【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

インタビュー:粉川しの
通訳:伴野由里子

サマーソニックのヘッドライナーとして、3年ぶりの来日を果たしたノエル・ギャラガー。ライブのオープニングだった“フォート・ノックス”が、黒人女性ボーカルをフィーチャーした“もろ”ハッピー・マンデーズでマッドチェスターなパフォーマンスだったことにも象徴されるように、『フー・ビルト・ザ・ムーン?』は彼のエレクトロニック・サウンドに対する嗜好性が結果的に露わになったアルバムだった。

そして、その嗜好性とはまさに、ノエルの青春時代のど真ん中で起こった革命=アシッド・ハウスであり、後に真逆のロックンロール・バンド=オアシスへと道を切り開いた彼の中に、それでも脈々とその革命の衝撃が受け継がれ続けていたことが、今回のインタビューでは語られている。ハシエンダの伝説的DJだったマイク・ピカリングに、今でもオススメのダンス・ミュージックを教えてもらっている、なんていうトリビアも含めて、貴重な側面が垣間見えるひと時だった。

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

●今日は、「ノエル・ギャラガーとダンス・ミュージック」についてお話をうかがいます。
「ダンス・ミュージック? おお」

●というのも、新作『フー・ビルト・ザ・ムーン?』には、エレクトロニック・ミュージック、ダンス・ミュージックの影響が感じられるので。
「オーケー」

●まず、あなたとダンス・ミュージックの出会いはいつですか? 地元マンチェスターではハシエンダにも通っていたと思うのですが。
ニュー・オーダーをエレクトロニック・ダンス・ミュージックとして分類することもできるけど、当時はまだそうは呼ばれてなくて、ただの音楽だったんだ。だから最初のレコードは、ニュー・オーダーの“ブルー・マンデイ”で、その直後にアシッド・ハウスが爆発して、それからはまったくの別物になったわけ」

●アシッド・ハウスは世代的にドンピシャですよね?
「もちろん、もちろん。大好きだよ、今でもね。だってハシエンダがあったのと同じ通りに住んでたしさ。まさにあの現場にいたんだよ。俺は、一番乗りした連中のうちの1人だったんだ。今でも、たぶん一番好きな音楽の時代だったんじゃないかな。なぜならものすごく新しかったから。もちろんブリットポップもすごくよかったけど、あれは60年代から派生したという面もあったからね。

アシッド・ハウスは新しかった。エクスタシーというドラッグも新しかった。驚くべき革命だったんだ。革命的に新しいファッション、音楽ジャーナリズム……アシッド・ハウスを境にすべてが変わったんだよ。それで……やっぱり今でもすごく好きなんだよね。グラストンベリーで一番好きなのもそれだもん。あそこでバンドなんか観ない。そんなもんどうでもいいわけ。アフターアワーのダンス・テントに行くのが楽しいんだよ。レイブも行きまくってたしな。当時はレイブとは呼ばれてなくて単なるパーティーだったんだけどさ」

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

●では、あなたが選ぶダンス・トラックのベスト5を教えてください。
「うん、まずは“ドント・スキャンダライズ・マイン”(シュガー・ベアー)で、これはハシエンダでかかってたね。ヒップホップと言ってもいいかもしれない。でも実際は違って、トーキング・ヘッズの“ワンス・イン・ア・ライフタイム”のベースをサンプリングしてる。好きな曲はいっぱいあるけど、アーティストの名前が分かんないんだよなあ……(と言いつつノートに書いてくれる)」

●これは、何と読むのでしょう(ノエルの手書きが読めず)。
「“コーラ”だよ。キャメルファット&エルダーブルックの曲。そうだ分かった、俺の電話持ってきてよ。全部入ってるから」

●では、先に808ステイトの“パシフィック・ステイト”について聞かせてください。
「メンバーの1人はグラハムってやつで、元々808ステイトのことは聞いたことがあって、彼らはマンチェスター出身で、俺の知ってる限りではDJで、それでこの“パシフィック・ステイト”というトラックを作ったという。あの時代の音楽の何が魅力的かと言うと、こういう、時代を感じさせないところなんだよ。俺は今でも聴くし、今聴いても当時と同じように素晴らしいんだ。

当時はクラブっていう文脈で聴いてたわけだけど、年取ってからは、ひとつの音楽として聴くわけだ。そうすると、ジャズの影響が感じられたり、変な感じのコード進行があったりしてさ。テレビに808ステイトが出てて、それを観たのは覚えてるんだよ。いや、もしくはギグを観たのかもしれない。とにかくステージにいるうちの1人を見て、『あれ、あの人ウチに来る郵便配達の人じゃん』って思って」

●本当ですか?(笑)
「本当(笑)。あれ、あの人の名前何だっけ……忘れたけど、とにかく郵便配達員で、ファック、何だよって思ってさ。俺の家に配達してくれる人だったわけ」

●マンチェスターってすごいですね(笑)。そういう環境で育ったハシエンダ世代の人が、自分で音楽をやるとなったら、やっぱりギター・バンドのオアシスだったわけですよね。なぜですか?
「キーボードが弾けないから」

●(笑)。
「確かにハシエンダには行って一晩中アシッド・ハウスを聴いて踊ってたけど、そのあと誰かの家に行ったら、ニール・ヤングを聴いたりしてたからね。俺にとっては全部同じなんだよ。全部音楽、ファンタスティックな音楽だったわけ。確かに俺はハウス・ミュージックが好きだったし、今も好きだけど、作りたいってことではないんだ。もちろんトライしてみることはできるだろうけど……

