ライブも、環境も、素晴らしい一昼夜だった。天候に恵まれ、夜間は涼しいが寒くもなく凪。僕自身は持参した長袖、ましてやレインスーツなどはバッグにしまいこんだままだった(もちろん、休憩や仮眠に備えて用意するに越したことは無いが)。ライブ・パフォーマンスは2ステージ制で、さらにDJテントであるBAYSIDE FREE THROW TENTも設けられている。EAST ISLAND STAGEとPLANT STAGEの2ステージは交互に、僅かなサウンド・チェック時間を挟んで絶え間なく稼働するシステム。ここで14:40から29:30(翌朝5:30)まで、15時間、延べ20組のライブが行われた。僕はすべてのライブを観るつもりで会場に向かったのだが、川崎駅からのシャトルバスを利用したアクセスに思いのほか手こずってしまい、オープニング・アクトの0.8秒と衝撃。、そしてThe Mirraz、SITER JETと3組も見逃すという失態からスタートしてしまった。では以下、その後のステージの模様を、駆け足でレポートしていきたい。
EAST ISLAND STAGEにはOGRE YOU ASSHOLEが登場。RIJ 2011出演を最後に脱退した平出の穴を埋めるサポート・ベーシストの清水を交えた4人編成で、ゆったりと、余裕すら感じさせるような美しい音響とグルーヴが緑のフィールドを満たしてゆく。我が道をゆくオウガのバンド・サウンドは出戸の細いボーカルがアンバランスに思えるほど独特の貫禄を纏いつつあるが、耳なじんだ曲が聴けないなあ、と思っていたら先頃リリースされたばかりの新作『homely』中心の選曲であった。これは早く聴かないと。続いてはPLANT STAGEで千葉出身の女子3ピース、つしまみれ。まったく、キュートな装いからは思いも及ばないような荒々しさと激情を放つバンドだ。まり(Vo./G.)が「こんな海を眺めながらやれる曲はこれしかない、と思って持ってきました」と語って披露された“なmellow”は、目一杯ダウナーな場所からぶち切れたテンションに持ち込むナンバー。でも、そんな激しいパフォーマンスの中で垣間見せる、知的で奥深い作曲もおもしろい。最後にはやよいのベースにトラブルが発生してしまったけれど、勢い任せに“タイムラグ”をやり切る、という頼もしいところも見せてくれた。
夕焼け&日没のおいしい時間をさらっていったのはTHE BACK HORNだった。“雷電”での凄絶な絡み合いに始まり、近年の彼らの代表曲を中心にしたセット・リストとなっていた。“戦う君よ”、“コバルトブルー”、“刃”という、夕暮れとともに自らの命を燃やし尽くすような連打は凄かったが、山田(Vo.)が「明日で、震災が起きてから半年が経とうとしています。THE BACK HORNは、震災が起きてからこの曲を書きました。皆さんの明日が、少しでも美しいものになることを、THE BACK HORNは願っています」と真摯に語って披露した“世界中に花束を”が一際、感慨を引き出してくれた。そして、10月にワンマン・ツアーを控えたSuiseiNoboAzへ。「これから夜になります。SuiseiNoboAz・フロム・トーキョー!」と石原(Vo./G.)が挨拶して威勢よく走り出す鋭利なバンド・アンサンブル。石原のスポークンワード混じりのボーカルにせよ、溝渕(B.)の今にも何かを語り出すような高速スラップにせよ、3者3様の高い表現技術が楽曲のエッジとして機能している素晴らしいパフォーマンスであった。ラストは石原が、ギターのボディに思いっきり頭突きを見舞いながら圧巻のフィニッシュ。
日が沈むと、工場地帯の夜景が美しい。遠く、いくつもの塔の先端で、原油の炎が燃え盛っている。“王様と乞食”によって静かに、だが着々と空気を浸食するようにバンド・カラーに染め上げていったのはSHERBETSだ。キャリアを見渡す選曲だったが、“これ以上言ってはいけない”は現実を越えてゆくベンジーの想像力が、今もキレキレであることを示す。必殺“ジョーンジェットの犬”でオーディエンスを沸騰させ、最後に詩情が溢れ出す“小さな花”を聴かせてベンジーがピッと放ったピックが、飛ぶ飛ぶ。PAテント方向20メートル近くは飛んだのではないだろうか。そしてOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDが登場。TOSHI-LOWのボンゴを交えたリズム・セクションによるジャムを披露した後、バンドで“New Tale”、“Black and Blue Morning”etcと、豊穣な時間を練り上げるパフォーマンスを見せてくれた。マーティンが10/15~16に山梨県で行われるOAU企画の『New Acoustic Camp 2011』について告知すると、TOSHI-LOWは「朝までみんなでやれるフェスってのは好きです。今、都内とかだと朝まで出来ないからね。怪我とか事故とかにはくれぐれも気をつけて。来年も続けるためにね。こういうとこで痴漢とか置き引きとかは、殺していいので。