【独占】映画『君の名は。』、新海誠監督×RADWIMPS野田洋次郎の対談を公開!

『君の名は。』公開中、東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会

RO69では『CUT』2016年8月号より、現在公開中の⻑編アニメーション映画『君の名は。』の監督・新海誠と、その劇中音楽の全てを手掛けたRADWIMPS・野田洋次郎の対談をお届けします。


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『君の名は。』という世界を拝借して新曲を作ることが真っ当にやるべきことだと思いました(野田)

――最終的には、本当にRADWIMPSの音楽がこの映画の重要な一部になったわけですが、最初はどういう話だったんですか?

新海「川村元気プロデューサーと音楽の話をしていて『そもそも誰が好きなの?』って訊かれて『好きなのは、RADWIMPSです』って答えて。その時はラッドの音楽がアニメーションの画面に合うかどうかも考えず、単に好きなものを答えただけでした。でも川村さんが『俺、洋次郎くん、知ってるよ』と、その場でLINEをして」

――その時のこと、覚えてます?

野田「LINEが来た瞬間は覚えてないんですけど(笑)、でもお話してもらった時は覚えてます。面白い組み合わせだなあと思いましたし、新海さんの作品はもともと知ってたんです。お会いした時に本作のストーリーを持ってきてくださって」

新海「脚本の初稿でしたね」

野田「それが面白かったし、ちょっと今までの新海さんのテイストとは違うなと。一段と複雑にいろんな要素が入り組んでいたし、一読して理解できないぐらいの奥行きがあって。すごい世界が広がっているなと思いました」

新海「最初がホテルのラウンジで、次がお蕎麦屋さんでしたね」

野田「お蕎麦屋さんで会いましたね(笑)」

新海「で、その2ヵ月後ぐらいに曲が上がってきたんです」

野田「『まず読んでみて、まっさらなところで曲を書いていただけませんか』と言われて。だからどのシーンに使うとかじゃなく、まずストーリーを目にして、思ったものを曲にしてみますと。監督もラッドの曲を聴き込んでくださっていて、だからこそ『君の名は。』という世界を拝借して新曲を作ることが真っ当にやるべきことなんだろうなと思いました」


全力で投げ返さないとこんなものをもらったらもっと考えなきゃって なりました(新海)

――監督はラッドの音楽のどんなところが好きなんですか?

新海「いっぱいあるんですけど、ものすごくむき出しのヒリヒリする感じとか。小さな感情と大きな現象、たとえば個人の恋心と宇宙がまっすぐにつながっていくような感じとか。とにかく何か大きなものを懸けて作り上げてるような感覚があって、きっと会うこともないだろうけど、この人たちはすごい仕事をしてるんだなと思ってました。楽曲そのものは、自分と同じではないけれど、少し近い方向というか同じようなものを見ながら違う表現方法でやってるんだなと感じていました。でも、それだけに絡むっていうことは想像もしたことがなかったんですよね。それが川村さんに訊かれて『好きなバンドはRADWIMPS』って言った時から、作品にとってのひとつのキーワードみたいになっていって。それで改めて過去の曲も含めて聴きながら『あ、もしかしたらこういう使い方をさせてもらえれば、こういうふうに映画とつながるんじゃないか』というふうに見えてきた感じでした」

野田「やっぱり最初にストーリーを読んだ瞬間に、どれだけ入り込めるかだと思うんですよね。他人じゃないなっていうか。三葉と瀧っていうふたりはやっぱり自分の中に流れてる誰かだという気もするし。いつかの自分な気もするし、今の自分な気もする。どこかに懐かしさがある必死なふたりの姿から目が離せなくなって、これは関わりたいなって強く思いましたね。その力を借りて俺も何ができるだろうっていうことがほんとに楽しみになっちゃって。こういうモチベーションで曲を作ることは今までなかったから、すごく新しかったんです」

新海「最初の脚本はRADWIMPSの名前があがる前に書いたものなんです。で、1回初稿が終わったあとにキーワードとして自分の中にRADWIMPSっていうものが出てきた。だから、たとえば三葉と瀧が入れ替わってガチャガチャッとお互い言葉の応酬がある〝前前前世〟がかかるところって、書いた時点だとまだあの曲ではなかったんです。その時は〝君と羊と青〟を聴いてて、そしたらあの曲の疾走感とか勢いに乗って最初の脚本とは違うものが出てきたんですね。たとえば手に『うぬぼれるな』とか顔に『バカ』とか書くやり取り、あれは最初なかったんですよ」

