銀杏BOYZ/日本武道館

銀杏BOYZ/日本武道館 - All photo by AZUSA TAKADAAll photo by AZUSA TAKADA

●セットリスト
1. 生きたい
2. 若者たち
3. 駆け抜けて性春
4. GOD SAVES THE わーるど
5. 骨
6. 恋は永遠
7. 夢で逢えたら
8. ナイトライダー
9. I DON'T WANNA DIE FOREVER
10. 漂流教室
11. 新訳 銀河鉄道の夜
12. NO FUTURE NO CRY
13. SEXTEEN
14. スローバラード
15. 光
16. ボーイズ・オン・ザ・ラン
17. BABY BABY
18. 僕たちは世界を変えることができない
19. エンジェルベイビー
(アンコール)
EN1. ぽあだむ
EN2. もしも君が泣くならば


「俺にとって1月15日というのは、誕生日であり、葬式であり、結婚式みたいなものです。今日も身体の続く限り、銀杏BOYZ、心を尽くして歌います。よろしくお願いします」。ステージに登場した峯田和伸(Vo・G)は、かつてのGOING STEADYの解散発表が行われた日であり、すなわち銀杏BOYZが始まった日であり、作品のリリース日でもある日付について、そんなふうに語った。2017年10月以来、2度目の日本武道館「世界がひとつになりませんように」である。

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上下のジャージを纏ってアコギを奏で歌う“生きたい”。陰惨な現実から目を背けるわけにはいかない、そんな峯田の真っ直ぐな眼差しがスクリーンに大映しになる。途中から、山本幹宗(G)、加藤綾太(G)、藤原寛(B)、岡山健二(Dr)という近年お馴染みのサポートメンバーがオンステージし、峯田が「ベイベーッッ!!」と激情のシャウトを放ってステージ上にひっくり返るや否や、バンドの轟音が決壊するオープニングだ。その残響を引きずってブライトな爆音へと転化させる“若者たち”や“駆け抜けて性春”では、オーディエンスたちも解き放たれたように歌声を上げる。

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ライブへの臨み方は人それぞれでいい。そんなふうに促して、昨年末のツアーのタイトルにもなった新曲“GOD SAVES THE わーるど”へ。“骨”や“恋は永遠”といった所謂「恋とロックの三部作」のドタメシャなアンサンブルから立ち上る甘美なメロディも今や欠かせないレパートリーとなっているが、その間に峯田は「人殺しであれ、不倫している人であれ、ラブソングそのものには罪がないと思っています。作ったときに本気であれば、それは本物だと思います。もしかしたら、誰かが作った歌で悲しい気持ちになるかもしれない。それでも歌わせてください。それでも歌わせてください」と、ラブソングを歌う覚悟を伝えるのだった。

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ギター音響のコントロールが素晴らしい“ナイトライダー”の後には、鮮烈なイントロが鳴り響いて“I DON'T WANNA DIE FOREVER”だ。一応セットリスト上の表記ではそうなっているが、“あいどんわなだい”に近い有機的なロックアンサンブルである。峯田はステージの淵に身を乗り出し、コール&レスポンスを巻き起こす。カート・コバーンが他界した直後に祖母が亡くなり、ニルヴァーナのアルバムは線香の匂いを連想させること。レコーディング中のストレスにスタジオを飛び出し、環七を走るタクシーのラジオでRCサクセション“スローバラード”に触れるというドラマティックな体験をしたときには「もう一度やってみるか」と思ったこと。心を揺らす音楽は峯田の記憶の引き出しを開き、次々にエピソードを溢れ出させる。

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「雪が降ればいいなと思っていました」と届けられる“新訳 銀河鉄道の夜”は、無数のLEDが降り注ぐ雪のように煌めく演出で美しい。ミラーボールの光が、武道館の天井に写り込んで模様を描くさまも素晴らしかった。そして、峯田が2011年に他界した所属事務所元社長(坂田喜策氏。RCサクセションのマネージャーを務めていたこともある)の思い出を語った直後には、ステージ上に置かれていたキーボードを前に、名手Dr.kyOnが登場。彼のピアノ伴奏で“スローバラード”をカバーする。パンキッシュなボーカリストではなく、味わい深いテナーの響きで酔わせるシンガー峯田が顔を覗かせる熱演だ。そのままピアノ伴奏アレンジの“光”へと繋ぎ、バンドによる際限のないクレッシェンドで締めくくられるパフォーマンスは、心ごとぶっ飛ばされる凄まじいものであった。

銀杏BOYZ/日本武道館
銀杏BOYZ/日本武道館
そして本編終盤は、新旧不滅の青春アンセム群が畳み掛けられる。声を枯らし、目をキラキラさせて歌う峯田は、ジャージ姿にも関わらず、歴史的なパンクアイコンたちとダブって見える。「銀杏の最後のアルバムから、5年経ってんですね。長いですよね。そろそろ作ります、アルバムね。もう買ってくれとか言いません。なんか気が向いたら、それでいいんで。2019年は、なんとか頑張って作ります」。そんなふうに告げて嬌声を浴びると、峯田は当初の銀杏BOYZメンバーと初めてスタジオで音を鳴らした瞬間をなぞるように、メンバーと向き合って“BABY BABY”を放った。“僕たちは世界を変えることができない”の直後、《ロックンロールは世界を変えて》の“エンジェルベイビー”が続く流れはあまりにもドラマティックだ。

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アンコールでは、「またやりたいね」と告げる峯田。「汚い手を使ってもいいんで、生き延びてください」というメッセージは、極限まで追い詰められた魂にこそ届けられるべきだろう。不協和音とノイズ、ハウリングにまみれた銀杏BOYZのロックは、しかし今回も確実に、触れる者の魂を浄化していた。そして、一度は仕切り直しになってしまったけれど、今や一枚岩のバンドとなっているこのメンバー編成による“ぽあだむ”は、恐ろしくタイトなグルーヴの爆走でめちゃくちゃカッコいい。記憶をなぞるだけではない、不確かな未来をどうにか照らそうとする、武道館の3時間であった。(小池宏和)
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