All photo by Yosuke Torii
定刻になると、フロア右手側に設置されたプロジェクターに“秒針を噛む”のMVが映された。直後、パリンとガラスが割れる音がし、入場時に渡された紙製の眼鏡型目隠しをするようアナウンスがあった。どよめくオーディエンス。無理もない。こんなアナウンスがされるライブは他にないのだから。そもそも、ずっと真夜中でいいのに。は、ACAねという名の女性ボーカリストが中心人物だということ以外は謎に包まれている。ライブもほとんど初めてだから、周囲の観客がどんな盛り上がり方をするのか、誰も知らない。フロアは超満員。しかしここは未知だらけ。そんな状況により、フロアは独特な昂揚感に包まれていった。
1曲目は、ずっと真夜中でいいのに。の名前が急速に知れ渡るきっかけとなった曲、“秒針を噛む”だった。ACAねの声は生で聴くとより力強く、会場の奥まで軽々突き抜けていく様子が痛快ですらある。1番を歌い終えたところで「眼鏡、取っていいよ！」とACAね。ここでオーディエンスは初めて、ステージの中央に立つACAねと、ギター／ベース／ドラム／キーボードから成るサポートバンドの姿を確認することができた。
最初は比較的じっとしていたオーディエンスも、メガネを外して以降は、バンドのサウンドに心を預け、身体を動かし始める。“秒針を噛む”の2回目のサビを迎えた時点では早くもフロアから腕が上がり、次の曲が始まる際にもテンション高めの歓声がいくつも聞こえてきた。ライブ序盤にして、未音源化曲でも大きな手拍子が起こるほどの盛り上がりに。ACAねは、上体を畳んだり、リズムに合わせて頭を軽く振ったり、拳をグッと握りしめたりしながら歌っている。序盤は少し動きが固く、若干の緊張を読み取ることができたが、セットリストが進むにつれて、それもどんどん和らいでいった。
最初のMCでは、「はじめまして、ずっと真夜中でいいのに。です。やっとやっと今日だなって気持ちがあって……あ、まず、あけましておめでとうございます」と挨拶し、「アルバム以外の曲もたくさん歌っていこうと思ってるので楽しんでいってください」とオーディエンスの期待を煽った。その言葉通り、今回のライブは、昨年11月にリリースされた1stミニアルバム『正しい偽りからの起床』収録曲や、まだ音源化されていないオリジナル曲、さらにEveのカバー“あの娘シークレット”を含んだ、盛りだくさんな内容だった。
個人的に印象的だったのは、「熱帯魚のハタタテハゼをイメージして作った曲」と紹介されなければそんな由来があるのだど想像できないほど、クールで緻密な展開が持ち味の“ハゼ馳せる果てまで”。歌と鍵盤の二重奏で届けられた、フランケンシュタインと人間の恋を描いたバラード“Dear.Mr.F”。音源の時点で人懐こいキャラクターをしていた“雲丹と栗”では、ACAねがおたまでフライパンを叩きながら歌っていて、その調子外れな音がまた愛らしかった。
「今この状況にいることが不思議で幸せで、ずっとここにいたいと思えるくらい幸せです」と実感を伝えたあと、いよいよライブは終盤へ。クライマックスにかけては“脳裏上のクラッカー”を中心としたアッパーチューンで畳みかけた。ACAねのボーカルは衰えるどころか鋭さを増していくばかり。特に圧巻だったのは、本編最後の曲。この曲では、ハイトーンのロングトーンを響かせ、フロアから歓声を掻っ攫ったほか、その歓声を受け、アウトロでスキャットを披露してみせたのだ。ラストに、新曲“眩しいDNAだけ”のMVが一部公開され、ライブは終了。終演後、オーディエンスの歓声がわーっと溢れ出すなか、「ありがとう！」と叫んでいる人がかなり多くいたことにも驚かされた。どうしてもACAねへそう伝えたい、そんな気持ちになったのだということだろう。
最後のMCでは「いつもTwitterとかYouTubeでしか会えなくて。コメントいつも見てます、ありがとうございます」と伝えつつ、リスナーが自分の曲を細部まで聴いていてくれていることに対する驚きや感謝を語っていたACAね。この1stライブは彼女にとってかけがえのない経験になったことだろう。ずっと真夜中でいいのに。は、今回のライブのチケットが即日ソールドアウトしたことを受け、4月には東名阪で追加公演を開催するという。気になる人はぜひこちらのツアーをチェックしてみてほしい。（蜂須賀ちなみ）
