【本人の言葉で紐解く】RADWIMPS×新海誠の対談が教えてくれる『天気の子』の音楽の奇跡の秘密

【本人の言葉で紐解く】RADWIMPS×新海誠の対談が教えてくれる『天気の子』の音楽の奇跡の秘密
社会現象にもなった映画『君の名は。』の公開から約3年。新海誠監督とRADWIMPSが再びタッグを組んだ映画『天気の子』が現在公開中。そして、公開から週末3日間での興行収入が『君の名は。』を超えるなど話題を呼んでいる。これまでの作品もそうであったように、新海誠の作品を語るうえで映像と音楽との関係性を無視することはできないだろう。ということで、この記事では現在発売中の『CUT』2019年8月号から、劇中の音楽を担当したRADWIMPSと新海誠監督の対談での発言を抜粋。『天気の子』で見られる音楽と映像の幸福なコラボレーションの正体に迫っていきたい。なお、以下のテキストには映画の内容に関する重大なネタバレは含んでいないため、これから鑑賞予定の人も安心してほしい。


■劇伴制作を通じて広がるRADWIMPSの可能性

野田洋次郎(Vo・G)「劇伴をやるイメージは正直なかったんですけど、(山口)智史(Dr)が休止したり、10周年を越えたタイミングでもあったので、『君の名は。』のお話をいただいた時は、絶対にやってみたいと思いました。あと、今の自分にないところに行ってみたいっていう想いは音楽をやる上では常にあるので、そのきっかけとしてもふさわしかったのかな。バンドだけをやってると、オーケストレーションを作る機会はあまりないですし、10年やってると、ピアノをあそこまで死ぬ気になって練習するような、フィジカルな部分での追い込み方もなかなかできないので。新海さんをきっかけに、たくさんの機会をもらった感じでした」

新海の要望を受け、『君の名は。』でも『天気の子』でも制作初期から作品に携わっているRADWIMPS。制作を進めるなかでは当然、監督が音楽に合わせて尺を調整したり、バンドが映画の内容を受けて曲の方向性を考えたり……といった対応が互いに求められると思うし、劇伴を制作することは彼らが普段主に行っている「バンドで演奏をする」の範疇をもはや超えているが、そういった化学反応をメンバー本人も楽しんでいるよう。「メンバー同士で曲を制作する」ことがどうしても多くなりがちなバンド生活において、新海とのコラボが新しいことに挑戦できる貴重な機会となっているのだということが窺える。

■“愛にできることはまだあるかい”完成後に抱いた得難い感覚について

野田「あの曲(“愛にできることはまだあるかい”)を渡したあとにふと俺が思ったのは――この映画のために作ったのに、《僕にできることはまだあるかい》っていう歌詞が、『君の名は。』であれだけ出し尽くして、このあと新海さんとやって僕にできることがおまえにまだあるのかと、自分に言われてるような感覚がすごくしたんですよ。それはけっこうデカかった。ずっと自分に問われてる感じ。《愛の歌も 歌われ尽くした 数多の映画で 語られ尽くした》という歌詞は、自分が音楽をやる上でのひとつのテーマな気がしてて。これだけ愛の歌があって、愛の映画があって……でも、何度作っても、もうやり尽くしたって思っても、僕らも、きっと新海さんも、結局、今も作り続けてて」

“愛にできることはまだあるかい”は『天気の子』の5つの主題歌のうちのひとつで、バンドの演奏によるラブバラードだ。上記発言内に引用されている《愛の歌も 歌われ尽くした 数多の映画で 語られ尽くした》というフレーズは、新海をはじめとした、あらゆるクリエイターが「それでも」創作を止められない理由をズバリ言い当てたような手応えがあるし、これまで多くのラブソングを歌ってきた野田にしか歌うことができないものだ。そんな曲が完成したあと、野田が「自分に言われてるような感覚に陥った」と発言しているというのは非常に興味深い。『天気の子』との出会いがなければ生まれなかった曲であることは確かだが、一方、「映画主題歌」という文脈を抜きにしたとしても、今後ラッドを語るうえで欠かせない存在になっていきそうな名曲でもある。


■三浦透子に託した「陽菜の心の声」とは

野田「僕はオファーをいただいた時、自分は歌わなくていいと思ってたんです。だからプロデューサーの川村(元気)さんと新海さんに、劇伴は作りますけど、歌ものが必要ならそれは自分ではなく誰か女性に歌っていただきたい、その人を探したいって話したんです。今作においてはやっぱり陽菜が特徴的だから、陽菜の心の声をちゃんと歌える人、そして陽菜の声で帆高の気持ちを歌える声を求めました。透子さんは、いい意味で器用ではないんですよ。そこが彼女の歌の力強さなんです。だから曲によっては魅力が半減することもあって、いろんな試行錯誤があったんですけど。でも、“グランドエスケープ”と“祝祭”での彼女の声の響き方は圧倒的でしたね。あれは、俺の声じゃ絶対にできないと思います」

5つの主題歌のうち、“祝祭”と“グランドエスケープ”のボーカルを担当しているのは女優の三浦透子。「僕ではない誰か女性の声で歌が入ってほしい」という野田の発案を受けて開催されたオーディションで、約1年の期間をかけて選定されたのだという。野田の言う「いい意味で器用ではない」というのはおそらく、どこまでも無垢な三浦の歌声から(建前や遠慮、忖度などとは無縁の)何か本能的で野性的なものを感じたということだろう。因みに野田が圧倒的と評した彼女の声の響きについて、新海は「役者の歌声というよりも、世界そのものの響きのような声」とコメントしている。


『天気の子』とはつまり、新海誠とRADWIMPSという互いに共鳴できるところを持ったクリエイター同士が、呼吸を合わせ、ひとりではできなかった表現に挑戦することによって辿り着いたひとつの境地なのだろう。その奇跡的な再会をぜひ劇場で確かめてみてほしい。(蜂須賀ちなみ)

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