CHAIが本当にお茶の間の「かわいい」を覆し始めた――新作『わがまマニア』の威力とは?

CHAIが本当にお茶の間の「かわいい」を覆し始めた――新作『わがまマニア』の威力とは?
「コンプレックスはアートなり」をモットーに掲げ、「NEOかわいい(「そのままが一番かわいい」、「コンプレックスさえも魅力的」というような意味)」という新しい価値観を提唱し続けている「ニュー・エキサイト・オンナバンド」ことCHAI。彼女たちは昨年10月に1stアルバムにして大作の『PINK』をリリースし、そして早くも今月9日には3rd EP『わがまマニア』をリリースして、音楽リスナーのハートを絶えず揺り動かし続けている。

しかしここ最近、彼女たちへの注目は、明らかにより多くの人やメディアから集まってきているように思う。『ミュージックステーション』に出演したり、『スッキリ』といった情報バラエティー番組にお呼ばれされたりしていて、もはや「知っている人は知っている」という存在ではなくなってきているのだ。『PINK』リリース時にもかなりの視線が彼女たちに注がれたが、今はその当時を超える数のまなざしが、各方面から寄せられている。


そんな中でリリースされた最新作『わがまマニア』は、CHAIに注目するすべての人たちを狙い撃ちする作品に仕上がっていると思う。たとえば1曲目の“We Are Musician”は、知名度が上がっている一方で、不可思議なアイドルグループだと思われていたり、「楽器が演奏できないのでは?」と誤解されていたりすることへのアンサーソングになっているとのことだし、その他にも「NEOかわいい」の思想を改めてそのまま音楽にしたような“アイム・ミー”、ずっとCHAIを聴き続けてきたリスナーには特にグッとくるであろう、バンドの未来への思いを描いた“フューチャー”、コンプレックスの元になりがちな物質や体の部位を「生きるために必要!」、「美しい!」と歌い上げる“FAT-MOTTO”や“Center of the FACE !”が収録されている。

そしてそれらの楽曲をパンクロックやヒップホップ、ドリームポップなどの要素を多用してカラフルに奏でてみせるさまはまさに「We Are Musician」だし、聴き手を一瞬で夢見心地&ハッとさせるマナのボーカル/キーボード、カッティングがなんともいい味を出すカナのギター、楽曲のグルーヴを司る存在感大のユウキのベース、ドシドシと重くタフなビートを打ち込むユナのドラムは相変わらず健在だ。知名度が上がり、初めて彼女たちの音楽を聴くという人へのアプローチをしつつも、歌いたいことと鳴らしたい音はブレない、揺るがないという彼女たちの最新のモードが、『わがまマニア』からは窺える(ちなみに彼女たちがこれまでどんな曲を鳴らしてきたのかについてはこちらをご参考いただきたい)。


この作品や彼女たちの現状を通して個人的に勝手に願ってしまうのは、「NEOかわいい」のような新しくて優しくて誰も悲しませない価値観が、いつか「新鮮なもの」ではなく「当たり前のもの」として社会に息づくことだ。

たとえば今年の2月から日本で公開され大ヒットしている映画『グレイテスト・ショーマン』は、ショーの出演者が各々抱えるコンプレックスをひとつの芸にし、最初は苦労するも最終的にその地域に住む市民を感動の渦に巻き込んでいくというストーリーになっているが、私はCHAIの音楽や「NEOかわいい」、「コンプレックスはアートなり」というモットーもそんな「グレイテスト・ショー」のようになってほしいと強く思っている。彼女たちの音楽は、競いあったり妬みあったりしないで、自分のことも他人のことも「かわいい!」、「ワンダフル!」と認める、ピースフルでダイバーシティに富んだ時代を作るためのキーなのだ。

もしかしたらCHAI自身もそう確信しているから、以前『ミュージックステーション』に出演した際、トークコーナーで「NEOかわいい」の意味を定義し、タモリや島 茂子らに対して臆することなく「NEOかわいい!」という言葉を放ったのではないだろうか? もっと広まるべき言葉や理念があの場所で発された意味は、率直に言ってかなり大きいと思う。


多くの人にとって「はじめまして」、あるいは「これからもよろしく」の作品になるであろう『わがまマニア』。いずれにせよ、2018年という時においてはこの作品を聴いておくよりほかはないと思う。なぜならここで鳴っているのは、ジャンルレスで豊かなサウンドと多様性を認める心の広い歌――すなわち、これからの時代の音楽だからだ。(笠原瑛里)
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