ボーイズⅡメン @ 東京国際フォーラム ホールA

ボーイズⅡメン @ 東京国際フォーラム ホールA - pic by Michiko Yamamotopic by Michiko Yamamoto
開演前の会場では、3面のスクリーンでボーイズⅡメンの23年の歩みを振り返る映像が流されている。中にはクイズ形式のトリビア・コーナーのようなものまであって、それを眺めながらつくづく感じるのは、ボーイズⅡメンが世界でも、そしてもちろん日本でも、90年代のR&Bを象徴する計り知れないほど大きな存在であったということだ。

全米で14週連続1位の記録を打ち立てた“I'll Make Love To You”や、“On Bended Knee”、“End Of The Road”といったナンバーは、90年代当時、誰かの車に乗ればだいたいカーステから流れてきたし、ラジオでも、お茶の間でも、ここまで広く聴かれ、愛された海外のR&Bグループも珍しいのではないか。それゆえJポップにおけるR&Bに彼らが与えた影響も計り知れない。極論すれば、それこそEXILEや三代目J Soul BrothersだってルーツをたどればボーイズⅡメンに行きつくのだから。しかもボーイズⅡメンは2000年代以降もコンスタントに作品をリリースし続け、今もなお超現役のアーティストとして活躍している。そして彼らの超現役感が最もヴィヴィッドに反映されるのがライヴなのだ。

ボーイズⅡメンのライヴの楽しさは、ひとたび参加してみれば一瞬で理解できる。ネイザン、ショーン、ウォンヤの3人がコーラスで、ユニゾンで、ソロで、はたまたリレー形式で、とにかくひたすら歌いまくる彼らのライヴだけれども、まず第一に三人三様の声質と歌唱法を持つ彼らの歌は、歌唱として「上手い」というレヴェルを遥かに超越したエンターテイメントだ。オープニングの“Believe”はR&Bコーラス・グループのお手本のような艶やかな歌声で会場を酔わせ、一転エッジの立ったビートで攻め立てるヒップホップ調の“Muzak”では3人がばっちりフォーメーション・ダンスを決めながら弾丸のようにフレーズを繋ぎ弾き出していく。

このフォーメーションを組んで踊る、というのが単純なようですごく重要なポイントだ。たとえば往年のマイケル・ジャクソンや最近のファレル・ウィリアムスのライヴを観ても感じることなのだけれど、素晴らしいソウル・ミュージックを素晴らしい演奏とヴォーカルで披露するという大前提に加えて、優れたR&Bアーティストであり、優れたポップ・アクトでもある彼らは必然として踊り、エンターテイメントであることを自身のポップ・ミュージックの正義とする。今なお細身のショーンはともかく、ウォンヤやネイザンなんてかなりの重量級にも拘わらず、信じられないくらい軽々とした身のこなしでステップを踏み、ハイキックを決める。ボーイ・アイドルも顔負けのキメキメなスタンドマイク・プレイは、思わずキャーキャー言いたくなるくらい恰好良い。

“Please Don't Go”では3人がそれぞれに他己紹介していくのだが、高校時代からの付き合いになる彼らの未だ変わらずの仲の良さが垣間見えてほほえましい。ショーンの美しいファルセット、ネイザンのセクシーな中音、そしてトリッキーな音階を難なく歌いこなすウォンヤと、破格のヴォーカル・スキルを持つ3人が、ユニゾンでぴたりと重なりあう瞬間のカタルシスが凄い。これもまた25年以上連れ添ってきた3人ならではの阿吽の呼吸だ。

中盤ではおなじみのモータウン・コーナーが始まる。「テンプテーションズ、フォー・トップス、スモーキー・ロビンソンにダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン……そしてもちろん僕らもだけど(笑)、モータウン・レコードは素晴らしい才能を多数送り出してきた伝説のレーベルだ。今夜はそんなモータウンをリスペクトしたカヴァーをやるよ」とショーン、そしてビートルズやシュープリームスをはじめ多くのカヴァーで知られる“Money”、フォー・トップスの“It's The Same Old Song”、“Reach out I'll Be There”を立て続けに披露するのだが、このモータウン・コーナーが楽しすぎた!バンド(ドラムス、キーボード、ベース、ギターの4人編成)も素晴らしかったのだが、このバンドがモータウン・サウンドのゴージャスなファンクネスを完全再現する中で、3人が文字通りモータウンのガールズ・ユニットばりにフリを完璧に揃えたダンスで魅せるのだ。

“Open Arms”は3人のリレー・ヴォーカルとユニゾンの美しさを最大限に引き出す圧巻の1曲で、特にユニゾンのダイナミクスが凄かった。東京国際フォーラムでここまで人間の声をサラウンドで体感できたのは初めてかもしれない。さらに後半のお楽しみは彼ら自身がギターとベースを担当してのファンク・ロック・セクションで、冒頭ではニルヴァーナの“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”をド迫力でプレイし始めるも「ちがうちがう!」とセルフ突っ込みするというコントまでやってくれるサービス精神。そしてサービス精神と言えば“I'll Make Love to You”で、イントロが鳴ると同時にオーディエンスが雪崩を打ってステージ前方に詰めかける。何故ならこの曲では3人がファンにバラの花を一輪ずつ配るからだ。3人が丸々1曲かけて数十輪のバラを配り終えると、見事バラをゲットした人も、そうでない人も、みな一様に高揚しきった顔でそれぞれの席に戻っていく。

「23年間僕らをサポートし続けてくれた日本のファンに感謝します。君らは僕らのライフラインだ」とショーン、そして「特別な曲をアカペラでやるね」と言って“It's So Hard to Say Goodbye”が始まる。ここまでの流れの中で様々にエンターテインしてきたボーイズⅡメンの歌が、最後の最後でゼロ地点に戻るという演出が感動的だ。アカペラのユニゾンのあまりの美しさにヘンな脳波が出そうになった。そしてラストは“End of the Road”、客席総立ちでの大合唱で見事なフィナーレ!そしてアンコールの“Motown Philly”はフィナーレのカタルシスをさらに倍速で追い立てるようなファンクネスで、コール&レスポンスも完璧に決まる。全編およそ90分、ボーイズⅡメンの歌と、ソウルと、エンターテイメントが凝縮された贅沢すぎるステージだった。(粉川しの)

1. Believe
2. Muzak
3. On Bended Knee
4. Please Don't Go
5. 4 Seasons of Loneliness
6. Money (that's what i want)
7. It's the same old song / Reach out i'll be there
8. The Color of Love
9. Amaged
10. Open Arms
11. Diamond Eyes
12. Water Runs Dry
13. I'll Make Love to You
14. A Song for Mama
15. It's So Hard to Say Goodbye
16. End of the Road

En1.Motown Philly
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