andymori@Zepp Tokyo

all pics by 佐藤哲郎
開演早々むせ返るような熱気に包まれたZepp Tokyoのステージで「イェーイ! イェイ! イェーイッ!」と腕白少年のようにはしゃぎまくるハーフパンツ姿の小山田壮平(Vo・G)。続けて「あの……心配かけてごめん!」と呼びかけ、さらに「愛してるぜ!」と叫び上げると、この日を待ち詫びたオーディエンスの歓声と熱量はさらに高まっていく……andymoriの正真正銘最後のワンマンライヴとして大阪・東京で開催された「andymori ワンマン ひこうき雲と夏の音」の最終日=東京・Zepp Tokyo公演。「このバンドに情熱を注いできて、やれるだけのことをやりきった」とandymoriが解散を表明したのが昨年5月。ちょうど1年前、2013年の7月27日からラスト・ツアーを開催、9月24日の日本武道館初ワンマンで大団円を迎える――はずだった。が、ツアー開始直前に小山田が重傷を負い、治療とリハビリに1年以上を要するとされ、武道館およびラスト・ツアーの日程はすべてキャンセルに。ライヴアルバム『ANDYSHANTY』『愛してやまない音楽を』のリリースを経て、メンバー3人のメッセージとともにandymoriの最後のライヴ・スケジュールが突然発表されたのはほんの1ヵ月前、今年の6月27日のことだった。「もう少しだけandymoriを続けさせていただきます。待っていてくれてありがとう」(小山田) 「これはけじめでもあるし、新しい作品でもあります。待っていてくれた人たちは、もう少しお付き合いください」(藤原寛/B) 「時間が経って思ったことは 僕はやっぱりandymoriの音楽が好きだということです。また皆さんに会えることを楽しみにしています」(岡山健二/Dr)……あれから1年、本当の「終わり」に向けて、3人は再び前進し始めたのである。

とはいえ、小山田/藤原/岡山の3人を迎える会場の空気は、「andymoriの終わり」を惜しむ寂寞感よりも「再びandymoriがステージに立っていることの喜び」の方が明らかに上回っていた。それは「『SWEET LOVE SHOWER 2014』出演を含め、まだこの後に4本のライヴ出演予定が控えているから」だけではなく、他でもないandymoriの3人の、今この瞬間を全身で謳歌し尽くすような充実感に満ちたヴァイブゆえだったのだろう。何より、冒頭の“1984”でどこまでも伸びやかに広がる小山田の歌声が、1年間のブランクを微塵も感じさせないどころか、僕らの記憶ごとあっさりリセットするように響いてきたというその事実に、誰もが感激せずにいられなかった、というのが大きかったと思う。Zepp丸ごと揺さぶってみせた“ベンガルトラとウィスキー”の躍動感。4つ打ちの快活なビートからついにはエンジン焼け切れそうな熱量を振り撒いてみせる“Life Is Party”。藤原&岡山の力強いビートともに広がる、多幸感と情熱の結晶のような《バンドを組んでいるんだ すごくいいバンドなんだ》の熱唱……どんなに譜割りが細かく言葉数が多くても、そのひとつひとつが鮮烈なイメージとともにすとんと腑に落ちて「僕らのうた」として全細胞に広がっていくような小山田唯一無二のヴォーカリゼーションが、Zeppの空間と完全に響き合って、濃密な一体感を生み出していく。

andymoriの音楽はフォークであり、パンクであり、ロックンロールでありながら、そのどれとも違っていた。荒ぶるパンクの衝動でフォークを鳴らすこともあれば、フォーキー&メランコリックな心象風景をロックンロールの燃料にすることもあった。が、彼らの音楽に一貫していたのは、その歌とサウンドを通して、時に灰色だったり絶望的だったりする聴き手の想いひとつひとつまでも引き受けながら、自分と時代とリスナーを誤変換なくつないで、音楽という名のユートピアの中に渾身の力で描ききることだった。どこまでも包容力に満ちていながら純粋で淀みなく、朗らかな叙情性の中に鋭利な批評精神を備えていて、同時に聴く者の心の扉を迷いも衒いもなく全開放させる独特の磁場に満ちている……“路上のフォークシンガー”“ゴールデンハンマー”“空は藍色”など最新アルバム『宇宙の果てはこの目の前に』の楽曲はもちろん、『andymori』『ファンファーレと熱狂』『革命』『光』含めオリジナル・アルバム5作を凝縮したような選曲に加え、自主制作盤『everything is my guitar』の“Sunny Side Diary”まで網羅、アンコールまで含め実に全32曲を2時間足らずで風のように駆け抜けたこの日のアクトはまさに、そんなandymoriならではのマジックそのもののような時間だった。

