ブラウスやスーツなど色とりどりの巨大な服が背後にディスプレイされ、片隅にはカーネーションが飾られたステージに5人が登場。アルバム『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』同様、“beautiful lie, beautiful smile”の雄大なサウンドスケープから“#DIV/0!”の性急なビートへ流れ込んでスタート! やっと探し当てた財宝を奪い合って1人また1人と姿を消し、最後の1人になった人間は孤独に苛まれ自ら終わりを選ぶ……というディープな世界観を展開する“#DIV/0!”が、でっかいクラップとシンガロングの渦を巻き起こし、クラウドサーファーが次から次へとステージを目指していく。「今日は僕らにとって特別の日です。最高の夜にしましょう」(金井)というコールから、柿沼広也のハード・エッジなギターと東出真緒のヴァイオリンがドヴォルザーク“交響曲第9番『新世界より』”の旋律を高らかに奏でる“荒狂曲"シンセカイ””、さらに“Paper-craft”の荘厳なまでにエモーショナルな音像へ……と次々に楽曲を畳み掛け、熱気に熱気を塗り重ねながら圧巻の狂騒感を描き出していく。そんなフロアを感慨深げに眺めながら「なんかもう、今日のために生まれてきた気がします!」「序盤から感極まって何も言えねえや!」と語る金井の言葉が、フロアの温度をさらに上げていく。「世の中だいたいお金で回ってると思ってるんですけど、今だけは信じられる。こんなクサいことも言えるんだ。『みなさん、愛で地球を回しませんか?』」と呼びかけながら《今日から地球は愛で回るよ》と歌う“Lovescape”でZeppを揺らし、「みなさん、パーティーの準備はよろしいですか?」と“Zoo at 2 a.m.”へ突入!……というところまで、体感時間でほんの一瞬だった。
本編終盤、「アルバムの話をしていいかな?」と『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』について話し始める金井に、さっきまで熱狂の極致にあったオーディエンスが身動きも忘れて聴き入っていく。「去年さ、日本がすごく悲しい、大変な時期に、ミュージシャンが愛とか希望とか平和とかをどんどん歌にしてて。俺はそれをちょっと半歩出遅れて眺めてたんだ。でも……自分がいざ何か作りたい、形にしたいって思った時、僕もそうだったんだ。何十万とか何百万の人の心を癒すような曲を作りたい!と思って作ったら、全然カッコよくなくてさ(笑)。なんでだろう?って思ったら……俺の頭の中でずっと、1人の女の子が泣いてたんだ。救えなかった女の子がいてさ。そのたった1人を救えないまま、何十万人を救おうとする歌なんてさ、まず俺に響かねえわって。何年も前の話だけど、ひとつ約束をしたんだ。その子が明日を選ぶので精一杯な時に、俺は『また君が人を信じることができるように、いつかそんな曲を作るよ』って。その約束を守れないまま、俺は逃げ出してしまったんだ。このタイミングでそのことに気づいて……その約束を果たすことが、僕がいちばん音楽に対してできる第一歩でした。その積み重ねでできあがったアルバムでした」……その虚飾なき言葉に、力強い拍手と歓声が沸き上がる。凛とした高揚感とともに響き渡る《I'm Standing on the Scaffold》(僕は絞首台に立っている)のフレーズに思わず戦慄が走り、肌を刺すような“かくれんぼ”のサウンドスケープがZepp Tokyoをさらに狂騒の彼方へと導いていく。鍛え上げ磨き上げられたロックのアンサンブルに、「想い」の力がロック以上の輝きを与えていく。最高のスペクタクルだ。
“until the blouse is buttoned up”のメロディを歌い上げてアンコールを求めるオーディエンスに応え、ほどなく5人が再び登場。「今日、母の日で、我々BIGMAMAじゃないですか? 会場限定とメールオーダーで、特別に母の日スペシャル・シングルを用意しました!」と、アルバムからシングル・カットされた“母に贈る歌”について語る金井。「“母に贈る歌”を作った時、うちの母ちゃんがいろいろあって落ち込んでたんだ。『母を喜ばせるひと言を考えよう!』と思って考えて……『またあなたの子供に生まれたいよ』って言ってあげたらいちばん喜ぶかな?って思ったけど、恥ずかしいから言えなくてさ。そういう歌を作ってこっそりプレゼントしてあげたら嬉しがるかな?って」。《本当は照れ臭いけど》と言いながら母への真っ直ぐな感謝を歌う“母に贈る歌”が、紛れもなく「今、ここ」の感動的なアンセムとして響いていた。「今日をもっと特別な日にしたかったからさ、初披露の新しい曲を用意してきた!」とひときわ清冽で伸びやかな曲をパワフルに体現する5人の熱演が、あっという間にフロアの「オイ! オイ!」コールを巻き起こしてみせたのはさすがだ。
最後の“Neverland”まで約2時間。「すげえ前にBUMP OF CHICKENのZepp Tokyoを観に来て。確か俺のバージンを奪ったのはZepp Tokyoだったんだ(笑)。そこでツアー・ファイナルを迎えてることが未だに信じ難いし。いきなり後ろから『ドッキリでした!』って言われても、わりと受け止める自信はある!」と金井はMCで話していたが、もはやZepp完全掌握どころか「その先」のスケールの音と訴求力を自ら実証してみせた、堂々のロック・アクトだった。終演後、「よかったら持って帰ってください!」と金井が呼びかけていた通り、ツアー・ファイナルに寄せられたカーネーションはじめ祝いの花を手に汗だくの笑顔で会場を後にしていく観客の姿が、いつまでも胸に残った。(高橋智樹)
01.beautiful lie, beautiful smile
02.#DIV/0!
03.GhostWriter
04.最後の一口
05.荒狂曲"シンセカイ"
06.Paper-craft
07.Gum Eraser
08.Lucy
09.Lovescape
10.Zoo at 2 a.m.
11."Thank You" is "Fxxk You"
12.走れエロス
13.the cookie crumbles
14.アリギリス
15.週末思想
16.I'm Standing on the Scaffold
17.かくれんぼ
18.I Don't Need a Time Machine
19.秘密
20.until the blouse is buttoned up
Encore
21.母に贈る歌
22.ダイヤモンドリング
23.新曲
24.Neverland