ユアネスが紡ぐ物語はどこから来て、どこへ向かっていくのか? 前作『Ctrl+Z』と対になる新作EP『Shift』に込めた想い

ユアネスが紡ぐ物語はどこから来て、どこへ向かっていくのか? 前作『Ctrl+Z』と対になる新作EP『Shift』に込めた想い

報われないシチュエーションが結構好きなのかもしれないです(古閑)


――互いを知るからこそのバランスですね。ここから楽曲の話に入るんですが、1曲目“変化に気付かない”は前作同様、メロディなしのポエトリーで構成されているものですね。

古閑 前作との一貫性を持たせるテーマのもと、ポエトリーは前回に引き続き最初に入れてまとまりを持たせようとしました。

――ポエトリーの中では、女性が「昔と比べて変化していない」という指摘を元カレから受ける、というシーンが描かれています。でもタイトルは“変化に気づかない”なんですよね。本当は変化していたということ?

古閑 これは聴く人に捉え方を任せていて。変化に気づかないのは相手なのか、私が、私自身が変わっていないことに気づいていないのかっていうところですね。あとは「Shift」が「変化」という意味で、Shiftの本当の意味に気付いていない人たちが結構いるっていうのもあるので。

――なるほど。そしてそのまま2曲目“凩”にシフトしていきます。前作『Ctrl+Z』の“あの子が横に座る”では男性目線、“Bathroom”では女性目線と男女の感情を曲単位で書き分けていましたが、この楽曲の中では「君」や「あなた」の人称変化から察するに男女の感情を同列で描かれているように感じました。

古閑 これも聴き手に色々捉えてほしいなと思ったし、そっちのほうが面白いと思ったので。でもその余白を意識して書いたわけではなかったので、書きたいように書いたらこうなったという感じですね。自然に出てきました。

――自然に出てくるドラマチックなセンチメンタリズムの源泉は、古閑さんのどういったところにあるんですかね?

古閑 うーん、なんだろうな……。

田中 ロマンチストだと思う。観る映画とか、読む小説とかもそうだし。

黒川 感じ方が女性的なところはすごくあると思います。だから歌詞の中で出てくる男女の会話でも僕だったら考えられない言葉遣いを彼は使うし、そういう面から自然と出ているんだと思います。

古閑 普段からどん底に叩き落としつつ自ら這い上がってこい的な曲が結構好きで普段から聴いているので、CIVILIANさんとか。あとは鬱ゲーと呼ばれるゲームや映画とか、そういう報われないシチュエーションが結構好きなのかもしれないです。

――“変化に気づかない”のMVで言えば、あの男女がよりを戻す展開にも出来たと思うんですよ。でもその幸せな道を選ばなかったのは、古閑さんのそういった面から生まれた展開だったんですかね。

古閑 やっぱり世の中、報われない方が多いと思うんですよ。ハッピーエンドはみんな歌っているので。だったら俺は……。

田中 ブルーエンド?(笑)。

古閑 そうそう(笑)。

――話が“変化に気づかない”に戻ってしまった(笑)。“凩”は初期の楽曲とのことですが、このタイミングで音源化した理由は?

古閑 簡単に言うとアレンジに納得がいっていなくて出すタイミングを逃がし続けていて、ライブをしていくうちに段々とアレンジの完成形を見据えることができてきたので、このタイミングで出すことになりました。昔からライブで演奏している分、お客さんにも音源化を強く希望されていましたし。


聴く人が身を置く環境によって、その言葉がよりよく響くように届けられたらいいなと思っています(古閑)


――3曲目の“少年少女をやめてから”は完全に新曲ですか?