実際“AKA…ホワット・ア・ライフ!”とか“バラード・オブ・ザ・マイティ・アイ”とか“フォート・ノックス”とかで少し試してると思うけど、でもあくまで自分のバージョンを作らなければならないわけで、ああいう人達みたいにはできないんだ。あの人達はプロフェッショナルですごいんだからさ。一方俺にとってギターを弾くのは朝飯前だからね」

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

●アシッド・ハウスとはつまりパンクであり、あなたにとってはそのスピリットが重要だったという?
「そう、だってそこにはスターがいなかったからさ。ラジオでオンエアされるものではなかったし、テレビで観れるものでもなかったわけだよ。ロック・ミュージックの場合は、ロック・スターがいて、シンガーがいてっていうことだけどさ。こっちは違う。一体何だか分からないものだった。歌詞も言葉も殆どなし。だから背後に隠れてるメッセージもなし。ただ純粋に、その瞬間にすべてがあった。

俺がダンス・ミュージックから得たものっていうのは、だからこそ、フィーリングがすべてなんだっていうことだったんだよね。それを聴いてどういう気分になるかってこと。だから曲を書き始めた時に考えたのは、ちなみに今もそうだけど、歌詞のことじゃなくて、その曲を聴くとどういう気分になるかってことだったんだ。(窓越しにスタジアムで演奏中のショーン・メンデスを見ながら)今演奏してるのが誰だか知らないけど、こいつみたいなタイプは、明らかに歌詞が大事なんだよ」

●そうかもしれないですね。
「だろ? だってフィーリングがないじゃん。ええと、(スマホを見つつ)この曲のアーティストが誰だか調べてみよう……構わず続けていいよ」

●了解です。ええと、書いてもらった次の曲ですが……(また読めず)。
「それ“Ey Yo”な」

●ああ! 最近のトラックもけっこう聴いてるんですか?
「聴いてるよ(と言いつつ“Ey Yo”をかける)。ダメだ、名前書いてないや」

●Kant vs MKじゃないですか?
「そう、世界で最も有名なDJの1人であるマイク・ピカリング、彼はハシエンダのスターの1人で、まあ俺の親友の1人でもあるわけだけども、彼が時々俺に新しいダンス・ミュージックを色々入れたUSBメモリを送ってくれるんだよ。時々彼がDJをする際に観に行くんだけど、そうすると俺が『今かけた曲何? さっきの曲は何なの?』ってなってるからさ。それで、俺は去年50歳になったんだけど、その誕生日パーティーでハシエンダのDJ達がDJしてくれたんだよ。グレアム・パークとマイク・ピカリングがね」

●『フー・ビルト・ザ・ムーン?』は、あなたのそういうバックグラウンドが初めて反映されたアルバム、という認識であっていますか?
「うん、そうだと思う。“フォート・ノックス”はこれまで俺が作ったものの中で一番そっちに近いと思う。いやでもさ、俺の音楽は段々変わってきてて、実際、今回はスタジオに入る時点で曲はまったくなかったわけで、全部スタジオに入ってから書いたんだけど、当初、実際に完成したのよりももう少しエレクトロニック寄りになるんじゃないかと思ってたわけ。まあ次のやつを作ったらもっとエレクトロニックになるかもしれないけどね。とにかく、まあ確かに今作は今までよりキーボードも増えてるしビートも前に出てるけどね」

●つまり、作曲とレコーディングのアプローチを変えた結果、エレクトロニック寄りのサウンドが出来上がったということで、それ自体をあらかじめ目指していたわけではない?
「まず、デヴィッド(・ホルムス)と作ると決めてたからね。デヴィッドのやり方はスタジオに入る前に何も曲を書かないというもので、すべてはスタジオの中で起こって、それをデヴィッドが方向付けるという。

一方俺は90年代からこれまで昔ながらのやり方でレコードを作ってきてて、単純に変化が欲しかったんだよ。同じようなレコードを何度も何度も作っても、得することってあんまりないと思ったんだ。だからと言って別にこの先二度とアコースティック・ギターで曲を作らないってことじゃないけど。でも今のところは、こういう場所にいるのが自分にとってはいいんだよ」

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

●そういう状況で、今なおギター・ミュージックに、アシッド・ハウスにあったような本来のパンク・スピリットが宿るとしたら、それはどういったものだと感じていますか?
「今はギター・ミュージックがちょっとぼんやりしてきてるかもね。まさにこんな感じ(窓の外のショーン・メンデスを見ながら)。あるいは極端にチャレンジしすぎてて訳が分からなくなってるやつとか。ギター・ミュージックは90年代の方がよかったよな。今俺が好きなのはジャングルとか、あと一番好きなのはヤング・ファーザーズ。あとはゴリラズとか、今だったらそういう方が、たとえば
フー・ファイターズみたいなバンドよりも断然いいね」

●ちなみに5曲の最後の1曲は?
「“バック・バイ・ドープ・ディマンド”(キング・ビー)。これはヒップホップと呼ぶべきかもしれないけど、ハシエンダではビッグ・チューンだったんだよ。ハービー・ハンコックの“ウィグル・ワグル”って曲のギター・リフをサンプリングしててさ。そのギター・リフが最高なんだ。ヒップホップにしても当時と比べると相当変化してて、今じゃこういうことをしなくなってるよね」

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】



ノエル・ギャラガーのインタビュー記事は現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

【ロッキング・オンを読む】ノエル・ギャラガーに密着取材! おすすめのダンス・ミュージックを教えてもらった【全文公開】 - 『rockin'on』2018年11月号『rockin'on』2018年11月号
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする