星野源の新曲“アイデア”をフルコーラスで聴くとわかる「イエローミュージック」の超進化

『アイデア』8月20日配信開始
星野源が約8ヶ月かけて作り、「情熱をすごく込めて作った」と語ってきた楽曲“アイデア”への期待は相当高いものになっていたが、一聴してみると、そのハードルをゆうに飛び越えて来る名曲であり、また、星野の新たな代表曲になるであろう楽曲だった。

まず、リスナーが驚いたのは曲の2番以降の展開だろう。本日の0時より配信限定でリリースされた『アイデア』は、NHKの連続テレビ小説『半分、青い。』の主題歌として今年の4月から一部がすでにお茶の間に流れている。マリンバの音色が心地好いイントロが響き、朝の憂鬱から解放してくれるような爽やかなポップス。テレビで聴いてきたここまでを、ようやく新曲として聴いて、やはり素晴らしい楽曲であることを確認したのち、曲調は一気に内省的な雰囲気に変わる。

歌い出しの印象的な《おはよう 世の中》という歌詞は《おはよう 真夜中》に変わり、《笑顔の裏側の景色》、《すべては笑われる景色》と生々しくも誰もが感じている、リアルで冷淡な世の中を映す歌詞が続く。1番では《青空を》だった部分を《中指を》と歌ったところで同じ歌詞でもアレンジ違いのサビに入る。1番のドラムとは違い、前作、『ドラえもん』のカップリング曲“The Shower”でもプレイヤーとして参加していたSTUTSのMPCがリズムを刻むが、メロディとストリングスは同じ。星野が時折、ラジオで特集してきた「同じ曲でもアレンジが違うとこう変わる」というのを1曲の中でやってしまっているのだ。

2番が終わり、いわゆる大サビに入ると、またも曲調は大胆に変わり「弾き語り」となる。《刻む鼓動は一つの歌だ/胸に手を置けば/そこで鳴ってる》と、生きることと歌うことは同じである、ということを星野の音楽活動の原点であるギター1本で歌う。2番でアレンジが変わったのと同じように、単純に曲調が二転三転している訳でなく、歌詞とリンクしたものになっている。

最後のサビで再び、1番と同じバンドでの演奏に戻るが、聴こえ方は変わってくる。単純に爽やかなポップスだったのが、闇や怒りも抱え、それでも《つづく日々を奏でる人》たちの狂気的なまでの生きることへの執念とエネルギーが感じられ、再びマリンバが強く響くアウトロを終えると、最後は星野による壮大なドラの音で幕引き。高揚感が収まらず、自分はすぐにまた最初から再生してしまった。


朝ドラの主題歌といういわば一番、老若男女が聴くであろう場でここまで攻めた、星野が常々語ってきた言葉を借りるなら「遊んだ」楽曲が届けられたことに驚き興奮した。特に、2番の歌詞は星野の1stアルバム『ばかのうた』や、2ndアルバム『エピソード』に多く収録されている「曲はゆったりしているけど、よく読むとドキッとさせるフレーズが入って来る」楽曲に通ずるものがある。ポップスターとしての姿や、弾き語りで聴くものを感動させる姿、そしてこの先に見せてくれるのかもしれない打ち込みのビートの上で歌う姿など、星野のこれまでとこれからの音楽的な歴史が詰まった楽曲であり、音楽と生命への賛歌にもなっている。実験的で独自の「イエローミュージック」を追求する星野の、一筋縄ではいかないロック精神が爆発した楽曲のようにも感じた。(菊智太亮)