古閑 前作を出したあとくらいにできた曲ですね。ストーリー性としては若干の統一性は持たせているんですけど、サウンド的にはベースとドラムにグワっとやってもらおうかな?と思って作りました。歌詞は逆に無機質な感じにして、色んな人が捉えやすいようにはしています。

――これまでになく漢字が多いですよね。

古閑 ボーカル殺し(笑)。

黒川 覚えるのが大変でした! 歌う分にはキツくなかったんですけど。

古閑 思想だったり理想だったり愛想だったりね。バラバラやんけ!みたいな(笑)。

黒川 楽しかったですけどね。楽器がバチバチやっている曲は久し振りだったので。

――ベースがかなりうねってますしね。

田中 “Bathroom”以降くらいから、流行りを気にしているわけじゃないんですけど、自分達がやっている音楽にはベースががっつり動き回らないほうが合うんじゃないかな?と思い始めたんです。だから今まで結構抑制していたんですけど、この曲で「引き出しのもの全部出せ!」っていう注文がきたのでがっつりやりました(笑)。まだ引き出しいっぱいあるんですけどね。出すべきところで出していきます。

――“T0YUE9”はインストですね。言葉をなくした理由はあるんですか?

古閑 次の“夜中に”へ向かって空気感をガラっと切り替えるための何かが欲しいなと思って、ライブで言えば一旦曲が終わって、 “夜中に”に行けるようなSE風の曲を作ってみようと思ったのがきっかけです。

――確かに“夜中に”と“日々、月を見る“は鍵盤の音も入っていますし、バラード基調で前半の3曲とは一気に景色が変わりますよね。

古閑 今作の曲順を考えた時に、1曲目から始まって夕暮れっぽい“凩”を経て夜へ向かうというように、“日々、月を見る”に向けて陽が落ちていくようにしたいという構想があったんです。あと、“Bathroom”が自分の中で「いい曲書いたな」と思える強い曲で、それを超えるためにはどういうアプローチをしたらいいか?と考えた時に、音数を減らした戦い方をしようと思って。それで、音数を減らしてボーカルの良さを活かしたピアノのバラードに仕上げました。本当に対“Bathroom”で作った感じです。

――勝敗は?

古閑 五分五分ですね。

全員 おー!

田中 でも、どっちの良さもあるから戦いになってない気もする(笑)。

――“夜中に”と“日々、月を見る“は転調もあってよりドラマチックに展開していますが、これも対”Bathroom”の延長ですか?

古閑 いや、黒川に言われました(笑)。

黒川 音数の面でも引き算が多い曲だったので、デモで聴いた時に淡々としているなと思っていて。最後はドラマチックにしたい!と思った時に、僕の数少ない音楽知識の中で「転調」しかなかったんですよね。

全員 (笑)。

黒川 転調の仕方や幅は古閑に任せて、本当に「やってみよう」って言ったら案外型にハマったっていう感覚ですね。歌っていても楽しいです。

――“日々、月を見る”の歌詞を見て思ったのが、文章のなかに「」を多用しているなということだったのですが、これはどういう意図で差別化しているんですか?

古閑 これは思わず零してしまうような言葉を「」を使ってセリフにすることによって、「ああ、それ言いたいんだよね」と思えるものがあればいいなと思っていて。《「あぁ 何て世界だ」》って普段なかなか言えないじゃないですか? それを僕らが歌の中で括弧を付けておけば、聴く人が「こういうことも歌ってくれているんだな」って思ってくれたり、色んな捉え方をしてくれたらいいなと思って付けていました。

――ユアネスの曲には、総じて「聴き手に解釈を委ねる余白」がありますね。

古閑 たとえば「愛してる」という言葉ひとつでも聴く人の状況や環境によって響き方は違ってくると思うので、僕らは聴く人が身を置く環境によって、その言葉がよりよく響くように届けられたらいいなと思っています。僕自身、曲のタイトルの意味とかも別にメンバーに言わないので、それぞれが思ったように弾いてもらって自由にやっていけば、バンドの音楽もより幅広くなっていくと思っています。

――最後に……主人公の男女の話は、今作で完結ですか?

古閑 わかんないですね……。

黒川 俺らもわかんないですからね(笑)。でも、終わらせるっていう選択肢もあるもんね。

古閑 そうだね。まだ続くかもしれないし、逆に違うアプローチをするかもしれない。それも聴き手の方々の楽しみのひとつだと思います。


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