キュウソネコカミ/NHKホール

キュウソネコカミ/NHKホール - All photo by Viola Kam(V’z Twinkle) All photo by Viola Kam(V’z Twinkle)
アンコールの場面でヤマサキ セイヤ(Vo・G)は、「キュウソネコカミは……何も発表がなーいっっ!!」と渾身のシャウトで笑わせていたのだけれど、いやいや、今のキュウソはものすごいペースで活動している。特に、昨年秋からの「ヒッサツマエバ〜とぎなおし〜TOUR ’17-18」、今春のワンマンツアー、そして現在同時進行している2本のツアーと、ライブツアーが止まらないのである。今回レポートするのは、東京と大阪のNHKホールでワンマンを行う「DMCC REAL ONEMAN TOUR 2018 Despair Makes Cowards Courageous -越えていけ編-」(「-The band-編」も進行中)。バンド史上初のNHKホールワンマンという祝祭感だけでなく、極めてチャレンジングな環境に身を置き、観る者を楽しませ、そして感動させるキュウソがいた。以下ネタバレを含むので、本文の閲覧には十分ご注意を。

キュウソネコカミ/NHKホール
キュウソネコカミ/NHKホール
NHK番組にゆかりのある名曲を用いた開場SE、そして『ピタゴラスイッチ』を彷彿とさせる楽しいオープニングムービーなど、地の利を活かした演出が用いられる。そして演奏面はと言えば、強烈な出音の“MEGA SHAKE IT!”から“ファントムヴァイブレーション”と、序盤から人気曲を惜しげもなく投入する5人である。ホールの音響効果も手伝ってか、ゴリゴリの爆音なのにすこぶるリッチな音像だ。“DQNなりたい、40代で死にたい”では大小のミラーボールが煌めいていた。序盤からこんなにも必殺曲を連発して大丈夫なのか、と思っていたら、案の定、6曲目“ビビった”を決めたところでステージの幕が降りてきてしまい「待て待て! まだ終わらんよーっ!!」と笑いを誘ってしまう。

キュウソネコカミ/NHKホール
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そもそも、ホール公演のキュウソは不利である。規模の問題ではない。規模だけなら、彼らはすでにNHKホールよりも大きな会場でワンマンを経験している。しかし座席制のホールでは、オーディエンスとゼロ距離であれやこれやと熱狂の場面を作り上げる、キュウソの得意技がほぼ封じられてしまうのである。その不利を前提にどう戦うかという部分こそが、今回の公演でもっとも面白いところだ。まずは新曲。粗品として配布されたうちわの面が赤・白に色分けされており、オーディエンスの投票によって2つの新曲から演奏曲を決めるという趣向である。今回披露された“但しイケメンに限らない”は、悲壮感漂うキーボードがハードコアな爆音にまみれて突っ走る、非モテの現実を直視したクソエモいナンバーであった。

キュウソネコカミ/NHKホール
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新旧の、あるあるネタ満載の楽曲連打でシンパシーの大合唱を呼び起こしながら、「“泣くな親父”、俺も結婚したから意味が変わってくるもんなー」(ヨコタ シンノスケ/Key・Vo)、「“ゼンカナ”(“スベテヨシゼンカナヤバジュモン”)で《20代》って歌ってるのに、俺もう31やもんなあ」(セイヤ)と口々に感慨を滲ませる。「一緒に歳とれば大丈夫! 歳を取るときは四季があります!」と告げて始まったのは、なんと“春になっても”→“夏っぽいことしたい”→“秋エモい”→“冬幻狂”という、センチメンタルなキュウソの歌心をたっぷりと浴びせかける春夏秋冬メドレーだ。

キュウソネコカミ/NHKホール
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さらには、5人で椅子に腰掛けて届けられる、ハーフアコースティック編成のパフォーマンスである。これもバンド史上初の試みとのこと。柔らかくジャジーな、フュージョンテイストの“空芯菜”。そしてムードたっぷりなお洒落シティポップと化した“サブカル女子”。シュールな選曲の妙もさることながら、とにかく技術に裏付けられた演奏が素晴らしい。「“空芯菜”っすか、今の!?」と自分たちでツッコんでいたが、音源化もしくは映像化を切望するレベルの名演であった。

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その後も、セイヤが真っ赤なドレスと派手な頭飾りを身につけ(背後には同様のビジュアルの「メガセイヤ」が)歌う、どこかで観た感じの“伝統芸能”や、くじ引きでヨコタ、ソゴウ タイスケ(Dr)、カワクボ タクロウ(B)が代わる代わるリードボーカルを務める“家”のコーナー(オカザワ カズマ/Gは一番やる気を見せていたのに今回は出番がなく残念)、そしてでんでん太鼓を手にしたセイヤが龍に乗って場内通路を練り歩く『まんが日本昔ばなし』風の“お願いシェンロン”(番組が違うし局も違う)と、サービス精神旺盛にネタを仕込みまくるライブになった。

キュウソネコカミ/NHKホール
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それでも、今回のステージを支えていたものは、キュウソが生み出してきたエモーショナルな歌の数々、そして培われた演奏の力に他ならなかった。あの手この手を用いながら、キュウソが音楽ライブの根本的な魅力に到達していたのが、今回のホール公演だったのだ。本編ラストの“越えていけ”ではその事実を突きつけられる思いがしたし、ネズミくんの着ぐるみや、オカザワのネズミくんギターまでが登場したアンコールでセイヤは「できるだけ長く音楽続けますー! またどこかで会おうぜ!!」と告げていた。今夏ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018では、いよいよ最大規模となるGRASS STAGEに登場(8月4日(土))。ライブバンドとして飽くなき努力を続ける彼らの勇姿を、ぜひ見届けてほしい。(小池宏和)

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