元WHITE ASHのび太&彩、マットによる新バンドTHE LITTLE BLACKの初ライブに新たなロックの物語を見た!

元WHITE ASHのび太&彩、マットによる新バンドTHE LITTLE BLACKの初ライブに新たなロックの物語を見た!

経験を積み、人々に認知され理解され、活躍してきたロックバンドがその歩みを止めるということは、どういうことなのだろうか。解散、あるいは活動休止という形でアナウンスされる「止まり方」もまちまちだけれど、それは多くの場合、ファンの気持ちに向けてどのように覚悟を促すか、という形の違いでしかない。

ましてや、バンドが歩みを止める理由は星の数ほど存在するわけで、インタビューの中でアーティストが「理由はひとつじゃない」と語ることもしばしばだ。メンバー同士の指向のズレや、活動の行き詰まり、達成感。さらにはもっとプライベートな生活者としての事情や、メンバーの死。年齢を重ねると、自分が好きなバンドの停滞に出くわすことも一度や二度ではないけれど、こればっかりは慣れないし、どうにか喪失感と向き合っていくしかない。

ロックバンドのように組織で自己表現を志している人は、その組織と個人の自我がなるべく近くなければならない。「組織=自分自身」であることがベストだ。しかし、これは実は諸刃の剣である。組織と自分自身を重ね合わせることが出来るうちはとても幸せだけれど、組織の破綻はそのまま自分自身の破綻に成り得るからだ。普通なら、自我が壊れる前に組織(学校や会社もそう)を抜け出すところだが、「組織=自分自身」の人にはなかなかそれが難しい。

2016年末に解散を発表し、2017年3月いっぱいで歩みを止めたWHITE ASH。そのメンバーだったのび太(Vo・G)と彩(B)が、新バンドのドラマーを一般募集するというニュースに触れたとき、早い! と思った。もちろん、ある程度の構想を練っていたのだろうけれど、傍目には順調なペースでリリースやライブを行っているように見えたWHITE ASHの解散も我々からすれば突然だったわけで、それは異様なスピード展開として目に映ったわけだ。

バンドという組織が停滞したとき、そこに強く自我を投影していたアーティストは、まったく新しい表現方法を模索することが多い。或いは、それまでに行っていた別働プロジェクトを発展させることもあるだろう。いずれの場合にしても、新しい自我を確立するための時間がそれなりに必要なのだろうと想像するのだ。だから、のび太と彩のアクションの早さには、とても驚かされた。

9月21日、吉祥寺CLUB SEATAで、新バンドTHE LITTLE BLACKの初ライブを観た。この日は名ロックパーティGetting Betterのイベントであり、主催・片平実の誕生日(おめでとうございます)。DJに片平実と神啓文、ライブアクトにGaras、ent、Yap!!!、そして豪華顔ぶれのトリにTHE LITTLE BLACKという出演ラインナップだった。

「のび太〜〜!」
「……はいっ」

オーディエンスとの、馴染みのある掛け合いでスタートしたライブは、すこぶるプリミティブで、荒削りなぶん未知数のワクワク感を抱かせる3ピースのロックンロールであった。オーディションを通過して迎えられたマット(Dr。アークティック・モンキーズのマット・ヘルダースに似ているということで名付けられたらしい)は、一打一打で強烈な炸裂音のようにビートを弾けさせるドラマーだ。

野心的なコンビネーションの長尺リフがデザインされた“イキルシカバネ”など、もともとロックンロールのカッコよさにおいて突出していたソングライティングがギラリと牙を剥く。彩のうねるベースラインと威勢の良いコーラスを備えた“光”は、無条件にオーディエンスを飲み込むキャッチーなダンス性能を備えていた。メロディオリエンテッドな美しさにドキリとさせられ、日本語の歌詞が深い情緒を運ぶ“誰もいない夜に吹く風になって”は、いずれその新鮮な手応えと普遍性を世に広く知らしめるだろう。

ひとつのロックバンドが歩みを止め、新しいロックバンドが始まるには、アーティストの自我の在り方が問われる。ドラマーのオーディションを行ったということは、その時点でのび太と彩には新バンドの完全な展望は整っていなかったはずだ。とても大きな賭けだったのである。しかし、プリミティブだからこそスリルに満ちたロックンロールの形を共有してくれるマットというドラマーと出会うことで、まさに自我の根本を削り出すように、THE LITTLE BLACKは誕生したのではないか。

ロックンロールが、またロックバンドという表現形態が3人の新しい輝き方を試してくれる。そんなふうにロックを信じ、ロックに挑むTHE LITTLE BLACKの在り方は、刺激的なぶんだけ感動的な物語を宿していた。これからの活躍が楽しみだ。(小池宏和)


●THE LITTLE BLACK
2017.9.21 Getting Better セットリスト


1.ドロミズ
2.波紋
3.イキルシカバネ
4.メテオタウン
5.光
6.誰もいない夜に吹く風になって
7.Rock 'n' Roll Star (Oasis)
8.未来



公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする