米津玄師と脚本家・野木亜紀子が対談で語り合った『アンナチュラル』と“Lemon”の美しき繋がり

3月4日、TBSラジオにて『米津玄師×野木亜紀子 アンナチュラル対談』(タイムフリーはこちら)が放送された。TBS系列で放送中の金曜ドラマ『アンナチュラル』の主題歌“Lemon”を手がける米津玄師と、『アンナチュラル』の脚本家・野木亜紀子。ふたりは今年1月に行われた米津の武道館ワンマンで対面を果たしていたものの、対談をするのは今回が初めてだ。

『アンナチュラル』や“Lemon”の誕生秘話や米津・野木が影響を受けた作品など、トークのテーマは多岐にわたり、いくつかの貴重なエピソードが明らかになった。例えば、“Lemon”のコード進行は松任谷由実“Hello, my friend”から影響を受けているのだということ。野木は、普段そのドラマのサウンドトラックなどを聴きながら脚本を書いているが、『アンナチュラル』に関しては昨年中に書き終える必要があった影響で、米津のアルバム『BOOTLEG』を聴きながら書いていたのだということ、など。特に野木から米津への「(曲中の)『ふぇ』っていう音は何の音ですか?」という質問は、多くの人が気になっていたポイントだったのでは。米津曰く、あれは人の声をサンプリングしたものであり自分のなかで重要な音なのだが、それが何故なのかは自分でも分からない、とのこと。

今回の放送を通じて浮き彫りになったことは大きく言うと2つある。1つ目は、米津と野木というふたりのクリエイターの共通点。野木は、ドラマは時代性とエンタメのバランス――つまり「どうしたら楽しく見つつ考えさせることができるか」という部分――が大事であり「職人になりたい」と言っていたが、それと同じように、米津は「芸術やアートに逃げ込みたくない」とし、「普遍的な音楽を作りたい」と言っていた。要は、伝えたいことを届けるためにはある程度のキャッチーさが必要だという話なのだが、この話の後、米津が『アンナチュラル』で特に共感するキャラクターとして、市川実日子演じる東海林夕子を挙げていたのも象徴的だった。東海林は、野木曰く「ミコトや中堂とは違って(重い過去を)背負っていない人」、「軽やかでいる人」であり、だからこそ『アンナチュラル』にとって必要不可欠な存在なのだという。

2つ目は、“Lemon”という楽曲が『アンナチュラル』制作陣に如何に大切にされているのかということ。放送内では野木が“Lemon”に関して「初めて聴いたときは、いろいろな記憶が蘇りそうになるんだけどこれを思い出していいのだろうか、という苦しさがあった」、「2回目以降は、生きている人たちの心の中にある死んでしまった部分を包んでくれる曲だと思った」と語ったほか、ドラマに出演している石原さとみや市川実日子、演出の塚原あゆ子も核心的かつ愛情深いコメントを寄せていた。そして言葉選びこそ違ったものの、その内容自体はほぼ同じだった。このことは、『アンナチュラル』という作品を中心にして集まった各分野の表現者たちが、同じ方向を見て、心血を注いでいる証であるといえるだろう。

「これだけ美しい作品に出会えることってない」、「これだけいろいろなことに妥協せずものを作っている人たちに出会える機会は貴重」と米津がその感動を言葉で表し、「こちらこそ美しい曲を作っていただいて、そして泣けるコメントまでいただいて、スタッフ一同喜んでいると思います」と野木が伝えたところで番組は終了した。『アンナチュラル』の放送は残り2回。米津自身が「えげつないくらいドンピシャのタイミングで(“Lemon”が)流れるからそこに愛情を感じていて」と語るほどのあの瞬間を味わえるのも、いよいよあと2回である。(蜂須賀ちなみ)