●セットリスト
1.星の消えた夜に
2.Sailing
3.Blind to you
4.ポラリス
5.夜行列車~nothing to lose~
6.メドレー(AM02:00~AM03:00~AM04:00)
7.Stand By You
8.We Two
9.Torches
10.STAND-ALONE
11.Black Bird
12.I beg you
13.Daisy
14.コイワズライ
15.3min
16.Hƶ(ヘルツ)
17.ONE
18.RE:I AM
(アンコール)
EN1.marie
EN2.カタオモイ
EN3.六等星の夜
2019年9月にメジャーデビュー8周年を迎えたAimerは、常に新たなトライを続け、それを誠実に積み重ねてきたアーティストである。それを改めて実感したツアーファイナルシリーズだった。
2017年8月の日本武道館公演で「blanc(白)」と「noir(黒)」をコンセプトにしたライブを展開した彼女は、今回のツアーで熱を帯びている「rouge(赤)」と夜を濃く感じさせる「bleu(青)」をフィーチャー。ツアーファイナル2Daysの初日は青から赤へと移り変わるイメージでセットリストが構成された「~bleu de rouge~」と題され、最終日の「~rouge de bleu~」はそれとは逆に赤から青へとつないでいくセットリストであるという。
どちらか1公演だけ参加してもAimerの色彩豊かな楽曲群を楽しめるだけでなく、2公演参加するとより多角的に曲の味わい深さを再確認でき、多彩なクリエイティビティを実感できるというわけだ。曲順が変わるとライブの印象がどのように変わるのだろうか。初日に参加し、満足感を得るとともに最終日への想像をかき立てられた。
会場が暗転すると、幻想的なSEに乗せ、細く光る赤と青のライトが空間をやおら照らす。その光は時に重なり紫になりながら、遠くまでまっすぐと伸びていった。背景に青い星空が広がると、その中央からAimerが現れる。序盤2曲は“星の消えた夜に”から“Sailing”というミディアムナンバー。瑞々しくやわらかい歌声は、海のように深く鮮やかに青の世界を描いていった。“Blind to you”や“ポラリス”では、ただただ実直に相手を想う清廉な気持ちを丁寧に歌へと落とし込んでいく。これほどまでに繊細で潤いに満ちた憂いをまとった声を持ちつつ、歌の感情を悲哀に着地させないのは、彼女が心の芯に強かな美しさを持っているからに他ならない。
「夜の時間のなかでも、みんなが盛り上がっているところが見たいんですけど、どうでしょう!?」という彼女の呼びかけで、シティポップテイストの「AM」シリーズ3曲をメドレーで届ける。Aimerはステージを端から端まで動いて、客席に手を振るなどしながら観客の目を見て笑顔を浮かべて歌唱。“Stand By You”で壮大な空間を作り出すと、“We Two”ではジャンプ、シンガロング、ピースサインで天を仰ぐなど、幸福感に満ちたステージを繰り広げた。
息を整えた彼女は「新しい夜の始まりに作った曲を歌いたい」、「みんなと明かりを灯して、新しい夜に行きたいと思って作った曲です」と話し、“Torches”を歌い始める。炎を掲げて歌う姿は非常にシンボリックで、ステージ中央にある坂道をのぼって星空の向こう側に彼女が吸い込まれていく様子は、かぐや姫が月に帰っていく様子を見ている感覚に陥るように神秘的だった。最後、ステージは赤と青の2色で彩られる。穏やかで逞しい分岐点に、客席からも大きな拍手が沸いた。
バックバンドによる転換インストゥルメンタルを挟み、ステージ一帯が赤で染まると、赤い星空のなかに衣装チェンジをしたAimerが再登場。“STAND-ALONE”でしなやかな歌声を響かせると、曲そのものの粘度がとても高い“I beg you”ではそれをボーカルでも伝えていく。妖しさに宿る静かな狂気に、背筋が凍るような感覚がありつつも心地よさを感じてしまう。全身を赤に塗りたくられるような、赤に喰われてしまうような時間に、ただただ圧倒されてばかりだった。
“Daisy”や“コイワズライ”といったやわらかい空気感のナンバーを届けたあとは、「真っ赤に燃え上がった時間を一緒に過ごしたい」とアーバンなムード漂う“3min”でもって観客を軽やかに高揚へと誘い、スタジアムロック感のある“Hƶ(ヘルツ)”で「拳を掲げてください」と煽りシンガロングを求めるなど、のびのびと観客との時間を楽しんだ。“ONE”ではAimerのライブでは初の試みとなる銀テープが噴射。解放感のあるダンスナンバーに乗せて、2階席まで届くほどの勢いで真っ赤なテープが飛んでいく景色は、雲ひとつない青空のように非常に壮観だった。
「すごく緊張してたけど、みんなが楽しんでくれたおかげで今は全然緊張してない」と安堵したように笑うAimerは、そのあと気持ちを一つひとつ丁寧に言葉にしていった。デビュー当時のように眠れない夜に寄り添いたいと思う自分もいれば、この8年半の間に「眠れない夜を過ごすあなたを守りたいと強く思う自分も生まれた」と話し、様々な経験を経たことで「今の自分ならみんなと一緒に夜のなかを進めると思う」と語った彼女は「いつもわたしが一緒にいると思っていてください。わたしもいつも、あなたと一緒にいると思って歌を歌い続けます。わたしにはこれしかないので、音楽でみんなを守れるように歌っていきたいです」、「また会いに行きます。みんなも会いに来てください。これからも一緒に生きていけたらうれしいです」とまっすぐ観客へと熱視線を送った。
「わたしに初めて力強さをくれた曲」と前置きした本編ラストの“RE:I AM”では、光の演出で赤と青の世界が広がる。最後の一瞬、白い光でステージが包まれたシーンは、「寄り添う」という青と「守る」という赤でもって、白というどんなものをも照らせる混じり気のない光を作り出せるアーティストであることを物語っているようにも見えた。
アンコールはバックバンドのバンマスであるキーボーディストの野間康介と2人編成で新曲“marie”など3曲をパフォーマンス。「わたしの夢はただひとつで、これからも音楽を作り続けて歌を歌い続けること。そのためにこれからもいろんな自分に会いに行きたい」、「この声が出る限り歌い続けていきたい」と想いを告げ、観客へ感謝を伝えると、デビュー曲である“六等星の夜”を届け、自分自身の原点でこの日の夜を締めくくった。
青から赤へと移り変わるセットリストは、彼女の8年間の変化や進化をドラマチックに描いていた。だからこそ銀テープや観客を煽るなどの初めての試みも、それを賑わせていく非常に重要なシーンとして機能していたし、同時に赤から青に移り変わるセットリストではどんな物語を描いたのかも気になってしまう。この8年半もの間に様々な自分を見つけ出し、アーティストとして成熟していくと同時に過渡期を迎えているAimerの姿は、とても清らかで凛としていた。(沖さやこ)