おいしくるメロンパンが新作『flask』で改めて鮮烈に示した「自分たちの色」とは?

おいしくるメロンパンが新作『flask』で改めて鮮烈に示した「自分たちの色」とは? - 『flask』9月25日発売『flask』9月25日発売
前作『hameln』は、音楽性の面でも、また歌詞や音で描かれる世界観の面でも、おいしくるメロンパンがデビュー以来目指してきたものがひとつの形になった作品だった。隙間を活かしながらも立体的で自由な3ピースバンドとしてのアンサンブルは“nazca”という曲で、ちょっとメランコリックでノスタルジック、かつ過激なまでに鋭いナカシマ(Vo・G)の歌詞世界は“水葬”という曲で、やはりひとつのピークポイントを描いていたように思う。リリースツアーのファイナルで観た彼らのライブはそれまでに観た彼らのどのライブよりも完成度が高かったし、メンバー自身も自分たちがやってきたことに手応えを感じていたはずだ。

……という作品を作っただけに、今作に至る道のりは決してまっすぐというわけではなかったようだ。「次」にどこを目指せばいいのか、メンバー内にも迷いが生まれ、当初曲づくりは難航したらしい。その状況を打開したのは、ひとまず『hameln』の延長線上を進んでいくのではなく、また違う観点から曲を作っていこうという決断だったという。確かに言われてみれば、今作にはとくにアレンジの部分でこれまでやってこなかったアイディアがふんだんに盛り込まれている。しかし、ではこの『flask』が前への進化を保留して横道に逸れているだけの作品かというと、どうもそうは思えないのも事実だ。それどころか、今作こそ、おいしくるメロンパンが目指すべきものをはっきりと具現化した、つまり彼らの未来を明確に示す傑作だと思えてしかたない。

“色水”を連想させる《スプーンストロー》なんてワードも飛び出す、爽やかなサウンドと夏のディープな心象のコントラストが効いた“epilogue”から始まるミニアルバムは、初期の彼らを思い出させるようなメロディラインが印象的な“水仙”、前作の“nazca”をエスカレートさせたようなドラマティックなプログレッシブナンバー“candle tower”と、過去のミニアルバム3枚を通して築き上げてきたおいしくるメロンパンの世界を再び探訪するような顔をしながら、そのじつそれをはっきりとアップデートさせている。“epilogue”のアンサンブルが織りなすグルーヴはシンプルなのに奥深いし、“candle tower”は器楽的なおもしろさと同時に濃厚なエモーションが迸るストーリーテリングが冴え渡っている。つまりこのミニアルバムは単に彼らがこれまでやってきたことを切り口を変えて再提示しようというのでも、新味を求めてぜんぜん違うことをやろうというのでもなく、その両者のあいだでおいしくるメロンパンがおいしくるメロンパンを分析批評し、そのエッセンスを抽出する作品だという気がする。


そんなミニアルバムを決定づける存在になっているのが、初の配信シングルとして先行リリースされていた“憧景”、そしてラストに収められた“走馬灯”だ。疾走するメロディとナカシマの視点の冷静さが最高レベルで融合した“憧景”はおいしくるメロンパンのポップな側面を改めて強烈にアピールする曲だし、イントロからアウトロまで端々でアレンジの妙を感じさせながら、その一筋縄ではいかない構成も含めて映画のように物語を浮かび上がらせる“走馬灯”はこの3人にしか鳴らせないおいしくるメロンパンの本質そのもののような曲である。いずれもおいしくるメロンパンのいちばん濃いところをクリアに、そしてポップに提示している楽曲であり、ここにこそおいしくるメロンパンの未来がある、と聴いていると思う。(小川智宏)

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