ホールに入ると、ザ・ダムドの“Stab Your Back”や“Feel The Pain”、クラッシュの“Police & Thieves”がかかっている。グリーン・デイのライヴではお馴染みだが、おそらくこのあたりの選曲はバンドの意向によるもの。ステージ・スタッフが姿を現すだけで客席からは何度も手拍子が巻き起こり、意味不明の雄叫びが上がり、ステージ・スタッフによる客席の記念撮影が始まると、多くの手が上がる。期待感は尋常じゃない。でも、この期待感を常に受け止めてきたのが、グリーン・デイというバンドだったりする。そして、19時30分、客電が落ちる――。ここからは具体的な曲名に触れて、レポートしていきます。
トレを先頭にメンバーが走って入ってくる。ビリー・ジョーはゆっくりとした足取りでステージに姿を現す。そして、いきなり1曲目に演奏されたのは“Welcom To Paradise”。このオープニングで盛り上がらない訳がない。バンドのサウンドは、いつものグリーン・デイの較べると、ちょっとラフ。どんな時も完璧なサウンドでライヴをやってくれるバンドだけに不思議だったのだが、次第にその意味が明らかになってくる。ビリーは早くも鼓舞するように「トキオ!」とオーディエンスに向かって呼びかける。オープニング・ナンバーを駆け抜けた所で、高々と腕を上げるビリー。今のシーンに最も必要なバンドが新作を引っさげて帰ってきた、そんな感慨が訪れる。そして「アリガトウ」という一言から、2曲目は新作『ウノ!』収録の“Nuclear Family”。グリーン・デイらしいエネルギッシュなリフと疾走感、そしてそこに花を添えるマイクのコーラスというザッツ・グリーン・デイとでも言うべき楽曲。まるで初期の彼らを観ているようなストレートさがある。ほとんどの人が初めて聴いた楽曲だと思うのだけど、最後のコーラスでは巨大なシンガロングが巻き起こっていた。こんなことをできてしまうのがグリーン・デイというバンドなのだ。
5曲目は、新作『ウノ!』から“Carpe Diem”。ビリー節というか、多くのシンコペーションと非常にエモーショナルなメロディが、実にグリーン・デイらしい曲だ。間奏では一面ハンドクラップが広がる。この頃にはステージのサウンドも出来上がってきて、トレのドラムがバシバシと響いてきて気持ちいい。けれど、次に演奏された“オー・ラヴ”もそうだったが、ここ2作の作り込んできたサウンドとは違って、駆け出しのロック・バンドがライヴハウスでやっているような、剥き出しのサウンドなのだ。まるで、それはグリーン・デイのキャリアを遡るようでもあるし、“オー・ラヴ”のようにAC/DCとクイーンを合体させてしまったようなミドル・バラードを聴いていると、それこそロックの起源へと遡っているようにも聴こえる。
7曲目も新作『ウノ!』から“Angel Blue”。レコーディング中も散発的にライヴを行なって、新曲を試してきたグリーン・デイだが、この曲はライヴでも演奏されるのが初めてだったはず。楽曲は、超王道のメロディック・パンク・ナンバー。客席から渡された被り物を被って、演奏が始まった8曲目は“Kill The DJ”。続いては“Let Yourself Go”。気づいてみれば、冒頭の“Welcome To Paradise”を除いて、ここまで8曲連続新曲という展開。ライヴというより新作発表会という様相で、数年に1度しか来日しないグリーン・デイのようなバンドの場合、考えられないセットリストだと思うのだが、客席もそれを受け入れているというか、テンションがゆるむことがない。完璧にグリーン・デイのライヴとして成立してしまっている。むしろ、初期のイノセンスを取り戻したような、ストレートな新作の楽曲群を聴いていると、グリーン・デイというバンドの本質がどんどん露わになっていくような感じなのだ。最初はラフに聴こえていたサウンドも、むしろライヴバンドとしての破格の実力に焦点を当てたものだということが分かってくる。
アンコールは、ここまで新曲が多かっただけに演奏した曲目を見てもらえれば、どれだけ場内のテンションがとんでもないことになったかは分かってもらえるのではないか。“She”“Basket Case”“Going To Pasalacqua”“American Idiot”“Minority”“Lady Cobra”。どんなに小さな会場のライヴであっても、まだ足りない、まだ足りないというように、ビリーは楽曲を加えていった。そして、やっぱり新曲でライヴを終えたのも、この日のライヴならではだったように思う。
おそらくサマーソニックはここまで新曲の多いセットリストにはならないんじゃないかと思う。ただ、3部作を携えたグリーン・デイのモードは変わらない。つまり、世界最高峰の、現役のロック・バンドがスタジアムでライヴハウスのように演奏する姿が見られるんじゃないか。ぜひ多くの人に見てほしいと思う。今日のライヴを観て、かつてインタヴューした時に、ロックンロールとは最終的に何だと思いますか?という質問に、ビリーが「生き延びること」と答えてくれたのをあらためて思い出した。(古川琢也)
1. Welcome to Paradise
2. Nuclear Family
3. Stay the Night
4. Stop When the Red Lights Flash
5. Carpe Diem
6. Oh Love
7. Angel Blue
8. Kill The DJ
9. Let Yourself Go
10. Longview
11. Holiday
12. Nice Guys Finish Last
13. Troublemaker
14. Murder City
15. Hitchin' A Ride
16. Brain Stew
17. St. Jimmy
18. Give Me Novacaine
19. Letterbomb
20. Stray Heart
21. 99 Revolutions
encore
22. She
23. Basket Case
24. Going To Pasalaqua
25. American Idiot
26. Minority
27. Lady Cobra