「やーやーやー、久しぶり、みんな。すごい雨降ってましたね。みんな、びしょ濡れか? 大丈夫? びしょ濡れだろ? ざまあみろ!(笑)」と、開演直前に会場周辺を襲った雷雨に触れながら快活に語りかける小山田。「寛は1年間何やってたんですか?」と話を振られた藤原が「DVDとか観てた(笑)。『バットマン』の『ダークナイト』。ヒース・レジャーっていう役者さんがすごいよかった」と日常会話のように返したり、「健ちゃんは?」(小山田) 「俺は、歌うたったり、ドラム叩いたり、たまに壮平さんから呼び出しを食らい……」(岡山) 「なんでそんなちょっと、怖い先輩みたいな言い方するの?(笑)」(小山田)といったやりとりがあったり、といった3人の佇まいからも、気負いや力みはまるで感じられず、そのひと言ひと言からこの場の嬉しさがあふれてくるのがわかる。「でも、よかったね、帰ってこれて」という藤原の言葉に、「そう! イェーイ!」と威勢よく返しつつも、「……悪かったですね、ほんと」と小声で小山田。「別にいいけど(笑)」と藤原。会場がどっと沸く。その後のMCでは、かつての入院生活について「三鷹の杏林病院っていうところにいたんですけど、めちゃくちゃよくしてもらってて……」と小山田が語る。「3週間ぶりぐらいに『小山田さん、今日お風呂入りますか?』って久しぶりに連れてってもらって、サポートつきで。窓からでっかい杉の木が見えて――久しぶりに外の風景を見たんですよ。『ああ、緑の葉っぱってこんなにキレイだったのか!』って」「湯船でね、熱が背中にブワーッてくるのが、すーごい気持ちよかった!」……そんな「復活感」に満ちた場面の数々に、思わず「最後のワンマンライヴ」であることを忘れかける瞬間も、一度や二度ではなかった。

ミラーボールの輝きとともにフロア一面クラップとシンガロングで埋め尽くされた“クラブナイト”。藤原の奏でるオルガンと小山田のアコギ&歌が凛としたサウンドスケープを描き出した“カウボーイの歌”。3人のハーモニーが銀河級のスケールのイマジネーションを繰り広げていった“宇宙の果てはこの目の前に”。岡山の爆裂ドラムから流れ込んだ“FOLLOW ME”からライヴは一気に終盤のクライマックスへ! “MONEY MONEY MONEY”のスクエアなロック・アンサンブルで会場をがっつり揺らし、“Sunrise & Sunset”のカントリー系の爽快なビート感で熱いシンガロングを呼び起こしていく。あっけらかんとしたミドル・テンポのロックンロール《所沢の空の下》を♪東京の空の下~とアレンジしてみせた“グロリアス軽トラ”に、思わず歓喜の声があふれていく。「みんな、ありがとう!」と高らかに呼びかけた小山田は、続けてもう一度、囁くように「……ありがとう」と言った。一気に寂しさが湧き上がってきた。センチメントもブルースも哀しみも夢も抱き締めるように晴れやかに響く、“夢見るバンドワゴン”の《空 いっぱいの空 忘れたはずのメロディー》の3人のハーモニー。ラストの新曲“おいでよ”が痛快な疾走感とともに鳴り渡って……本編終了。「ありがとう!」という小山田の言葉を残して、3人は舞台を去っていった。

鳴り止まないアンコールの手拍子に応えて再び3人が登場、“16”からアンコールはスタート。“andyとrock”のソリッドなバンド・サウンドを天まで燃え上がらせるような小山田の絶唱! “革命”はまさにここから新たな物語を始めようとするかのような爆発力に満ちていたし、希望と絶望が渾然一体となったハード・バラード“遠くへ行きたい”を喉も裂けよとばかりに歌い上げる小山田の姿には抑え難く心が震えた。“愛してやまない音楽を”の3人アカペラに力強いクラップが巻き起こり、この日のフィナーレを飾った“すごい速さ”の爆走ロックンロールに応えてオーディエンスの手が高々と突き上がり、割れんばかりのシンガロングが噴き上がっていく。「ありがとう! 楽しかったです」と小山田ら3人が舞台を去り、終演アナウンスが流れた後も、再びのアンコールを求めるクラップがいつまでも続いていた。32曲も聴いたはずなのに、まだまだ聴きたい曲はいっぱいあったし、終わった瞬間に「ここまでバンドの理想を体現しているようなバンドが解散って本当か?」という想いが改めて胸に渦巻いて仕方なかった。

今回の大阪&東京でのワンマンライヴ「andymori ワンマン ひこうき雲と夏の音」の後は、「Talking Rock! FES.2014」(8月7日/大阪・Zepp Namba)、the telephonesとの2マンライヴ「ファンファーレと電話」(8月12日/東京・LIQUIDROOM ebisu)、HINTOとの2マンライヴ「千葉LOOK presents 大感謝祭リターンズ~真夏の2man」(8月20日/千葉・千葉LOOK)を経て、「SWEET LOVE SHOWER 2014」(8月29〜31日/山梨・山中湖交流プラザ きらら)の初日:8月29日のステージで、andymoriの歴史は本当に終幕を迎えてしまう。とはいえ、バンドが解散した後もandymoriの音楽は長く深く愛されていくだろうし、解散後の「3人のこれから」にあれこれ思いを馳せるには、今のandymoriが鳴らしていた歌と音がどうにも眩しすぎる。それでも、「andymoriが存在している時代」を共有できる時間は、残りわずかだということだ。(高橋智樹)


■セットリスト

01.1984
02.ベンガルトラとウィスキー
03.Life Is Party
04.ユートピア
05.ボディーランゲージ
06.Peace
07.投げKISSをあげるよ
08.兄弟
09.路上のフォークシンガー
10.クレイジークレーマー
11.Sunny Side Diary
12.ハッピーエンド
13.ゴールデンハンマー
14.空は藍色
15.ベースマン
16.everything is my guitar
17.クラブナイト
18.青い空
19.カウボーイの歌
20.宇宙の果てはこの目の前に
21.FOLLOW ME
22.MONEY MONEY MONEY
23.Sunrise & Sunset
24.グロリアス軽トラ
25.夢見るバンドワゴン
26.おいでよ

(encore)
27.16
28.andyとrock
29.革命
30.遠くへ行きたい
31.愛してやまない音楽を(アカペラ ver)
32.すごい速さ