今週の一枚 イヤーズ&イヤーズ『パロ・サント』

今週の一枚 イヤーズ&イヤーズ『パロ・サント』

イヤーズ&イヤーズ
『パロ・サント』
7月6日発売(日本盤は7月13日)


「パロ・サント」とはスペイン語で「聖なる樹」の意味だというが、本作は遥か未来の架空の惑星、「パロ・サント」を舞台にしたコンセプト・アルバムだ。そのコンセプトは“サンクティファイ”、“イフ・ユーア・オーヴァー・ミー”のMVに加えて同名のショート・フィルムにも徹底されていて、彼らが本作の明確な物語性をサウンドとビジュアルがリンクした複合アートとして打ち出そうとしていることは間違いない。

アンドロイドに支配された惑星「パロ・サント」では、人間は奴隷のように売買されつつも、希少な生命体として崇められている。そんな惑星に降り立ったカリスマ人間ダンサーにオリーが迫真の歌と芝居でなりきっているのだが、惑星パロ・サントの少数派である人間の、本作における侮蔑と崇拝の入り混じったアイデンティティの描かれ方は、同性愛者であることをカミング・アウトしたオリーにとって、自身を含む性的マイノリティの葛藤をダイレクトに反映したものでもある。



前作にあたるファースト『コミュニオン』から続くエレクトロ・ポップは、本作に広がる不穏なサイファイ・ディストピアに相応しく、よりダークかつヘヴィな構築性を増している。一方で、彼らのエレクトロ・ソウルの側面はオリーのファルセットを活かし、よりソウルフルな深みを得ている。

つまり、架空の世界の精密な描き込みと、リアルな人間の体温や脈動への接近という両極を同時に達成しているのが本作であり、彼らのポップ・ソングに込められたメッセージ性は、こうして剥き出しにされたのだ。そして、コンセプト・アルバムでありながら本作が前作以上にポップ・アルバムとしても強力なのは、マイノリティとマジョリティの壁を突き破るポップの力を、彼らが信じているからだろう。(粉川しの)
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