自分が思ってることに対して『正直に向き合って出していく』っていうのを肝に銘じたというか、そういう感じで取り組んでいたので。それがツアーファイナルで最後、ひとつの形になったかなあと思っていて。終演後にある方が『いい意味で、音楽に魂売ってるなっていう感じがします』っておっしゃっていて(笑)。それがすごく僕は嬉しくて。そう思っていただけていたらいいなあって」
―― 明るいところにも暗いところにも音楽で手が届くんだ!っていう、ある種の全能感みたいなものも感じるライブだったなあと思うんですが。
「うん。自分のパーソナルな根本的なところで、『前向きなペシミスト』でいること、それがすごく居心地が良いっていうのがあって。なかなか根拠なく前向きになれないというか(笑)。辛いこともいっぱいあったりとかすることを一旦、自分でもちゃんと理解して、それをどうしたらいいのかっていうのを考えていこう、みたいなところがあるので。ライブとしても、与えられてる時間の範囲で、やっぱりセットリストの中にもいろんな感情が見え隠れするようになっていくのかなあと思いますね。自分の根本的なものがそこにあるので。悲しみとか怒りとかも、ちゃんとライブの中に表現しつつ、最後はみんなでハッピーに終わる、っていう」
―― 「前向きなペシミスト」っていい言葉ですね。
「昔の経済学者の方が――って言ってもそんなに昔じゃないんですけど――環境問題について考える時に、何かの番組の最後にそういうふうにおっしゃっていて、すごくいい言葉だなあって。環境はどんどん悪くなってるけど、それに対して自分たちがどう向き合っていくのか?っていう。リアリスト、現実主義者っぽいんだけど、そこにちゃんと最後に希望をこめて前に向かっていく姿勢っていう……そこはすごく影響を受けてるなあと思いますね。要は『調和を取りたい』っていうことだと思うんですけど。明るいことも暗いことも、全部バランスを持って成り立っていないと……片方の面だけが突出してしまうと、大事なことを見失ってしまう気がするし。音楽的にも、人生においても、いろんなものを調和を取っていきたい、っていう考えがいろんなところに出てきてるんだと思います」
人生ガラッとは変わらないけどなんかギアが変わったような感じがする、みたいな――そういうものを与えられたらいいなって
―― この間のアルバムは『Too Much Is Never Enough』(「ありすぎてもまだ足りない」)という、自分たちのある種の哲学を掲げたタイトルでしたけども。今回は『For A Lonely Heart』――「孤独な心に向けて」という、さらにまっすぐ踏み込んだタイトルですよね。
「アルバム(『Too Much Is Never Enough』)で掲げた想いと、今回のタイトルは直結していて。こぼれるほどの物に囲まれている中で、大切なものを選び取るっていうことは結局、何かを得たら何かを捨てるっていう行為をしなきゃいけなくて。そうなってくると――断捨離とかミニマリズムとかと同じだと思うんですけど、最終的には『己と向き合う』っていうところに至ってくるなあと思って。誰とでもアクセスして繋がれる時代なのに、孤独と向き合っていかないといけない。そういう中で、諸行無常なところに改めて興味を持ったというか……そういう意味で、全部直結はしていて。前回のアルバムで得たことから、『結局は諸行無常だな』っていう。人はひとりで生まれてひとりで死んでいくものだ、っていう。言葉だけを取るとすごく悲しいことのように聞こえるかもしれないけど、それが本質だとしたら、『自分は独りぼっちだ』ってそこまで思わなくても済むんじゃないかと思って。『すごいたくさんの人に囲まれてるあの人も、結局は孤独を感じる時があるんだ』っていう。忘れる瞬間もあるけど、本質的には孤独なんじゃないかな?って。それについて、『僕はこう思うけど、みんなはどう思う?』っていうことを、この作品では伝えてみよう、っていうところに至っています」
―― 1曲目の“Gotta Find A LIght”とかは、ダンサブルなビート感の中で《We are all alone/So you are not the only one(誰だって孤独なものだし/そう思ってるのはお前だけじゃないんだよ)》と投げかけてくるのが印象的で。
