椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ

椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ - all pics by 太田好治 中島未来all pics by 太田好治 中島未来
最高のステージだった。前作『三文ゴシップ』以来約5年半ぶりにリリースされたオリジナル・アルバム『日出処』を携えて、さいたまスーパーアリーナ/大阪城ホール/マリンメッセ福岡の3会場5公演にわたって開催されている椎名林檎アリーナ・ツアー「林檎博'14 -年女の逆襲-」。東京事変のラスト・ツアーから数えても2年9ヵ月ぶり、ソロとしては実に6年ぶりとなるアリーナ公演。そのツアー2本目にして、さいたまスーパーアリーナ2DAYSの2日目となるこの日のアクトは、単に「いい楽曲+いい歌+いい演奏=いいステージ」なだけではなく、椎名林檎という稀代のアーティストが自らの足跡を壮大なスケールのエンタテインメントとして編み上げ、それを映像含め数々の演出とともに最大限に咲き誇らせてみせた至上のアクトだったし、結果的に「いいライヴ“だった”」のではなく、彼女自身が明確な意志をもって「いいライヴ“を実現した”」ことが、あまりにも鮮烈な冒頭の登場シーンをはじめ随所から明確に伝わってくるものだった。[※大阪・福岡公演が控えているため、セットリストおよび演奏曲順、演出の詳細については文中では割愛、一部楽曲に触れるに留めさせていただきます]

椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ
まずは、巨大なステージを埋め尽くすようにずらりと並んだミュージシャンの陣容に度肝を抜かれる。「The Mighty Galactic Empire」と命名されたラインナップは、鳥越啓介(B)/みどりん(Dr)/ヒイズミマサユ機(Key)/佐藤芳明(Accordion)/浮雲(G・Vo)/竹内朋康(G)/斎藤ネコ(Conductor・Violin)といったメンバー編成のバンド・セクションに加え、それぞれ10人以上が勢揃いしたストリングス&ブラス・セクションにハープ/パーカッション、ダンサーまで擁した、総勢37名に及ぶ規模のものだ。エッジィなロック・ナンバーはもちろん、ビッグバンド・ジャズのグルーヴからクラシカルで荘厳なアンサンブル、映画音楽風の妖艶でスリリングなサウンドスケープまで自由自在に繰り広げてみせるその圧倒的なプレイアビリティが、椎名林檎の楽曲にさらなる広がりを与えていた――というよりは、そもそも楽曲が持っていた広がりと奥行きを、大編成によって原寸大で再現した、というほうが近いかもしれない。

椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ
椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ
そして、この日の演奏内容。『日出処』のリリース・タイミングでのツアーということで、“NIPPON”をはじめとする『日出処』の楽曲を要所要所に盛り込みつつ、“都合のいい身体”など『三文ゴシップ』の楽曲群、“能動的三分間”など東京事変時代のナンバー、石川さゆり“最果てが見たい”など他アーティストへの提供曲のセルフ・カヴァーまで網羅。初期2枚=『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』の楽曲こそなかったものの、椎名林檎の表現世界を「今」のモードでひとつの大きなストーリーとして再構築するような迫力と意欲に満ちたものだった。CDシングル表題曲の少なさだけ見れば一般的には「コアな選曲」ということになるのだろうが、この日のアクトには熱心なファン向けに閉じたサービス精神は微塵もなかった。むしろ、最新型の椎名林檎像をより忠実に描き出すために必要な楽曲をセレクトした結果、どこまでもゴージャスでドラマチックな音楽空間が生まれ、観る者すべてを圧倒し巻き込むだけのダイナミズムと包容力が生まれるに至った――とでも言うべき性質のステージだったと思う。

椎名林檎@さいたまスーパーアリーナ
楽曲とアンサンブルの流れに合わせて、1本のライヴの中で幾度もコスチュームを替え、オフホワイトのシルクチュールのロングドレスから羽根が生えてペガサスを彷彿させるスタイルまで多彩な佇まい越しにその歌声を披露していた椎名林檎。“自由へ道連れ”の晴れやかな躍動感で広大なアリーナを完全支配してみせたり、“NIPPON”では一面に手旗と歓喜が揺れる高揚の風景を描き出したりする一方で、スウィンギンなビッグバンド・アレンジで演奏された“能動的三分間”で目の眩むような悦楽と妖気をあふれさせ、ジャジーなスリルとミステリアスな歌謡心がせめぎ合う“赤道を越えたら”“静かなる逆襲”が濃密でムーディーな音空間を構築し……といった華麗でゴージャスなステージを、決然とした表現者精神をもって体現しきっていた。そして何より、1998年にポップス/ロック・シーンへの強烈なカウンター的存在として登場した彼女が、そのカウンター精神を極彩色に咲き乱れさせた東京事変を経て今、日本のポップ・ミュージックのスタンダードたり得る自分自身の途方もない才能を、迷いも衒いもなく真っ向から引き受けている――ということを、その凛とした姿はどこまでもリアルに物語っていた。「歌い手として/エンターテイナーとして、日本の王道を担う覚悟を決めた」と言い換えてもいいかもしれない。それぐらいの輝度と強度が、この日の彼女の歌とステージには確かにあった。

冒頭で「ようこそ彩の国へ! ようこそ『年女の逆襲』へ!」と約1万8000人のオーディエンスに呼びかけて大歓声を巻き起こしていたのと、アンコールで「私なりに今回は『逆襲』っていうのがテーマでしたので……失礼かとは存じましたが、サディスティック気味にやってまいりました(笑)」と語っていた以外は、ほとんどMCらしいMCもなく、一気に駆け抜けてみせた椎名林檎。彼女の「その先」の輝きをもっと見たい!という期待感が、終演と同時に圧巻の余韻とともに押し寄せる、珠玉の名演だった。椎名林檎アリーナ・ツアー「林檎博'14 -年女の逆襲-」は12月9日・10日の大阪城ホール公演、さらに12月21日・マリンメッセ福岡公演へ続く!(高橋智樹)
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