「このツアー、最初の方なんだけど、わりと上手くいってます(笑)。プロの人がこういうのもなんだけど、練習して良かったなあと。みんなは練習いりません。最初から最後まで、自由に楽しんでください。歌いたいやつは歌えばいいし、踊りたいやつは踊ればいいし、じーっと観てたいやつはじーっと観てればいいです。今日だけは、隣の人がどんなノリ方してても許してあげてください。時々は、俺、迷惑かけてないかなって、気にしながら暴れてください。最後まで仲良く頼むぞ!」
お馴染みのセリフも交えながら、甲本ヒロト(Vo)がそう告げて“今夜ロックンロールに殺されたい”を浴びせかけたとき、その途方もなく大きな開放感に泣きそうになってしまった。《生まれる前から ただ無敵なだけ》。限りない自由を音と言葉で射抜き、自由そのものと同化してしまうこの4人のロックンロールの権化たちは、今回のツアーでも日本の津々浦々で、毎夜こんなふうに至上の瞬間を生み出してゆくのだろう。この曲が鳴り出してから、そんな確信を抱くまでにたいして時間はかからなかった。
一方、真島昌利(G)が手がけたシングル曲“エルビス(仮)”は、雷鳴のようにフロアを貫きながら無法者のロマンを置き土産にしてゆく。同じマーシー曲で言えば、《ワッハッハッハッハーッ!》の盛大なシンガロングを導き出していた“生活”や、まんまと《パンチラ パンチラ パンチラ パンチラ》のコールを巻き起こすリビドー全開の“中1とか中2”が、ツアー序盤にして早くもインタラクティヴな楽曲デザインの成果を見せている。ただ楽しいだけではなく、《校庭では 鉄の棒がゆっくりと冷える》といった詩情にゾクリとさせられたりもするのだ。
桐田勝治(Dr)は新旧の楽曲を全力で追い回すようにビートを打ち鳴らし、小林勝(B)の猛烈にアタックするベースは、場内に反響しまくるほど楽曲のヤンチャぶりを伝える。そしてマーシーは、広いスペースをご機嫌にステップしながらオーディエンスにもサインを投げかけ、スタンドのコーラスマイクに戻るのが一苦労というほどだ。“オバケのブルース”を披露する時、ヒロトは「なんだっけ?」という感じで頭のコードをマーシーに尋ねると、マーシーは笑いながら思いっきりコードをジャーンとかき鳴らすのだった。そして、ヒロトの悶絶級ソウルヴォーカルから始まった“俺のモロニー”は、歌詞に合わせてミラーボールも煌めく。ハイライトが多すぎである。
ファンの多くがツアーグッズのタオルを掲げる一幕では、「そんなの売ってたっけ?」と問いかけたり、「それはなに? ストライプス? 明日行くの? 忙しいなあ!」と告げたりするヒロト。こんなふうにファンと笑い合いながら、ジェットコースターのようなロングツアーは続いてゆくのだろう。(小池宏和)