現代ポップミュージックにおける禁断の果実、ザ・チェインスモーカーズの、初めてのライブセットによる来日公演。幕張（6月7日）と大阪（6月8日）に、それぞれゲストDJを迎えて行われるヘッドライナーショウだ。各地大型フェスからナイトクラブでのパーティまで、世界を股にかけ凄まじいスケジュールで駆け抜けてゆく今の彼らの、幕張公演の模様をレポートしたい。

ズブズブの自己愛に染まる甘い背徳感をこの上なくキャッチーなメロディに乗せ、エレクトロポップとして放つチェインスモーカーズは、この2018年にグロテスクな本性を曝け出す新曲を連続リリースしてきた。まずはDJセットで“Sick Boy”の扇動的なリミックスを放ち、ショウを一気に加熱してゆくドリュー・タガートとアレックス・ポールである。背景いっぱいのスクリーンには、二人が今にもモンスターへと変貌しそうなあのMVが用いられていた。


ギラついた音像のダブステップで会場を沸騰させたところに、オリジナル曲のエモいメロディを投下して大合唱を誘発する、というスタイルは、チェンスモのDJセットでもお馴染みだ。ところが、ショウの要所要所で登場しスティックを振るうサポートドラマー＝マット・マグワイアの生々しいビートは、我先にと“Don't Let Me Down feat. Daya”を歌うオーディエンスを目一杯昂ぶらせ、後押ししてしまう。そのマッシブで鋭い高揚感は、DJセットとはまるで別物である。ライブ中盤での同期入りドラムソロは、EDMサウンドの中でこそパンチをもたらす彼のプレイスタイルを見事に伝えていた。

デトロイト風の重いテクノビートへと移行する“Closer feat. Halsey”リミックス。禁じられた愛を美麗なシンセのレイヤーで分かち合う“Paris”。そしてドリューがフロアの通路を駆け抜けてオーディエンスとタッチしながら歌われる“All We Know feat. Phoebe Ryan”と、過去に届けられてきた名曲たちは、我々が刹那の喜びの先で見つける現実を暴いてしまう。チェンスモが呼び起こす「歌わずにはいられない気持ち」は、極めてナルシシスティックで気味の良いものではないかもしれない。しかし、そこには確かに大いなるカタルシスが存在する。このカタルシスこそ、チェンスモの怪物たる所以である。


ザ・キラーズ“Mr. Brightside”のベタ使いや、トランシーなアタック感を誇るRan-Dの“Zombie”（ザ・クランベリーズのカバー）も用いるライブのクライマックス。ドリューはあらためて感謝の思いを告げると、目下の最新曲である“Somebody feat. Drew Love”へと向かっていった。この曲をこの音圧でやるかという、下腹に響くサウンドが強烈。まさに欲望の権化となったチェンスモを、肌で実感する一幕であった。

そして、ドリューがギターを握る編成で、BPMが増してゆく力強い演奏を届けた名曲“Something Just Like This”。チェインスモーカーズは、炎上覚悟のポップミュージックを通して、人々から上辺だけの理性を引き剥がし、また空回りする独りよがりな欲望を抉ってみせる。これまでに味わったことのない類の浄化と開放がもたらされるライブの中で、ふと、この景色の向こう側にある新しい対話とはどのようなものなのか、思いを馳せるのである。（小池宏和）


〈SETLIST〉
DJ Set #1 +DLMD
Roses feat. ROZES
Bloodstream
Paris
Sick Boy interlude
Sick Boy
DJ Set #2
Drum & DJ
Drum Solo
Closer feat. Halsey
DJ Set #3
All We Know feat. Phoebe Ryan
Somebody feat. Drew Love
Something Just Like This
DJ Set #4
Piano Solo
Hate Me (Edit)