うつの再発でライブを中止してから約1年後、コロナ禍の真っ只中で突然リリースされた6曲入りミニアルバム『Bored? Yeah, Me Too』は強力だった。前作までのロックンロール回帰の作風とはまったく変わってブラスト、2ビートを鷲掴みにした最強のKen Bandサウンドだった。『Bored? Yeah, Me Too』というタイトル通り、コロナ禍での停滞した空気に逆襲を食らわせるカウンターパンチだった。
そして、それは予告編にすぎなかった(いや、それは言いすぎだな)というか、ランチメニューだったというか(こっちのが近いな)、そう気持ちよく言い切ってしまえる最高のフルアルバムがこの『4Wheels 9Lives』だ。
前作でその奔放な実力を見せつけた新ドラマー・えっくんのドライヴが効いたビートが、まずサウンドのボルテージとスピード感を上げている。そのうえでさらに一体感を増したKen Bandとしてのフォルムがどの曲もとにかくかっこいい。曲のバリエーションという意味ではここ最近のアルバムの中では絞った感じかもしれないが、そんなことにしばらく気づかないぐらい、聴きながら乗りこなしてるだけで気分最高なアルバムなのだ。
そのあとに歌詞の訳詞を読んだら胸が熱くなるのはファンなら予想しうるところだろう。
この前だけを見て全力疾走する感じはアルバム『Four』に近いかもしれない。でも、そのうえで紛れもなく2021年の最新のKen Yokoyamaのアルバム、それが『4Wheels 9Lives』だ。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=神藤剛
時間がすごくあったから、楽曲自体を練れたし、チョイスできた。あとは、ドラマーが変わったことが大きいです(横山)
――前回のミニアルバム『Bored? Yeah, Me Too』は、すげえかっこいい作品で。さらに、その時のインタビューで『Bored?〜』と今回のフルアルバム『4Wheels 9Lives』を同時に作っているという話が出てきて。とにかく曲ができているから、それをふたつのアウトプットに分けたっていう。だから、今回のフルアルバムも相当なもんになるだろうなって思っていたけれど、案の定、めちゃめちゃかっこいい。横山健(Vo・G) ありがとうございます。
――まずは、今作ができた経緯を話してもらえますか。
横山 えっくん(松本英二)が2019年の頭に加入して、ライブを始めたんですね。それから新曲を作っていって、2019年の12月にフルアルバムを録ろうって計画していたんですけど、僕の体調不良でレコーディングが飛びまして。ただ、思いのほかリカバリーがよくて、すぐスタジオワークには戻れたんです。でもライブは、飛ばしちゃったものもあるのでできない。だから、とにかく曲を作っていこうってなった。そうすると曲が増えてしまって、シングルとアルバム、どちらも作るのはどう?ってなったわけです。でも、今度はコロナですよ。だから、さらに曲を作っていって、シングルをミニアルバムにしちゃおうぜっていうことになった。で、ミニアルバムを去年の9月にリリースして、そのリリース直後にフルアルバムを録り始めました。曲はずーっと並行して、一緒くたに作っていた感じです。
――なるほど。復活の勢いみたいなものと、ライブがコロナのせいでできないから制作に打ち込めるっていう部分と、両方が相まって、量、質ともに、とんでもないアルバムになったっていう感じなんですね。
横山 とにかく時間があったので、曲はいっぱい作れましたね。僕らは、作ったら全部録るタイプなんですけど、珍しくボツにもしたし。まあ、いつもはギリギリでしか作らないっていうのもあるんですけど。今回は、この曲好きだけど、入れるとイメージが散漫になりそうだからのちにとっておいて、今揃っている曲の延長線上の曲を作んない?っていうやり取りもできたんですよ。
――量が増えた意味はわかるんです。それだけではなく、一段とかっこよくなった理由を説明してもらってもいいですか。
横山 これも、時間がすごくあったからですね。楽曲自体を練れたし、チョイスできたし。あとは、ドラマーが変わったことが大きいです。
この際だからっていうのでもないんですけど、新しいKen Bandを意図的に作り出そうとしているところもあったのかなって(南)
