トップハムハット狂、スペシャルインタビュー! ネットラップから未知の未来へと漕ぎ出す異才の素顔に迫る

トップハムハット狂、スペシャルインタビュー! ネットラップから未知の未来へと漕ぎ出す異才の素顔に迫る - 『Mister Jewel Box』『Mister Jewel Box』

自分自身よりも作品が有名になるなら、それはクリエイターの本懐です

――わかりました。では新作『Jewelry Fish』の収録曲について、具体的にうかがっていきます。“Frisky Flowery Friday”は、夏らしいトロピカル感が心地よい曲調になっていますが。

「これは、以前からギターを弾いてくれているじょんがら武士さんを自宅に招いて、一緒に作りました。タイトルに入っているFlowery Fridayは、直訳すると華金になるんですけど、YouTubeの配信ライブを金曜の夜8時に決めてやっているので、それにちなんで付けています。ちょうどこの曲を作っていた時期が、4月の自粛しましょうというムードの中だったので、ちょっとコロナの影響を受けたリリックになっていたりするんですよね」

――なるほど。2曲目は、先ほども話に出た“Mister Jewel Box”ですが、《自分の生み出したものに殺される/そんなの芸術家として本望だろう》というパンチの効いた歌詞の意図について、教えてください。

「この曲を作ったきっかけが、以前の“Princess♂”という曲で。それがバズってしまって。MVのアニメーションに出てくるキャラクターが可愛い、という声が多かったんですけど、自分自身よりも作品が有名になってくれる、という体験をしたんです。クリエイターとしては、それこそ本懐なんじゃないの、という思いがありまして。だから、この歌詞だけを読んだらパンチが効いているんですけど、噛み砕いて聴いたら、ネガティブじゃなくポジティブな言葉なんですよね」

――では次に、先頃MVも公開された”Stress Fish”です。こちらは、実写と幻想的なCGグラフィックを融合させた映像がユニークでした。

「あのー、魚が好きなんですよ。見るのも好き、釣るのも好き、食べるのも好きなんですけど、魚もストレスを感じる、という研究結果が報告されているんです。そこからいろいろ妄想していって、魚がいる水槽が、電車だったらおもしろいなって思って。僕は満員電車が苦手なんですけど、魚が満員電車の中にいたらストレス抱えちゃうな、ということを考えたりして。SASUKEくんにお願いしたところ、自分がイメージしたとおりのトラックが来て。これはやるしかないな、と思いました。結局は、ストレスフリーで行きたいね、というメッセージですね」

――“La Di Danimal”という、おもしろいタイトルの曲もあって。調べてみると、「la di da」はキザな、とか気取った、という意味らしいんですが、今回の6曲の中で最も熱量高く、ぶっ飛んだ曲ですよね。

「そうですねえ。やっぱり夏の高揚感として、クレイジーな熱さもあるかな、と思って作りました。これはあまりメッセージとしての意味はなくて、自分のバイブスを表現できたらいいなと思ったんですけど、リリックを読んでみても、自分でもよく分からないですね(笑)。昔はよく、こういう変なフロウをしていたんです。それを望んでくれている人もいるかな、と思って」

――弾け過ぎてネジが飛んじゃってる、みたいな。この後の2曲が、わりと落ち着いたテイストじゃないですか。だから、ここで高揚感のピークを作っておくのは、抑揚があっていいですね。で、5曲目の“YOSORO SODA”は、航海に乗り出してゆくようなワクワク感と、同時に孤独な哀愁も漂わせていると思いました。

「まさにそうで、今までは、ニコラップとかの狭いコミュニティの中で活動してきたんですけど、新しいレーベルから作品をリリースするに当たって、より多くの人に聴いてもらったりするかなあ、という予想をしていたんです。そこに向けての意思表示、というほどのことでもないですけど、いつまでも同じコミュニティの中だけにいたらダメだな、という自分の気持ちを整理する曲みたいな」

