※以下のテキストでは、演奏曲のタイトルを一部表記しています。ご了承の上、お読みください。
昨年9月以降、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)の頸椎椎間板ヘルニアのためにライブ活動を休止していたマキシマム ザ ホルモン。その復活の第一歩となるツアー「これからの麺カタコッテリのTOURをしよう」初日の舞台はホルモン約束の地、八王子Match Voxである。今回のツアーは各地対バンを迎えての開催となっており、初日の相手はなんとMAN WITH A MISSION。こいつらをここに呼べるのは世界中でホルモンだけだ。
ところが、ライブはいきなり予想外の幕開けとなる。開演時刻を20分ほどすぎてMWAMのマネージャーがマイクを持ってステージに出てきた。いわく、ジャン・ケン・ジョニー(G・Vo・Raps)が体調不良で、ギリギリまで出演する方向で検討していたものの断念せざるを得ないとのこと。ただし、出演はキャンセルせず、ジャン・ケン以外のメンバーでライブを行う――その発表に、最初は驚きと失望の入り混じったような声をあげていたフロアから大きな拍手が巻き起こる。ほどなくして、トーキョー・タナカ(Vo)、カミカゼ・ボーイ(B・Cho)、DJサンタモニカ(Djs・Sampling)、スペア・リブ(Dr)、そしてサポートメンバーのE.D.Vedderがステージに登場した。“FLY AGAIN 2019”から始まったライブはインストを含めわずか4曲、時間にして約20分という短さだったが、ジャン・ケン不在の穴を鬼気迫るような演奏のテンションとあふれる思いでカバーするような熱いパフォーマンスに、惜しみない拍手が贈られた。
そして、いよいよホルモンである。おなじみのSEが轟くなか登場したナヲ(ドラムと女声と姉)、マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)、ダイスケはん、上ちゃん(4弦)。1曲目から怒涛のセットリストで爆音を撒き散らしていく。「超楽しいぞ! 帰ってきたぞー! ほんとに……あー、ライブやってるわー!」とナヲ。亮君もニヤリと笑みを浮かべる。「タンポポの綿毛に乗ってやってきました」というちょっと懐かしいパターンの口上に続く「三度の飯より飯が好き!」の自己紹介にも復活の実感がこもっていて、それがぎゅうぎゅうに密集した腹ペコたちにも伝播する。1曲ごとに巻き起こるヘドバンにジャンプ、突き上げられる拳、すべてがホルモンのライブを浴びる喜びであふれかえっている。
ナヲが初めてこのライブハウスに来た人にエアコンの効きが悪いことを説明してスタッフにクレームをつけたり、復活の張本人であるダイスケはんが「おまえたちとこうやって魂ぶつけ合うワクワクしかなかった」と熱い言葉をフロアに投げかけたり、かと思えばいきなり大相撲の推し力士の話を始めたり……とMCも絶好調。ナヲとダイスケはんの阿吽の呼吸のボケとツッコミも、いちいち「ああ、ホルモン観てるなあ」という感慨を呼び起こす。そんななか、ナヲは今日の相手にMAN WITH A MISSIONを招いた背景についても口にしていた。「いろいろあって、どうしても八王子でやりたかった」――詳細は語らなかったが、特別な対バンであることは伝わってきた。さらにナヲは今日万全な体制でライブをできなかったMWAMと「八王子でリベンジしたい!」と宣言。これはいつか本当に実現すると思う。
今回のツアーは昨年11月に発表された移籍第1作『これからの麺カタコッテリの話をしよう』のリリースツアーという位置づけでもあり、もちろんその収録曲も披露されたが、ライブ全体を見渡せばまさにホルモンのベスト的な選曲。 “「F」”、“爪爪爪”、“ロッキンポ殺し”、“恋のスペルマ”、そして“恋のメガラバ”まで、飢えた腹ペコにいきなりそんなに栄養注入したらどうにかなっちゃうんじゃないのという大盤振る舞いで休む暇がない。しかも、休止明けでフレッシュだから、というわけではないだろうが、どの曲もシャープさを増した印象で、とりわけダイスケはんは声、動きともに完全に仕上がっている。アンコールで披露された“拝啓VAP殿”ではナヲがフロントに出て踊り歌い、ドラムは首にコルセットを巻いたダイスケはんにそっくりな「1234おじさん」(「1234!」しか言えない)が叩く。ファストでアッパーなメロコアチューンはここから始まる新たなホルモンストーリーの狼煙のようでもあった。
全19曲、完走した後にナヲが言った「みんなで一緒に登山した気分」という感想はまさにそのとおりだが、空気の薄いこの場所に来たからこそ見えた最高の景色、美しいご来光のようなホルモンのライブはやはり格別だった。やっぱりこれだよ、これ。乾いた喉にビールを流し込んだときのような問答無用の生理的快感。待ち望んでいた腹ペコたちにとっては、文字通り生き返る心地の夜になったはずだ。(小川智宏)