――えっくん的にはどうですか?松本英二(Dr) 個人的には『Bored?〜』と『4Wheels〜』はふたつでひとつみたいに、上下巻みたいに捉えていて。だから、『Bored?〜』から『4Wheels〜』になって変わったかっていうと、あんまり差はピンとこないんです。でも、『4Wheels〜』は、僕のコーラスパートが増えています。
――すごくフィーチャーされてるよね。
英二 なんかわかんないけど、ブースに入ると盛り上がっちゃうんです(笑)。
横山 えっくんのコーラスは完全に武器になりましたね。作る曲のアレンジも、それがあるとないとで変わってくるんですよ。僕自身もハイスタでコーラスたくさんやっていたし、コーラスグループの音源を聴くの好きだし、結構コーラスが好きなんです。えっくんのコーラスのおかげでやれることの幅が広がったっていうのは、結構デカいですね。
――えっくんは、ちょっとチャイルディッシュなキャラもあるじゃない。Ken Bandのサウンドにこういうコーラスが入るって、予想もしていなかったけど、入ると面白い。いいですね、すごく。
英二 僕、チャイルディッシュなんですね、なるほど。初めて聞きました。
横山 うちのフランキー・ヴァリです(笑)。
――南さんはどうですか? この2作におけるサウンドの変化、音楽の進化について。
南英紀(G) なんか、この際だからっていうのでもないんですけど、新しいKen Bandを意図的に作り出そうとしているところもあったのかなって。もちろん、メンバーチェンジもあったけど、しばらく活動もできなかった状態から新たに世の中に出ていくわけじゃないですか。別に前のKen Bandがどうこうっていう話じゃないんですけど、そこで新しいものをっていうのも、もしかしたらあったのかもしれないですね。
――Junさんはどうですか。
Jun Gray(B) メンバーチェンジって、やっぱお客さん的には不安になったりとか、マイナスなイメージにとる人も多いじゃないですか。でも、やっている側としては絶対プラスに変えてやんないとって思っているわけで。入ってきたえっくんとしては、1年間ライブを続けてきた中で、いろいろ課題とかも出てきて、煮詰まったりしたのかもしれないけれど。でも、そのあと健の体調不良があって、そのまま新曲作りにドーッて入っていったので時間がたっぷりできて。そこで本人も課題をクリアしていったところはあると思うんです。そうやって、えっくんがいろいろできるようになるとこっちも、「ああ、そういうドラム叩くんだ」、「俺はベースこうしよう」って面白いことを思いついたりできる。そういう相乗効果もありました。
圧倒的に横山節のメロディのアルバムにしたいっていう思いが強かった(横山)
――『Bored?〜』と『4Wheels〜』は、同じ時期に生まれた曲たちをふたつの作品に分けたっていう言い方もできると思うんです。具体的にはどう分けていったんですか?横山 なんとなく目安として、フルアルバムには12曲、ミニアルバムには6曲入れようってみんなで話したんですよ。で、12曲になった時に映える曲と、6曲になった時に映える曲っていうのを意識して分けましたね。やっぱミニアルバムのほうは曲数が少ないから、バラエティに富んでても散漫にはならないと思ったんです。でもフルアルバムは12曲なので、まあ、変わり種の具合にもよるけど、うまくハマる場合とハマらない場合がある。だから、フルのほうには整合感を求めていたのかもしれないですね。音、曲調、テンポとかでも、通して聴いて納得がいくような雰囲気を求めたのかもしれないです。
――今回のフルアルバム、同じ方向を向いた曲を畳みかけているっていう意味では意外とこれまでのアルバムになかった感触があるんですよ。そんなことない? 短いパンクソングばかりだし、歌詞も、そんな奇をてらったものってないじゃない。
横山 そうかもしれないですね。やっぱね、いつも僕はアルバムを作る時に、絶対に遊びっぽいものを入れたくなるんですよ。今回はそれがないんですよね。なんか、まとめたかったんだろうなあ。
――これは俺の勝手な仮説だけど、なんとなくまとめたかったっていうのは、Ken Bandの音楽みたいなものが見えたっていうか、感じられたからなんじゃないかな。今回はとにかくそれをやりたい、みたいな気持ちで作ったところがあるんじゃない?
