さて、今回注目したいのは、CDのディスク3にあたるバラードベストである。ロマンチックなラブソング集として「バラード」を定義し、シングルのカップリング曲だった“体温”や“マダラ蝶”、“MINORI”、アップテンポに展開する“言わなくても伝わる あれは少し嘘だ”なども取り上げられている。ディスク1に収録されファン投票でも1位となった“THE OVER”や、昨年リリースされたアルバム『TYCOON』の収録曲までもが、新録バージョンになっているのには驚かされた。たとえば“SHOUT LOVE”は、クリアなギターサウンドが前面にせり出したミックスとなっているし、サウンド面においても豊穣なアップデートを果たした楽曲たちに触れることができる。
それにしてもなぜ今、UVERworldはロマンチックなラブソングに焦点を絞り、再レコーディングしたのか。それを考えてみることはとても興味深い。「IDEAL REALITY TOUR」から「TYCOON TOUR」と大規模なライブツアーに明け暮れていた2017年、最も驚かされたことのひとつは、TAKUYA∞のボーカル表現の豊かさであった。彼がもともと、ストイックなフィジカルコントロールや、触れる者の胸を熱くさせるMCにも秀でた、優れたフロントマンであることは周知の事実だ。しかし昨年のツアーほど、身震いさせられるレベルで「シンガーTAKUYA∞」の凄さを痛感させられたことはなかった。明らかに進化している。
昨年の12月21日、つまり横浜アリーナでのTAKUYA∞生誕祭のとき、「男祭りVS女祭り」という企画の中で、UVERworldは3人の女子Crewをステージに招いて椅子に座らせ、TAKUYA∞は彼女たちの耳元で浴びせかけるように“SHOUT LOVE”を歌った。僕はそれを「新手の鑑賞プレイ」と書いた(https://rockinon.com/news/detail/171142)のだが、ボーカル表現がさらに向上している中でのあのパフォーマンスは、現在進行形のUVERworldとしても必然の一幕だったと思える。
豊かなビブラートから伸びのある美しいファルセットまで、TAKUYA∞の今のボーカル表現を最大限に発揮させるのは、バラード曲である。『TYCOON』というアルバムのハイライトもそこにあった。規模の拡大し続ける男祭りを開催するたびに、TAKUYA∞はバンドのキャリアを支えてきてくれた女子Crewへの感謝の思いを口にする。ファンへの感謝が込められたベスト盤の、ラブソング集としての物語。そして『TYCOON』の季節の先にある、UVERworldの進化の物語。ふたつの物語が交差したときに、今回の華麗なるバラードベストは制作されたのである。(小池宏和)