「この曲はやっぱり、自分たちがここ数年間ベースにしてきたゴスペルのアプローチを受け継いではいるんですけど。“By Your Side”とか“Ghost In My Place”にあったような多幸感だけじゃなくて、本来ゴスペルっていうものが持っていた神への賛美だったり、救済に対してっていうか――それってやっぱり、辛いことがあるからそこに救済を求めるわけで。そこってわりと本質的だなって。だから、みんなでその歌を一緒になって歌うし、そこに救いを求めたりするし。『私たちは孤独だ』と歌いながら、それを一緒に、ゴスペルを用いたコーラスワークで歌うことによって、『私は孤独ではない』『独りぼっちではない』ことを知る、みたいな。音楽的にも、本来持っている本質的な中身のところも、この曲の中では取り入れることができたんじゃないかなっていうふうに思ってます」
―― 《Why are we always/Looking for something(どうしていつも何かを探しているんだろう?)》っていうシリアスなリリックが、不思議とストンと胸に入ってくるっていうのは、FIVE NEW OLDならではのマジックですよね。
「わりとそういう毒っ気のあるものは、昔から結構好きだったので。『すごい明るいのに、すごい毒吐いてんなこの人!』みたいな(笑)。英詞を使っているのもあって、結果的にストンと入ってくれるっていうのは嬉しいなと思います。僕らがずっと掲げてる『ONE MORE DRIP』、聴く人の時間に彩りを与える、華を添えるっていうコンセプトがあるんですけど。アルバムをリリースしたりして、僕たちの楽曲の数も増えてきたし。次のプロセスとして、人生に対しても華を添えたり寄り添ったりっていうところまで、僕たちとしては用意してるよ、っていう。だから、踏み込んできてくれたら、そういうところがちゃんと伝わるようにはなっているし。啓蒙とまでは行かないですけど、音楽が持っているものを――ふとした瞬間に、自分の人生観を一段階上げてもらえた瞬間っていうか、人生ガラッとは変わらないけどなんかギアが変わったような感じがする、みたいな――そういうものを与えられたらいいなって」
僕たちって、いろんな要素の音楽の顔があるんですけど、その『掛け合わせ方』が新しくなったんですよ
―― 2曲目の“Youth”のポップパンク感というかエモ感は、FIVE NEW OLDのルーツというか原点が垣間見える感じもありますけど、でも原点そのままの曲ではないっていう。
「そうですね。今回の作品に対して、制作的に『自分たちが成長したな』って感じられた点は……僕たちって、いろんな要素の音楽の顔があるんですけど、その『掛け合わせ方』が新しくなったんですよ。“Gotta Find A LIght”では、多幸感だけじゃないゴスペルの表現っていうものを――ゴスペルを使ってシリアスなものを描くことができたっていうのがあって。“Youth”に関してはa-haの“Take On Me”みたいな、ドラムマシンのティッコッ、ティッコッ、っていう感じに対してこのメロディを入れてたんですよ(笑)。それに対して、『自分たちが持ってたオルタナティブな要素を入れたらどうなるんだろう?』って。パンクだった曲に80sの要素を入れたんじゃなくて、80sっぽかった自分の曲に対して、アンプを使わずにファズの音を直で録音した鈍い、すごく近い音を入れてみるっていう、ポストロックの実験的な音を入れてみたりとか――」
―― なるほど。位置関係が逆なんですね。
「そんなのは別に聴いたところで、すごいマニアックな人しか『おおーっ』ってならないんですけど(笑)。でも、そういうことをやりつつ、自分たちとしては『誰が聴いても間口が広いもの』が表現できたと思うし。あと、“Melt”に関しては、自分たちが持ってるシティポップな部分に対して、間奏の部分でWATARU(G・Key・Cho)が新しいアレンジで、エクスペリメンタルジャズみたいな――Robert Glasperとか、今だったらローファイな感じでTom Mischがやってるようなこととかを入れてくれたりして。ヒップホップな部分もあるし。掛け合わせ方がどんどん面白くなっていったんですよね」