横山 そうだ。今思い出したけど、部屋ではそんなことを考えていましたね。これをやりたい!ってものをやりたいって。そのしっぽを捕まえるのに、夜中……ずっとNetflix観てましたね(笑)。
Jun 思い出したけど、『Bored?〜』の曲を選んでいる段階で、『4Wheels〜』の1曲目と2曲目に入れる曲は決まっていたんだよね。ああやって曲が畳みかけるようにボンボンってくるようにしたかったこと自体、もう(2015年リリースの前回のフルアルバム)『Sentimental Trash』とは違うものを作ろうとしていたっていうことになるよね。
南 ただ、この形のアルバムってやればいつでもできるっていうか、得意分野なところでもあるわけで。ここ何年かは、遊びでいろんなバリエーションがある曲をやっていたのを、今回は自分たちに素直にやっただけなのかもしれないですね。2ビートのいわゆる速いパンクロックソングって、意外と難しいっちゃ難しいけど、でも、作れますよね。
横山 まあ、いくらでも出てきちゃうよね(笑)。
――今の「作れますよね」、「いくらでも出てきちゃうよね」っていう言葉は、Ken Bandをめちゃめちゃ象徴していると思う。
横山 あと僕、今回はメンバーに曲を持っていく時の元ネタの、自分の中でのふるいのかけ方が今までと違った気がするんですよね。圧倒的に横山節のメロディのアルバムにしたいっていう思いが強かったな。
ちゃんと人前で演奏しないと、聴いてくれる人とシェアしないと、『Bored?~』と『4Wheels~』がどこにも着地しない(横山)
――前回の『Bored?~』はレーベル直販リリースという新しい形をとって、しっかりと会社の収入も守るし、実態のある流通をやるっていう思いも表れていましたが、結果どうでした?横山 お金の面ではそんなに悪くはなかったと思います。ただ、リリースの風景として弱いなっていうのはありましたね。それって、お金に換算できないところで。だから、たぶん通販ばっかやってたんじゃ閉じこもっていっちゃうなっていうのは感じました。手の内のひとつとしてはすごくいいと思うんです。でも、なんで流通の会社があるのか、なんで小売店さんがあるのかって、やっぱ彼らの思いとかがミュージシャンのアルバムに上乗せされて、みんなのところに届くからなんですよね。
――今回は流通に乗るんですね。
横山 そうです。
――サブスクは?
横山 出すつもりです。ただ、時期はちょっとずらすことになると思いますけど。
――それはいいと思います。最後に、Ken Bandは、ライブはどうなるんですかね。
横山 実はやろうと思っています。ストリーミングライブはずっと嫌だったんです、僕が。やっぱりリアルな空気感がないところで装えないと思ったんですよ。もしかしたら観てくれる人は喜ぶかもしれないですけど、僕たちが、バンドが傷ついちゃう。つまんなかったなあ、もうやりたくないなあってなるんじゃないかなって。なんだけれども、やっぱ時間がたって、僕、ふたつ考えることがあったんです。ひとつは、アフターコロナと付き合っていかなきゃいけないっていうこと。もうね、昔のような風景には絶対に戻らないんですよ。まあ、戻ったら奇跡、ぐらいに思っておいたほうがいいかなと。そうしたら僕たちも、ガイドラインの中でライブをやるっていうことを考えていかなきゃいけないわけで。あともうひとつは、ちゃんと人前で演奏しないと、聴いてくれる人とシェアしないと、このふたつの作品、『Bored?~』と『4Wheels~』がどこにも着地しないんですよね。流通に乗せて、みなさんが買って聴いてくれれば、作品はその人のものになるわけですよ。なんだけれども、それを実感できるのは圧倒的にライブなんです。でも、今のところこのふたつの作品に関して、実感がひとつもないんですよね。『Bored?~』を出したけど、その曲たちがどれだけみんなの中に入っていっているのか――こればっかりはSNSとかじゃ実感できない。だから、そのためにもライブをやったほうがいいかなと。だから、今は「SATANIC CARNIVAL 2021」に出ることは決まっているんですけど、そのあとに、数ヶ月遅れのレコ発ツアーもできればなとは思っています。
5月28日(金)発売の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号にKen Yokoyamaが登場!
Ken Yokoyama"4Wheels 9Lives" (Official Music Video)
●リリース情報
7th Full Album『4Wheels 9Lives』PZCA-91(CD+DVD) 3,500円(without tax)
PZCA-92(CD) 2,500円(without tax)
1.I'm Going Now , I Love You
2.4Wheels 9Lives
3.Spark Of My Heart
4.Have Hope
5.Helpless Romantic
6.Cry Baby
7.My Paradise
8.Angel
9.Forever Yours
10.On The Sunny Side Of The Street
11.Without You
12.While I'm Still Around
※DVD:「Shot at OPPA-LA」
1.I'm Going Now , I Love You
2.Cry Baby
3.Out Alone
4.Still I Got To Fight
5.Angel
6.Forever Yours
7.Woh Oh
8.Helpless Romantic
9.While I'm Still Around
提供元:PIZZA OF DEATH RECORDS
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部