星野源、新作の特典スタジオライブ映像はもうひとつの「ポップ・ウイルス」の表現だ

星野源、新作の特典スタジオライブ映像はもうひとつの「ポップ・ウイルス」の表現だ
今回は、『POP VIRUS』の初回限定盤に付いている特典DVDについて語りたい。星野源のフィジカル作品の初回特典は、常に「特典」の域を大きく超えるパワーが注がれていて、それを楽しみにしているリスナーも少なくない。今回は、いつにも増してスペシャルで、『星野源 Live at ONKIO HAUS Studio』という全11曲のスタジオライブの映像と、おなじみの創作密着ドキュメンタリーとして『ニセ明と、仲間たち』の2軸で構成された、見どころ満載の映像だ。

前回と同じく、ライブ演奏のパートとニセ明のパートとが、交互に進んでいく編成が星野源らしい。いわく、「音楽的な真剣さと、バカバカしい面白さって、僕らの世代は同時に味わうことに慣れている。かっこいい音楽とふざけたものを一緒に味わえるアーティストって昔は多かったけど今は少なくなってきた。そういうのが寂しかったので、ニセさんがそこを」(オーディオコメンタリーより)ということらしい。なるほど。このバランス感覚というか、今さら言うことでもないけれど、どちらも楽しみたいのが星野源という人なのである。

なので、かっこよさと面白さとを同時に楽しめる展開が今回も踏襲されているわけで、まずそもそもこのスタジオライブがとても素晴らしかった。ライブやレコーディングで星野源とともにサウンドを作り上げている、河村“カースケ”智康(Dr)、ハマ・オカモト(B)、長岡亮介(G・Cho)、櫻田泰啓(Piano・Key・Cho)、石橋英子(Key・Cho)、美央(Violin)、村中俊之(Cello)、武嶋聡(Flute)というおなじみのメンバーに加え、今回は『POP VIRUS』のレコーディングにも参加したSTUTS(MPC)も集結し、レコーディングスタジオでの生演奏を聴かせてくれる。距離感の近い中で生まれるサウンド、空気、笑顔は格別で、リラックスした雰囲気の中にも各パートの刺激的な音の応酬や融合を見ることができる。

実は、このライブレコーディングの撮影、および、それを見てのコメンタリーの録音は、締切の関係上『POP VIRUS』ができあがる前にされているとのこと。だからなのか、レコーディングの延長上にあるようでいて、その緊張感とは違ったメンバー間での親密なアンサンブルを感じることができる。先日のマーク・ロンソンとのライブで初めて生演奏を披露した“肌”や、これまでライブでは披露していない“KIDS”など貴重な演奏シーンが嬉しい。それぞれのプレイヤーの表情や動きを丁寧に収める撮影・編集のセンスも秀逸で、“プリン”の長いブレイクでのメンバー間のやり取りは、観ているこちらが思わず笑ってしまうほどハッピーな空気に満ちている。そして“アイデア”の演奏シーンもMVとはまた違った感動があった。シンプルな演奏風景はメンバー全員がその場で生まれるアンサンブルを楽しんでいるようで、この曲で綴られる物語がとても身近なものに感じられる。

音源だけでなく、MPCのビートがライブ演奏でどのように絡んでいくのかも、見どころのひとつだ。思っていた以上にSTUTSの担う役割は大きく、生ドラムとも時に重なり、時にそれぞれがリズムの要となり、絶妙な融合具合でバンドサウンドに新たな風を生んでいく。すべての演奏を終えたメンバーの口から出たのは「ああ、楽しかった」という言葉。こんな素敵なことはない。

で、その合間にインサートされるドキュメンタリー『ニセ明と、仲間たち』である。シングル『恋』の特典映像として撮影された『ニセ明、石垣島へ行く』の続編的な内容で、ニセ明が新曲を作るために温泉地でカンヅメになるというもの。前回の石垣島では、曲を作るはずが完全にバカンスを楽しむモードになっているニセの映像に爆笑させてもらったものだが、今回は果たして──。『ニセ明と、仲間たち』というタイトルから察するとおり、今回は2人のゲストが迎えられている。1人目は、16歳のアイドル、雅マモル。そしてもう1人はウソノ晴臣(詳細は映像でお楽しみください)。心強い(?)サポートメンバーとともに、曲作りに意欲を見せるニセ。3人の会話の間の絶妙さやボケのかぶせ具合が本当に最高で、このやりとりこそがグルーヴだった。

星野はコメンタリーで「ニセさんが実はポップ・ウイルスなんじゃないか」みたいなことも言っていて、それも面白いと思った。「ニセさん自身がポップ・ウイルスとしてみんなの心を侵食している」と。言われてみればニセ明という存在も、星野源の「イエローミュージック」という概念に合致したキャラクターだし、老いも若きも非常に感染しやすいポップなウイルスであることに間違いはない。というか、このドキュメンタリーシリーズを観れば観るほど、ニセ明が好きになっていくから、この病原はかなり根が深い(笑)。

というわけで、毎度おすすめしているような気もするけれど、星野源の作品は、できれば初回盤を手に入れたいというお話でした。本編アルバム『POP VIRUS』に侵食された後、ぜひリラックスして楽しんでみてください。(杉浦美恵)

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