そしてその「RAINBOW 2000」から20年が経ち、アンダーワールドはついに武道館のステージに立った。日本人にとっては特別な意味のあるハコである。彼らがこのヴェニューに関してどれぐらい知識があったかわからない。だがどこであろうが、アンダーワールドはどこまでもアンダーワールドだった。
ニュー・アルバムの“I Exhale”からスタート。まずびっくりしたのが音響の素晴らしさだ。屋外のライブのように音が拡散しないので、音圧感は相当に高いが、音が歪まず綺麗に上下に伸びているので全然うるさくない。反響音も抑えられて音の濁りが少ない。武道館でここまでロー(低域)が効いているライブを聴いたことがない。僕は1階のスタンド席で観ていたが、椅子席がすべて取り払われ、ダンス・フロアと化したアリーナなら、もっと気持ちよく踊れたに違いない。
前半は新作『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』からの曲を中心に、中盤以降は新しめの曲から古い曲へと時代を遡っていくように選曲される。かなり熱心なファンが集まっていたようで、『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』(2007年)のような比較的地味なアルバムの曲でもイントロだけで大歓声が起こる。もちろん定番ヒットも欠かさない。
そして彼らはいつもコードのあて方が絶妙だ。“Jumbo”しかり“Two Months Off”しかり、そして代表曲“Born Slippy Nuxx”しかり。時に哀愁を帯びた泣かせの、時に陽光が降り注ぐようなポジティヴィティを喚起する、絶妙なシンセのコードがあるからこそ、ともすれば無機的でマシーナリーな印象を与えがちなテクノであっても、血が通ったエモーショナルなものとなるのだ。それは彼らが生粋のテクノあがりではなく、80年代のニュー・ウエイヴ期から活動するベテランだからだろう。そこが彼らの日本人好みたる所以である。
“Rowla”、“Rez”、“Cowgirl”そして“Born Slippy Nuxx”とお馴染みのキラー・トラックが連打されるクライマックスで、武道館全体が歓喜溢れるダンス・フロアとなる。お約束と言えばお約束の展開。16年前のライブ『エヴリシング、エヴリシング』と同じじゃないかと、という向きもあろう。だが素晴らしい。彼らのアルバムやライブ毎に画期的な新しい試みや革新的なサウンドが聴けることは、もはやないだろう。だが彼らは客の期待を絶対に外さず、常に高水準のライブをやる。払った入場料以上の満足感を必ず与えてくれる。古い曲であっても細かいアップデートを重ね、ちゃんと今の耳に耐えうるグルーヴとテクスチャーを確保している。僕は今まで彼らのライブに失望したことは一度たりともない。この日も例外ではなかったのだ。(小野島大)
01. I Exhale
02. If Rah
03. Juanita
04. Ova Nova / Nylon Strung
05. Two Months Off
06. Eight Ball
07. Jumbo
08. Ring Road
09. Push Upstairs
10. King of Snake
11. Faxed Invitation
12. Dirty Club
13. Low Burn
14. Rowla
15. Rez / Cowgirl
16. Born Slippy Nuxx