――深いですね。90年代ウェッサイのクルージング感と『ひょっこりひょうたん島』が出会ったような、スムーズなんだけど味わい深い、トップハムハット狂ならではのテイストになっています。

「ありがとうございます(笑)。でも確かに、今これをやると新鮮、みたいなグルーヴ感は意識しました。自分も好きなんで」

――で、最後はドラマティックに和の情緒へと着地していくような“Lofi Hanabi”です。

「そうですね。やっぱり日本人なんで、日本っぽく締めたいな、という気持ちはあって。《天高く明瞭に君の目に映るような Hifi Star じゃない/それに比べれば曖昧な俺は Lofi Hanabi》というリリックを書いて、みんなに見てもらうようなでかいスターではないけれど、小さな街の中で見てもらっている花火だ、という僕の現状認識を表現しています。生きていくにはたくさんの人が関わりますけど、みんながみんな、自分で思うベストの展開を迎えるようにはならないじゃないですか。人生って、すげえ難しいなって思って。花火みたいに、パンッ!というふうにはいけないなと」

――花火と同じように、一時の感情も儚いもので。それを記録しておくためのツールとして、音楽は有効だと思うんですよ。感情を吐き出しておきたい、音楽に刻みつけたいという気持ちはありますか。

「言われて気づいたんですけど、自分が意識していないだけで、ここにはネガティブな感情が入っていますね。昔、FAKE TYPE.でやった“ツキ”という曲で、《ただ気持ちよく歌って死にたいだけの自己満と自分勝手のハイブリット》というラインを書いたんですよ。そこだけ切り取ったらクズもいいところなんですけど、それでも聴いてくれる人がいるというのは、本当にありがたいことだな、と思って」

――だからこそ、聴いてくれるんだと思うんですよ。ネガティブな感情もしっかり形にすることはとても大事で、そこにリスナーが共感して救われることはあると思います。“Lofi Hanabi”はそれを引き受けてくれた曲だと思うんですよね。トップハムハット狂を、深い部分で信頼できる曲なんです。

「おお……嬉しい。ありがとうございます」

根本的に、自分が好きなことしかやりたくないという気持ちがあって、やっぱりそこが大きな判断基準

――例えば、駅前でサイファーしてクラブで力をつけて、というラッパーがいれば、インターネット上のプラットホームで活躍するラッパーもいて。そういう、スタイルも出身も多様化する今日のヒップホップ/ラップシーンを見つめて、どんなことを思いますか。

「そう考えると、ラップもいろんな場所で出来るという意味では盛り上がっていて、嬉しいなと思います。やっぱり僕自身、ラップがすごく好きなので。ただのフラッシュアイデアなんですけど、今はVTuberとかも流行っているじゃないですか。そういうところで“Princess♂”とかを使って、何かおもしろいことを出来ないのかな、みたいなことを考えたりはしますね」

――へえ。自分自身の顔や姿を出さなくてもいいんですね。海外のファンも増えているというところで、海外でのライブ活動についての希望はどうですか。

「実はそれ、話があったんですよ。マルティニークっていうカリブの島の人からオファーが来ていて、4月にイベントが行われる予定だったんですけど、それもコロナの影響で中止になっちゃって。また次は呼んでください、っていう連絡はしました」

――そうだったんですね。きっとまた、チャンスは巡ってくると思います。こういうふうになりたい、という、ロールモデルのような存在はいますか。

「僕は、音楽としてのヒップホップ/ラップが好きな人間なので、いわゆるカリスマラッパーのようにはなれないです。インターネットを使ったり、他の表現分野で流行っていることを取り入れたりして、自分の得意なことを伸ばしていけたらなあ、と思います。根本的に、自分が好きなことしかやりたくないという気持ちがあって、やっぱりそこが大きな判断基準になっています」

――これから先、どんな活動をして我々に何を見せてくれるんだろう、と思うんですけど、何をやるにしても必ず好きな方を選ぶ、という点は信頼していていいわけだ。

「そうですね。なんか嫌々やってるなー、ということは0パーセントだと思ってもらって、大丈夫です」

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