ロックシーンを横断するヒップホップユニット・Creepy Nutsって一体何者?

ロックシーンを横断するヒップホップユニット・Creepy Nutsって一体何者?
今年、全国各地の大型ロックフェスに多数出演。またandropとの楽曲制作や、My Hair is Bad岡崎体育OKAMOTO'S忘れらんねえよらとの対バンライブを敢行。そしてASIAN KUNG-FU GENERATIONのトリビュートアルバムでの“リライト”カバーからの、Gotchとの対談の実現。
……ここまで聞くと、今ノリに乗っている精鋭の若手バンドの経歴だと思われるかもしれない。でも、今回紹介する彼らはバンドではない。今月ついにメジャーデビューを果たす1MC1DJのヒップホップユニット、Creepy Nuts(R-指定&DJ 松永)だ。


MCバトルの全国大会「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で優勝し続け全国3連覇を成し遂げたR-指定と、サイプレス上野とロベルト吉野SKY-HIなどといった名立たる面子のプロデュースワークやコラボを行ってきたDJ 松永。(アーティスト写真で見ると)一方はパーカーに長髪、他方はスーツを颯爽と着こなすという一見ちぐはぐなふたりは、実は両者ともに素晴らしいキャリアをもつスーパーエリートだ。

……だがこんな輝かしい実績にもかかわらず、Creepy Nutsの楽曲は自嘲的かつ被害妄想にまみれ、皮肉や厭世の精神が炸裂している。それはR-指定が繰り出すリリックに注目すれば火を見るより明らかだ。

《女の子が怖い てか普通に目見れない/よう喋らん 吃って情緒不安定 誠に申し訳ない/大きな声で騒ぐ陽気なタイプとは仲良くなれそうもない/だってあいつら空気読み合いウェーイが飛び交い/まともな脳みそ無い》(“たりないふたり”)、《We are 蕎麦屋のカツ丼/牛丼屋のカレー/またはバナナワニ園のレッサーパンダ》(“助演男優賞”)……と、世間に投げかける鬱屈した視線や主役の座になかなかつけない彼ら自身の姿が、大いなるアイロニーをもって描き出されている(しかもこういったヴァースが、R-指定の超絶円滑な舌回し&声色・キャラが細かく変わるラップでマシンガンのように乱射されている)。華やかな経歴を持つ彼らだが、その正体は茨のような壮絶なコンプレックスにがんじがらめにされた、卑屈な男子2人組なのだ。

(一方、ヒップホップの未来への悲観とそこに向かう自身の闘志を重ね合わせた“未来予想図”や、「MCバトルの王座なんざくれてやる」と言わんばかりの猛烈な野心を見せる“刹那”など、力強い&エモい楽曲が多々あるのも事実である)


しかし、その自虐的なリリックを振り回してもリスナーをブチ上げられるのが彼らの楽曲だ。その要点の1つはDJ 松永の音作りにあると思う。彼が手掛けるトラックは、4つ打ちビートとスリリングなメロディが際立っており、次々にディスを盛り込むR-指定のフローを、よりゾクゾクするものに仕立て上げている。一方、サビはとびきり人懐っこい。キャッチーな歌メロに合わせて弾むようなビートや高揚感を煽るフレーズが飛び出し、リスナーに大いなる中毒性をもたらすものとなっている。

さらにさらに、楽器の生音をサウンドに多用しているのもたまらないポイントだ。ラップの裏で弾かれているギターの細かなアルペジオがいい味出してるわ、リズミカルな鍵盤がヴァースを盛り上げつつエレガントさも醸し出してるわ、歯切れの良いパワフルなドラムがイントロの段階で「うわ、この曲めっちゃいい!」と思わせるわで、ヒップホップを聴いてこなかったようなリスナー(それこそ、こういう音が大好きそうなロックファン)の耳にも突き刺さる、最高に聴き心地の良い楽曲を織りなしている。

……とここまで彼らの楽曲の良さをつらつらと書いてしまったが、おそらくCreepy Nutsがロックシーンからの注目を集めるユニットとなった所以は、この辺りにあると言ってもいいだろう。自身の身から削り出されたプライベートな劣等感や悲哀を、高ぶるサウンドや巧みなフローを用いて、オーディエンスから愛される創作物に変えるというスタンス――それはある意味、ロックバンドと通底しているものだからだ。


そのほか、ライブにおけるR-指定の「聖徳太子フリースタイル」(観客からいくつかの単語を募集し、それをすべて詰め込んだフリースタイルラップを披露するというもの)や、DJ 松永がスクラッチテクを見せつける「DJ松永ルーティーン」も本当に素晴らしい(何かにつけてどぎつい下ネタをMCにぶっ込むふたりの少年性も……うん、悪くはない)。彼らのライブはヒップホップという音楽ならではの面白味を分解し一つ一つ丁寧に教示してくれているものとなっているし、何より「目の前でヤバイことが起こっている」という圧倒的な臨場感を抱かせてくれる。一度耳目に触れたら、彼ら、ひいてはヒップホップに興味を抱かずにはいられなくなるくらいのエキサイティングな体験が、Creepy Nutsのライブでは繰り広げられているのだ。


そんなふたりが満を持してお届けするメジャーデビューシングル『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』は、いよいよ11月8日(水)に発売。彼らのWEBラジオ番組『Creepy Nutsの“悩む”相談室』で収録曲を先に聴いたけれど、どれもいい感じに哀れみの色がにじみつつ、苛立ちや劣等感や恥ずかしさをかっ食らって自らの血肉にしていく精神がメラメラ燃えてて超カッコよかった! 先ほど「Creepy Nutsの楽曲は皮肉や厭世の精神が炸裂している」なんて書いてしまったけれど、最終的に「全部ひっくり返してやる!」という下剋上の心が見られるのもまた、彼らのヒップホップのグッとくるところである。

凄まじく痛快で一発で虜になれるCreepy Nutsの音楽をまだ体験していないという方、ぜひこのタイミングを機に、彼らの音楽に出会ってしまってみてはいかがだろうか?(笠原瑛里)

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