なんかあったら言ってください(笑)……あの日から半年経って、今度は平成で最悪と言われる台風12号が紀伊半島を襲って、床上浸水だけじゃなくて、KOHKIが育ったとこの近くでは道が断たれて孤立した集落とかあって、20キロ歩いて水を運ぶ人とかもいて。やっぱ三陸で、みんながくれたお菓子とか水とかを涙ながらに受け取った人の顔を見てるから、今回も何かしたいなと思っていて。物販のとこに義援金箱を置いたので、よろしくお願いします。一円でもいいので。一円で救える命があるから。わかってるんだよ。いい奴がいれば悪い奴もいる。でも、俺は顔が見えない人のことを信じてるから。じゃあ、何があるか分からないけど、明日も歌えたらいいなって曲を」と語って“夢の跡”に繋ぐさまは、間違いなく今回のハイライトのひとつだったろう。
さあ、いよいよと言うべきか、今年活動を再開したPENPALSのステージである。彼らを目当てに来場したと思しきオーディエンスも多く、ビースティ・ボーイズ“サボタージュ”のSEと大歓声の中に登場したオリジナル・メンバーの3人は、ステージを目一杯使って大きな三角形を描くようにポジションについた。繰り出されるのは、“ASTRO MOTEL”、“CARS”、“70 TIMES”といったデビュー・アルバム冒頭の楽曲たちだ。これは熱い。パンキッシュで骨太な、そして切ない、ペンパルズでしかありえないバイブス。林宗應(VO./B.)は「お久しぶりです。5年ぶり、か? ちょっと前にも大阪でやったんですけど、今日もこんなにたくさんの人が観ててくれて嬉しいです。大丈夫。知ってる知ってる。そういうわけで、のんびりいきましょう」と語った。林と上条盛也(Vo./G.)、それぞれのリード・ボーカル曲は半々ぐらいといったところだろうか、終盤の“I WANNA KNOW”、“Americaman”、“TELL ME WHY”ではここまでで最大と思える盛り上がりを見せてくれていた。観ることが出来て良かった。続いては愛媛出身の若き4人組プログレ・ジャム・バンド、regaが登場。なんでそんなに激しいアクションを見せながらそのプレイが出来るんだ、というパフォーマンスで、難易度の高いコンビネーションの中にもきっちりとダンス性が備わった演奏でオーディエンスを弾けさせていた。ロックとかプログレとかそういう歴史の重さはどうでも良くて、とにかく本気で楽器で遊んでいたらこうなった、という感じが痛快である。
細美がアコギとエレキでそれぞれサウンド・チェックがてら弾き語りを披露した時点で既に素晴らしかったthe HIATUS。このバンドの狂音のシンフォニーはぜひ正面で聴かねば、と思って慌てて移動した。この硬質で、なのに深いレイヤーを織り成しつつたなびく不思議なthe HIATUSの音響も、第1期の完成を見るような盤石ぶりを聴かせてくれている。その音の海をかいくぐるように歌声を届ける細美、「今、アルバム作ってるんですけど、今日は息抜きで、BAYCAMP、最後まで楽しもうと思います」と、アッパーに弾ける“紺碧の夜に”や“ペテルギウスの灯”ではオーディエンスと楽しさを分かち合うようにしていた。そして歌姫・ELYを擁するダンス・ロック・ユニットのBREMENへ。ダブステップ風のモダンなトラックの上をKOHJIROのギターが跳ね回り、ときにはELYもスティックを振るってパッドを打ち鳴らす。熱いラテン・バウンス・チューンあり、コズミック・ファンクありで瑞々しくポップなダンス・ロックの数々で楽しませてくれていた。10/29に渋谷WOMBで初の自主企画を行う、という告知もなされていたが、KOHJIROは近く子供が生まれます、という喜びの報告で頭が一杯だったようだ。
“For Divers”から《BAYCAMP調子どうだ?》の歌い出しで始まる“La Bamba”と、フェス仕様ラテン・ミクスチャーの連打でいきなり沸点に到達。そんな午前0時を廻った頃のDragon Ashである。現在療養中のIKUZONE(B.)に代わりサポートを務めるKenKen(RIZE)のベースは、ボディが赤青の2色に塗り分けられている。PENPALSのステージを袖から見守っていたKjは「96年頃に、ペンパルズもDAもまだ誰も知らない頃に、ライブハウスもやらしてくんねえっつって池袋の映画館で一緒にライブやって、それがこんな素晴らしいロケーションのステージで再会できてすげえ嬉しいです。ペンパルズに一曲、歌います」と“百合の咲く場所で”を捧げ、更には“Fantasista”、そしてSATOSHIとKO-JI ZERO THREEの2MCを招き入れた“ROCK BAND”と、共闘とミクスチャー・ロックの誇りを掲げた濃密なパフォーマンスになった。一方、狼人間のルックスが話題のMAN WITH A MISSIONは、新人とは思えない「出来上がっちゃってる」感丸出しのパーティ・ロックを並べ立てる。Jean-Ken Johnny(G./Vo.)はなぜか片言の日本語で「死ぬほど盛り上がって帰ってクダサーイ。今日は満月かと思ったんですケド、明日か明後日だったみたいデス。満月だと我々、ライブどころではなくなるノデ」とか言っている。ニルヴァーナ“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”のダンス・ポップ・カバーも交えながら“PANORAMA RADIO”まで、あきれるぐらい高性能なロック・エンターテインメントを完遂してみせた。
そして、深夜の屋外で鳴らしちゃいけない音ナンバー・1、POLYSICSの登場である。ハヤシも「深夜のライブ、めっちゃ久しぶりなんですよ。なんかムラムラする」と、夜のTOISUコールではちょっとダンディー風味な地声TOISUを披露。レアである。あと、長丁場のフェスなのに、この時間までしっかりと体力を温存しているファンも多過ぎ。フィールドを左右に分けて“Let’s ダバダバ”でのコーラスの掛け合いも決まる午前2時である。いつも通り盤石なハイテンションであるだけに余計にタチが悪い、そんなポリとオーディエンスであった。さて、こちらも深夜に鳴らしてしまってはヤバい、というかわざと最前のスピーカー前に陣取ってしまった僕も悪いのだが、甘美で果てしなくエモーショナルなダブを繰り出していた、あらかじめ決められた恋人たちへ。元ミドリの劔樹人による極太ベース、そして効果的に世界観を押し広げるエレクトロニカのトラック。マイクスタンドから抜け落ちたマイクを追って、床に転げながら全身全霊のメロディカを吹き鳴らす池永正二の姿は、抜き身の衝動そのものだ。すっかり飲み込まれてしまった。
ART-SCHOOLは、“水の中のナイフ”に始まり、“DIVA”、“MISS WORLD”、“スカーレット”~“サッドマシーン”と楽曲を並べる、さながらベスト盤的な内容。が、ガッチリしたバンド・グルーヴの中にもいつになく焦燥感とラフさが前に出たステージだ。木下(Vo./G.)はこの後に同じステージに登場するモーサムに触れて「《僕らはもう帰れない》~♪って、泣きながらシンガロングしようかな」と冗談めかしていたが、“シャーロット”や“あと10秒で”といった往年の名曲を披露する本人の歌が妙に若々しく、狂おしいという、その妙なギャップがおもしろかった。さあ、PLANT STAGEのアンカーを務めるのは、MONICA URANGLASSだ。セクシーポリス風の衣装に身を包み、首から大きな時計をぶら下げたフロントマン=68が煽り立てて最後のガチ上げダンス・タイムを演出する。リーダーのKAZ-TICS(G.)までが「賛否両論バンドです」と自己紹介しているのだから世話無いが、いかがわしくけたたましいパーティーをぶちまけて夜明けに繋いでくれた。なお、彼らのツアー・ファイナルとなる渋谷クアトロでのワンマンが9/21に行われるそうなので、そちらもぜひチェックを。
記念すべき初開催のトリを務めるのは、MO’SOME TONEBENDERだ。寝ている人も全員起きろ!と言わんばかりの、というか百々(VO./G.)が率直に「ウェイク・アップ! マザーファッカーズ!」と声を張り上げているのだが、まさにトリにふさわしい、とんでもない爆音を繰り出していた。武井(B.)は巨大な祭うちわを振りかざし、トゲトゲの電飾カチューシャらしきものを頭に縦に装着して、光るスパイキー・ヘアみたいになっている。で、選曲もサービス精神満点な代表曲連打なのだが、藤田(G./Syn./Dr.)がフレキシブルに活躍する今のモーサムの編成でこれをやるというのが凄い。ツイン・ドラムの“ロッキンルーラ”の後には、武井と藤田が2本ずつのライトセーバーを振り回してスウェイを煽る“Lost in the City”。アートスクール・木下もシンガロングしたんだろうか。武井が「夜明けぜよー!!」と指さした東の海には、目映い陽の光が射している。そこに投下されるのが“未来は今”だ。美しすぎる。最後に百々が「バックヤードのミュージシャンもほとんど帰りました。あ、若干残っとる。酒も飲めずにこの時間をまっておりました。じゃあ最後に皆さんに捧げます。夏の終わりにぴったりなこんな歌」と“GREEN & GOLD”へ。《見極め続けていくんだ/黄金の瞬間を 強く抱きしめたまま/苔を洗い 岩を磨き/深く息を吸え》《クライマックスはまだだよ/海へたどり着くまでは》。そんなフレーズが朝日とともに体に染み渡る。他のメンバーが去ったステージ上に百々は一人残り、まるで“星条旗よ永遠なれ”を弾いたジミ・ヘンドリックスばりに、もの凄い音のギターで“蛍の光”を奏で、そして頭からペットボトルの水を被り、笑顔で去っていった。ステージには、BAYCAMP実行委員長・青木氏が登場して挨拶する。参加者や出演者、協力者に感謝の言葉を述べ、また「来年・再来年と続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします」と語って、会場は大きな拍手に包まれたのであった。ぜひとも、またこんな光景と再会したい。(小池宏和)