野田「あ、そうなんですか?」

新海「そうなんです。書くということが交信というか、ふたりのやり取りになっていくけど、それは最初の脚本にはなかった」

野田「楽しい、こういう話(笑)」

新海「(笑)あれは〝君と羊と青〟からいただいたものです。あのどこまでも積み上がっていく勢いに、どうやってこのシーケンスでついていくか考えていったら、もう書き殴るしかないなと。そういうことの繰り返しでしたね」

野田「自分にとっても、いつもは自分の設定したゴールに対してそこに追いつこうとするやり方だったけど、自分たち以外のジャッジがゴールとしてあるのは新鮮だったんですよね。デビューして10年間やってきてこういう機会があるっていうのは、奇跡的だしありがたいと思いました」

――僕はやっぱりラッドだからここまで全力になれたんだと思います。自分たちでもラッドをコントロールできないし、まわりの大人たちがラッドをコントロールするのも難しいし、それは純粋な思いに純粋に応えずにはいられない人たちだからで。

野田「新海さんもそういう人でよかったなって。やっぱり1年半あったので、想像以上にわかり合えるというか。もちろん礼儀正しい方ですし、ちゃんと仕事でやってるけど、その中でも仕事としてだけではない部分も大きいので、お互いのほんとの根っこが見えるんです。俺は俺で監督の誠実さっていうか、丁寧さの中にすげえ情熱を感じるし。『ここは絶対、譲れねえんだ』っていう。ですます調のすげえ丁寧な文なんだけどメラメラいってる感じとかが見えるとうれしかったりして、俺も『チクショー!』って思いながらやったりしました(笑)。『OKです』って言われてもやっぱり『もっとやりたい、もっとやりたい』っていうのもある時はあるし。それはどうしても伝えなきゃいけない。そういう作業でしたね」

新海「OKなのにしつこいんだなあと思いました(笑)。野田くんも、すごく丁寧で優しい人なんだけど底知れぬ何かがあって」

野田「(笑)」

新海「(笑)だからうかつなことはできないし、全力で投げ返さないと。こんなものをもらっちゃったら『もっと考えなきゃ、もっと考えなきゃ』ってなりましたね」

野田「だからほんとにその場で生まれていってるんだっていうのが如実にわかって。こういう形での映画と音楽の関係って、たぶん人はやってないんだろうなあって思いました。ただ予算的とか採算的なことを考えたら、破滅に近い何かが起こっているから(笑)」

新海「すいません(笑)」

野田「(笑)ほぼ1年間こればっかりやってると、バンドは普通に機能しないだろうけど。でもそういうところじゃない何かでやりたいっていうところがあったし、1年半かけないとたぶんこれは生まれなかったんだろうなって心から思うんです。僕らが曲を作って持っていったらいつの間にかそこのシーンが延びてたりして。『その10秒間で紙が何枚増えるんですか? それって本当に大変な作業なんじゃないですか?』って。でもそれをやるってなったら、そこの10秒は俺らにとってもとてつもなく大切な10秒なわけだから、それだけの何かを込めたいなと思います」


自分たちの満足のためにやっても、そこには絶対に行けない(野田)

――最終的に、これらの音楽はRADWIMPSの『君の名は。』というアルバムとしてコンパイルされますが、純粋に音楽作品としても特別な作品になりましたよね。

野田「そうですね。これを作品として作ろうとしてもできなかったっていうのがやっぱりすごいと思います。『こういう作品を作ってみよう』なんて思ったところで、やっぱりそれは自分が掲げたゴールで、自分たちの満足のためにやってもそこには絶対に行けない。否が応でもそこに向かっていかざるをえない引力を感じて、そこで自分のまだ知らない引き出しを全部使いたいって思った。純粋にそういう瞬間が好きなんでしょうね。自分の能力を自分のためじゃないところで使いたいと思った時に出てくる新しい自分――こんなことがまだできるんだっていう。それってすごく人間として僕は好きな行為です」

――僕は、今までの新海監督の映画も好きなんですが、この映画を観て、監督はこれを作るためにアニメをやってきたのかなとまで思っちゃったんですけど。

新海「そうですね。僕もそう思います(笑)。本当に次、どうしようかと思います」

――でも、ここに行くためにはラッドの音楽の説得力が必要だったんだと思います。

野田「すごく光栄です」

新海「もしかしたら同じような方向を見ていたのかもしれないけど、違う表現を知っている人たちだから『君の名は。』という開かれた映画を作るためには、絶対に必要な存在だったんだろうなと改めて今、はっきりわかりました」
『君の名は。』公開中、東宝配給/©2016「君の名は。」製作委員会


テキスト=古河晋
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