後藤まりこ @ LIQUIDROOM ebisu

「あなたと私を紡ぐ音楽。私とあなたを紡ぐ音楽。私とあなた、あなたと私を紡いで、繭になる!」。後藤まりこが最初のMCで繰り返しこう述べた通り、昨年12月にリリースしたセカンド・ソロ・アルバム『m@u』を引っ提げての今日のライヴは、正しく我々と彼女を包み込む濃密なコミュニケーションの場となった。またそれは、2010年末にミドリの解散ライヴが執り行われたリキッドルームで、曇り無く己を映す切実な音楽を通じ自身の輝ける未来を描き出すものでもあった。なお、11日に梅田Shangri-Laでの公演を控えているためにセットリストの明記は避けるが、一部演奏曲に触れるため、参加される方はご注意を。

ライヴ全編を通じて圧巻だったのが、彼女を支えたバック・バンドの演奏。AxSxE(ギター)、仲俣“りぼんちゃん”和宏(ベース)、マシータ(ドラム)、坂井キヨヲシ(キーボード)、中村圭作(キーボード)の5人にゲスト・ミュージシャンとしてスガダイロー(ピアノ)と渡辺シュンスケ(キーボード)を迎えた豪華布陣によるプレイは、こちらの高い期待を遥かに超越した高みで鳴り響いた。1ミリの弛緩もないアンサンブルで緊張を高めに高めてからの暴力的なインプロ、あるいは蕩けるようなハーモニーで溜めこんだ興奮を爆発させるスタイルを基調としながら、出音は驚くほど豊かなもの。それが必然的に生み出す、思わず噴き出してしまうような快感を伴うグルーヴ、つまり超難度のハードルをいくつも越え、臆面もなくこれがバンド・ダイナミズムの極致と言い切れる次元に達した音がそこでは鳴っていた。

そして、後藤まりこ。激しく踊り、フロアダイヴを繰り返しながら、ほとんど息切れなく歌い上げる彼女のヴォーカリストとしての実力もまた特筆すべきものだった。それがフロアの興奮と直結したのが、最初のハイライトだった“sound of me”。後藤のもの凄い声量に圧倒される。彼女に続くように、まるで世界の終わりか始まりかを観ているかのような迫力のバンド演奏。始終両者が共に加速し続けるその大熱演は、フロアを丸ごと別の空間に連れていっているような感覚さえ抱いた。ハードコアでカオティック、だけどポップでどうしようもなくユーフォリック。人懐っこくも麗しいメロディが凄まじく高度なロックの中で生かされる気高く美しい音楽。そんな音楽を、後藤まりこは全身全霊で鳴らしていた。

ライヴが後半に差し掛かる頃、スガダイローが登場し『m@u』収録の“だいろーちゃんとまりこちゃん”が演奏される。といっても、音源自体が後藤とスガダイローの2人による即興を収めたものであるため、今日はまた新しい形での即興演奏を見せてくれた。その超人業を遺憾なく発揮するスガダイローにヴォーカル・エフェクトを駆使しながら歌ったり朗読したりしながら向き合う後藤まりこが発した言葉の中で特に印象的だったのが、「音楽になんか出会わなければよかった。でも、音楽に出会わなかったら、私は今日まで音楽を目指して生きてきたんだろう」というもの。そして、丁々発止のやり取りを続けた後、そのままバンドでの演奏に流れ込む狭間で、後藤がクラッカーを割りながら繰り返した「おめでとう!」という言葉。大勢の人間が集い少しずつ「音楽」になりつつあるこの場所を、この時間を祝福するかのようで、どうにも感動を禁じ得なかった。

7人のフル・メンバーになったバンドはさらに熱を高め続ける。そして、静と動、というより動と超動を行き来する“うーちゃん”での絶頂を更新し続けるようなプレイに寄り添いながら絶唱を終えたタイミングで後藤は、静かにスピーカー横の台によじ登った。しかし、彼女がそこから飛ぶことはなく、一通りフロアを見渡した後、地上から次の“ユートピア”を歌い出した。それは、何よりも歌へとフォーカスしている後藤まりこが表れているように思えた。今日、後藤まりこと彼女のバンドが果たした演奏はそういうものだったのだ。70分強という時間の中で、誰にも微塵の物足りなさも感じさせない120%のライヴ。120%の音楽。その得難さだけが余韻として残り続けた。(長瀬昇)
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