―― 時代に左右されない根源的な部分を突き詰めている一方で、時代の最先端の音楽を呼吸している表現でもあって。で、ミックスでは昔ながらのアナログテープを使用しているという一面もあって。
「デジタルでいいところはデジタルをちゃんと使って――そういう意味でもNEWとOLDな感じでやってるんですけど。レコーディングに費やせる時間も限られているので、アナログとデジタルのいいところを取りつつ、しっかりミックスに時間をかけたりっていう部分では古いプロセスを取ったりしてますね。面白いのが、新しいテープに1回目に入れた音って、2回目以降の音と全然違うんですよ。“Gotta Find A LIght”では真新しいテープを通したんですけど――普通テープを2回通したら、1回目と2回目では音は違うんですけど、それ以降はあんまり変わらないものなんですよ。それが新しいテープだと、音が4回変わるんですよ。それだけ情報量が入るスペースがあるからなのか……1回目はわりとあったかい音になって、2回目はレンジが広がる、っていうのがだいたいのプロセスなんですけど、そこからさらに3回目、4回目って聴こえ方が変わったりして。恐ろしい世界だなあって(笑)」
―― デジタルの場合は、そこは論理的には一緒ですもんね。
「論理的には一緒なんですけど、エンジニアさんがおっしゃってた話だと、パソコン自体も動作が不安定だから、1回目に再生した音と2回目の音は実は違うっていう――厳密に波形を見ると、確かに違うんですよ。だから、みんなが何回も何回も聴いている音だって、配信されているもの、CDで聴いているものも、同じ情報を受け取っているかもしれないけど、動作している機械の環境によって、そこには微妙な違いがあるんです」
同じことを繰り返しているようで、実は日々微妙に変わっていってるはずだし。そこもやっぱり諸行無常で。同じものは絶対にないっていう
―― よく「電圧が安定している夜中の時間帯に作業を」っていう話が、ミュージシャンとかエンジニア界隈では出ますけど、切実な問題なんですね。
「そういうのがあるみたいですね。でも、音楽の場だけじゃなくて、そういうことってみんなの生活の中でも起きてると思うんです。同じことを繰り返しているようで、実は日々微妙に変わっていってるはずだし。そこもやっぱり諸行無常で。同じものは絶対にないっていう。ライブだってそうじゃないですか。WWWであのライブをもう一回同じようにしたとしても、来れる人/来れない人がいたりするし、僕の声の調子も絶対に違うし。無意識の中で、いろんなことが常々変化を繰り返している、っていうことは何に対しても言えるんじゃないかなって。同じチェーン店でも味が違ったりするじゃないですか、マニュアルがあるはずなのに(笑)」
―― そういう揺らぎも、僕らの一部なんでしょうね。
「うん。それを捉えるのがすごく怖かったところもあるし。パフォーマンスをする人間として、常にいいものを、いいものをっていうのはあるけど、やっぱりコンディションが良くない時もある。それを『どうにかして良くしなきゃ』とか、いろんなことがあるんですけど……でもやっぱり、それも日々変わっていくものなんだ、って思うと、心にゆとりができるというか。『独りぼっちだ』っていうことも、ちょっとずつ日々変わっていくから。それに向き合った時に――すごく寂しいと思っていたものが、実はそうじゃないと気づける日が来るかもしれないし。やっぱり全部繋がってるんじゃないかなあって」
―― 僕はFIVE NEW OLDのインタビューをさせていただくのは3回目なんですけど、時を経るごとにHIROSHIさんが、思考を突き詰めることによって解放されてきてるなっていうのは感じますね。
