BiSHだから歩めた歴史が綴られた本『目を合わせるということ』に込められたもの

BiSHだから歩めた歴史が綴られた本『目を合わせるということ』に込められたもの - 『目を合わせるということ』『目を合わせるということ』
BiSHは、とても変な女の子たちによるグループだ。外見も、佇まいも、キャラクターも、特技も全くバラバラの6人が活動を共にして、有能ではあるもののなかなかどうかしているプロデューサーに振り回されながらも音楽シーンの中で独自のポジションを築きつつある姿は、見慣れないアンバランスなデザインの船がエッチラホッチラと水面を進んでいるかのような印象に近い。同じ場所をクルクルと回ったり、いきなり釣りを始めたり、大きなクジラに飲み込まれそうになったり、ドクロの旗を掲げて海賊王を目指してみたり。決して洗練された動きをするわけではないのだが、描く航路が妙に美しく、ユニークで、スリリングで、ロマンチックだから目を離せない……というような、デコボコした個性を持ち寄った女の子たちが実に面白い生き方をしている集団が、BiSHだと思う。

そんなBiSHのメンバーのひとり、モモコグミカンパニーが本を出版した。タイトルは『目を合わせるということ』。オリジナルメンバーである彼女が、このグループの約3年間にわたる活動を綴っている。当事者としての視点からBiSHを捉えているところが、まず何と言ってもこの本の醍醐味だろう。外部の人間だったら立ち会うことができない緊迫した瞬間も描かれていて、「あの時、実はそうだったのか!」とハッとさせられる箇所がたくさんある。

例えば、昨年行われたWACK(所属事務所)の新メンバー募集を目的とした合同合宿の際、代表曲のひとつ“オーケストラ”が、姉妹グループのものになってしまうという事件が起こった。その直後に迎えたツアー初日の楽屋は非常に殺伐としたムードに包まれたのだが、突然、窒息しそうなくらいの勢いで号泣を始めたアユニ・Dの姿があまりにも面白く、他のメンバーたちは爆笑してしまったのだという。アユニ・Dの破壊的な泣き顔が浮かび、読みながら思わず吹き出さずにはいられないが、不思議な感動も湧き起こる。各々が真剣に活動に取り組んでいるからこそ生じる関係性のズレが、本当に何気ないことによって一瞬で修復される様が生々しい。「私たち、とっても仲良しです!」という優等生的な発言では言い表すことができないはずの6人の姿が伝わってくる素敵なエピソードだ。

そして、本書はモモコグミカンパニーの変化の記録でもある。毎日を無為に過ごしていた平凡な大学生が、「アイドルになりたい女の子って、どんな感じなんだろう?」という素朴な好奇心に突き動かされてオーディションを受け、よくわけもわからないまま掴み取ってしまった「合格」。歌やダンスの経験がなかった彼女は、自分のあまりにもの不甲斐なさを噛み締めながら泣きじゃくり、初ライブの帰り道を歩いたのだという。「BiSHに入るまでは、なんでもかんでも途中でやめていた」という彼女が、激しく悩んだり迷ったりしながらもBiSHのメンバーであり続け、今日を迎えているのはなぜなのか? その理由を自問自答しながら文章を綴っているところに本書の迫力と説得力は宿っている。

では、彼女が見出したものとは、何なのか? それは読者各々が実際に本書を手にして知るべきものだと思うが、手掛かりとなると思われる一節を挙げておこう。「アイドルになったからといって自動的に自分の人生もキラキラし始めるわけではないのだ」――周囲の人々、自分自身、人生と「目を合わせるということ」の意味を知ったのが、BiSHのモモコグミカンパニーとして歩んできた彼女が手にした、何にも代えられない宝物なのだと思う。そして、それは本書にこめられた大切なメッセージとなっている。(田中大)
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