My Hair is Bad、新作『mothers』が「恋愛重視」から「生き様重視」の大傑作になった理由

My Hair is Bad、新作『mothers』が「恋愛重視」から「生き様重視」の大傑作になった理由
昨年の2ndフルアルバム『woman's』に続き、本日リリースとなったMy Hair is Badの3rdフルアルバム『mothers』。「女」から「母」への移り変わり――言葉にするのは容易いが、その変化は人生を左右するほど大きいものだ。そして、何事においても自分の優先順位を二の次にするほどの「覚悟」が宿る、そんな大事な瞬間を冠する今作。さすがMy Hair is Bad、予想を超えてきてくれたなぁと感動した。


今作『mothers』の先行曲として9月に『運命 / 幻』の2曲がシングルリリースされ、その「彼氏/彼女の双方が感じ取った別れ」というコンセプトや、豊かかつ鋭い表現にマイヘアの進化を垣間見た気になっていたし、今作の方向性も「恋愛重視」でいくものだと勝手に思い込んでいた。そんな油断しきった状態で1曲目の“復讐”を聴いた瞬間、抱いていた甘っちょろい予想は大きく間違っていることをまざまざと思い知らされた。これは紛れもなく「生き様重視」の作品だった。

壮絶なライブ数を誇り、日本中を旅しながらその目に焼き付けた景色と記憶を、日々研がれ続ける感性で掻き鳴らすマイヘアが今作で描き出したのは、リアルな恋愛の叙情のみならず、日々を生きる上で目の当たりにする現状、哀愁、故郷、懐古、友情、愛情、家族――まさに「My Hair is Badが今まで感じてきた情景」その全てだった。以前椎木に“戦争を知らない大人たち”や“沈黙と陳列 幼少は永遠へ”のようなスケールの曲に感動したことを伝えた際に、彼は「若い子には届きにくいかもしれないけれど、こういう曲の方が書きやすいとさえ思ったし、得意なのかもしれない」という風に答えてくれた。その現在形が今作での“永遠の夏休み”や“シャトルに乗って”なのだと思うが、ここには聴者に「届く/届かない」、「好き/嫌い」などの嗜好的な二択を完全に置き去りにしても伝えるべき「My Hair is Badが在る理由」が鳴っていた。媚びや固定観念なんて蹴散らして、彼らは先に進むためにこのタイミングでその決意を表明し、想い出を一度精算しなければならなかった。“復讐”の歌詞を借りるなら、≪ずっとこのままじゃいられない≫のだ。

バンド初のハッピーエンドを歌った“いつか結婚しても”や、すぐ隣にいる君に語りかけるような近距離ラブソング“こっちみてきいて”から感じる「自分 対 君」に向けた言葉の多彩さやサウンドの奥行きはグッと深くなったし、「これぞマイヘア!」と言われるような色濃い色恋の表現もしっかりと磨かれている。その上で、先述したような「自分 対 自分」を語るような楽曲が、これまで「リアルな恋物語」が居座っていたマイヘアのアイデンティティを司る玉座にぐいぐい攻め込んでいる感覚。彼らが挑んでいるのは他のバンドや音楽シーンではなく、いつだってMy Hair is Bad自身なのだ。

My Hair is Badによる、My Hair is Badの革命はもうすでに始まっている。油断して見逃すと、あっという間に置いていかれてしまう。彼らは“熱狂を終え”る気なんてさらさらない、My Hair is Badは≪ここからが面白い ここからだ≫。(峯岸利恵)

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