「そうですね。前はそれを何とかして言葉にしなくちゃ、っていうふうに思ってたんですけど。新しくメンバーとしてSHUN(B)くんが入ってくれたことで……僕は超感覚人間なんですけど、彼はわりと理系タイプというか、曲を作る上でも構造を見て書いてくれたりするので。それまで『自分が理論的なところも担わなきゃ』って思ってたところからも解放されたし。そうすると、僕はより感覚的に、感情とか表現に対して向き合うことができるようになったから。それがひとつ大きなきっかけだったかなあって」
―― ライブを観ていても、SHUNさんが入ってくれた意味合いは大きいなあって思いました。
「天使みたいな人です。理系の天使(笑)。みんなで一緒にいる時間も長いけど、すごく楽しいし、みんな仲良いんで。もともとは本当に、メンバーが抜けた後に『代わりで誰か助けてください』っていう時に、SHUNくんがまず手を挙げてくれて、っていうところから始まってて。1年間ずっとあの4人でやってきたので――『これを当たり前に思っちゃいけない』と思いつつも、これがバンドにとっての当たり前みたいなところがあって。だからこそ一緒にいてほしいっていう思いが強かったので。『メンバーになります』って言ってくれた時は『おっ!』ってなったんですけど、そこで大きく何かが変わったっていうよりも、SHUNくんが助けてくれた1年間のあのバンドの雰囲気をそのまま引き継いでるっていう。それを僕たちは、ファンの方々に対してはっきりアナウンスできるようになった、というのが一番大きいかなあと」
―― 9月30日からはワンマンツアー「ONE MORE DRIP」もスタートします。ファイナルの東京公演は恵比寿LIQUIDROOMで。LIQUIDROOMで観るFIVE NEW OLD、楽しみですね。
「ねえ? 僕もやったことないんでワクワクなんですけど。全国ワンマンツアーっていうものが初めてなので。初めて行くところの人も、ギュッと濃い中身で、僕たちのライブを楽しんでもらえたらいいなって思うし。来た人の価値観――っていうと話が大きくなっちゃうんですけど、ライブを観終わった帰り道に、いつもと景色が変わっているような感覚とか、そういうものが届けられたらいいなあっていうふうに思いますね」
Gotta Find A Light 【Official Music Video】
リリース情報
メジャー2nd EP『For A Lonely Heart』2018年9月19日発売
【CD】(6曲収録)TFCC-89659/¥1,800(税別)
収録曲
1. Gotta Find A Light
2. Youth
3. Melt
"Too Much Is Never Enough Tour" at SHIBUYA WWW / 2018.04.14
4. Gold Plate
5. Liberty
6. Halfway Home
【Vinyl(10inch)】(3曲収録)TFJC-38032/¥1,500(税別)
1. Gotta Find A Light
2. Youth
3. Melt
ライブ・イベント情報
FIVE NEW OLD メジャー2nd EP『For A Lonely Heart』リリース記念イベント9月23日(日)MINT神戸 2Fデッキ 14:00~
内容:フリー・ライブ+購入者限定サイン会
ONE MAN TOUR "ONE MORE DRIP"
9月30日(日)仙台 enn 2nd
10月8日(月・祝)金沢 vanvan V4
10月14日(日)札幌 Sound Lab mole
10月26日(金)高松 TOONICE
11月1日(木)広島 Cave-Be
11月2日(金)福岡 DRUM Be-1
11月8日(木)名古屋 CLUB QUATTRO
11月10日(土)梅田 TRAD
11月18日(日)恵比寿 LIQUIDROOM
[チケット]
前売 ¥3,500 / 当日 ¥4,000(D代別)
海外イベント情報
"Cat Expo 5"
11月24日(土)、25日(日)タイ バンコク Wonder World Extreme Park
出演:cinema staff / FIVE NEW OLD ほか
提供:TOY’S FACTORY Inc.
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部