ボブ・ディラン@Bunkamura オーチャードホール

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ボブ・ディラン@Bunkamura オーチャードホール
ボブ・ディラン@Bunkamura オーチャードホール
2016年の「ネヴァー・エンディング・ツアー」は、5月にリリース予定のニュー・アルバム『フォールン・エンジェルズ』を見据え、ここ日本からスタート。追加公演や再追加公演も続々決定し、東京を皮切りに仙台、大阪、名古屋、横浜で、4月いっぱい全16公演がスケジュールされた。序盤は東京・渋谷のBunkamura オーチャードホール3連発であり、その2日目の模様をレポートしたい。今後の各公演を楽しみにしている方は、以下本文のネタバレにご注意を。

暗転したステージにステュ・キンボール(G)のギター・リフレインが鳴り響き、ディランをはじめバンド・メンバーが登場する。チャーリー・セクストン(G)、トニー・ガルニエ(B)、ジョージ・リセリ(Dr)、ドニー・ヘロン(Pedal Steel / Banjo etc.)という、近年ではお馴染みの顔ぶれだ。序盤の選曲は一昨年のツアーで観た内容と同じ展開であり、ウエスタンな熱を帯びる“Things Have Changed”から、オリジナル音源に近い豊かなフォーク・ロック・アレンジの“She Belongs to Me”、そしてディラン自らピアノに向かうタンゴのグルーヴ“Beyond Here Lies Nothin’”という流れ。多彩な曲調の中にも、ロックのエッジを忍ばせている。

甘いペダル・スティールのフレーズに導かれる“What’ll I Do”は、昨年リリースされた『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』に収録されたナンバーで、フランク・シナトラのレパートリーに新たな命を吹き込んでいる。ステージ上のディランは今回も3本のスタンド・マイクを用いているのだが、あれは何か音響面での理由があるのだろうか。はたまた、一発録りで制作された『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』同様にライヴ・レコーディング上の理由なのだろうか。ご機嫌にゆらゆらと身を揺らしながら歌い上げてゆく。

アップリフティングなスウィング感で熱を帯びる“Duquesne Whistle”に続いては、最新EP『メランコリー・ムード』に収録された表題曲“Melancholy Mood”。タイトルそのままのスタンダード・ナンバーで、シナトラがデビュー・シングルに吹き込んだという一曲である。力強いストーリーテリングが際立つ“Pay in Blood”を挟むと、沈んだヴィブラートの歌声までもくっきりと浮かび上がる“I’m a Fool to Want You”、そして最新EPの4曲目に収められた“That Old Black Magic”と、個人的にはこの夜のハイライトと思えた2曲を披露する。後者はグレン・ミラーのスウィング・チューンをロックに料理しており、披露してくれたら盛り上がりそうだな、とぼんやり思っていたら本当にやってくれた。最高だ。

『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』制作時にレコーディングされた楽曲群は、そもそも『グレート・アメリカン・ソングブック』と呼ばれるスタンダード楽曲集の中から、シナトラが録音したものを取り上げていた。“Melancholy Mood”や“That Old Black Magic”もこれに当たる。EP『メランコリー・ムード』の4曲は新作『フォールン・エンジェルズ』の先行曲とアナウンスされているので、つまり来る新作は同じレコーディング・セッションの、『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』と双子のようなカヴァー・アルバムとなるのかも知れない。沸々とドラマティックに展開するアレンジの“Tangled Up in Blue”で喝采を巻き起こしたディランは、「アリガト~ウ!!」と景気良く告げて、約20分間のインターヴァルに向かうのだった。

第2幕は、バンジョーも鳴り響く“High Water (for Charley Patton)”でスタート。柔らかな感傷にぐっと没入する歌声の“Why Try to Change Me Now”や、滋味深いハスキー・ヴォイスで繰り広げられるバラード“The Night We Called It a Day”と、ディランが『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』に込めたヴォーカルへのこだわりが溢れ出す。更に、少しとぼけた哀愁を振りまくEP曲“All or Nothing at All”は、チャーリー・セクストンの雄弁なリード・ギターが追い込みをかけ、ライヴ感たっぷりの名演になった。そして前回の来日時もハイライトに響き渡っていた、『テンペスト』の逸品“Long and Wasted Years”。胸を揺さぶるリフレインと、トーキング・スタイルの詩情が畳み掛けてくる。本編は、余韻を引きずるカヴァー“Autumn Leaves”で幕を閉じた。

アンコールの催促に応えると、ドニー・ヘロンのヴァイオリンが華やかに響き渡るフォーク・ロック・アレンジで“Blowin’ in the Wind”が届けられる。たどり着いたクライマックスは、鋭いギター・リフが立ち上がってビシッと決める“Love Sick”だ。体を揺らしたり、ひょこひょこと歩いたり。日本では約15年ぶりのホール・ツアーなのに、もしかするとディラン自身はライヴ・ハウス時よりも元気に動き回っていたのではないか。アメリカン・ポップの古典をただ懐かしむのではなく、人間の生々しい息遣いとして、ときにはディランらしい毒っ気や棘も含めて語り継ぐこと。どこまでも豊かだが、触れていて背筋の伸びるようなパフォーマンスだった。演奏の奥深いミクスチャー感覚も凄い。折角のスケジュールなので、今回もまたどこかの日程で観たいと思う。(小池宏和)

〈SETLIST〉
M1. Things Have Changed
M2. She Belongs to Me
M3. Beyond Here Lies Nothin’
M4. What’ll I Do
M5. Duquesne Whistle
M6. Melancholy Mood
M7. Pay in Blood
M8. I’m a Fool to Want You
M9. That Old Black Magic
M10. Tangled Up in Blue
-Intermission-
M11. High Water (for Charley Patton)
M12. Why Try to Change Me Now
M13. Early Roman Kings
M14. The Night We Called It a Day
M15. Spirit on the Water
M16. Scarlet Town
M17. All or Nothing at All
M18. Long and Wasted Years
M19. Autumn Leaves
En1. Blowin’ in the Wind
En2. Love Sick
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