【10リスト】BiSH、パンクにもほどがある名曲10はこれだ!

幅広い層を魅了している「楽器を持たないパンクバンド」BiSH。「代表曲」ということならば、“BiSH-星が瞬く夜に-”、“beautifulさ”、“オーケストラ”、“プロミスザスター”などが、まず挙がることになるのだろうが、それらだけでは語り尽くせない魅力に触れるため、「パンク」という切り口で10曲を選んでみた。自分たちの可能性の探求を決してやめず、常識とされていることを覆しながら進化し続けている彼女たちの姿を、しっかりと感じ取ることができる曲たちだと思う。MVやライブ映像がYouTubeのオフィシャルチャンネルで公開されているものも多いので、興味がある人にはおすすめしておきたい。BiSHの奥深さを、視覚でもたくさん発見できるはずだ。(田中大)


①MONSTERS

2015年5月27日にリリースされたインディーズ時代の1stアルバムであり、BiSHにとって最初のフィジカルでの音源作品『Brand-new idol SHiT』に収録。作詞は超初期メンバーで、このアルバムのリリース前に脱退したユカコラブデラックスが手掛けている。BiSHの曲として初めて世に出たのは穏やかな風味の“スパーク”なので、彼女たちのパンキッシュな部分を本格的に示したのは“MONSTERS”だと言っていいだろう。雄々しい風を想起させる疾走感、メンバーも清掃員(BiSHファンの呼称)も無我夢中でヘッドバンギングをする激しいリズム、何かを荒々しく引き裂くかのようなシャウト&スクリーム――これらが全開で吹き荒れる様は、この前年に解散した第1期BiSの遺伝子を紛れもなく継承しているBiSHの危険な香りの萌芽でもある。アイナ・ジ・エンドとセントチヒロ・チッチの既に確立している歌の黄金コンビネーションにもワクワクさせられる曲だ。

②OTNK

所属事務所WACKの代表取締役・渡辺淳之介が「BiSをもう一度始める」と宣言して、BiSHのプロジェクトを始動させたのが、2015年1月。メンバーが決定して結成に至ったのが3月。すぐにアルバムがリリースされたり、ライブをたくさんやったり、『BiSH vs POP アイドルがゴールまで本気で走る東京~熱海間 約200km駅伝を完全生中継』(POP=現在のGANG PARADE)という鬼のような企画がニコ生で放送されたり、ハシヤスメ・アツコ、リンリンが加入して4人から6人編成となったり――怒涛の日々が続いていたなか、9月2日にリリースされたBiSH初シングルのタイトル曲“OTNK”。なんかいい感じの音の響きによる歌詞で、英語っぽく聞こえたりもするのに、とんでもない意味を持つ言葉を発しているとしか思えない部分が随所でバリバリに自己主張してくるのが、この曲のかけがえのない魅力だ。「なんと言っているように聞こえるのか?」については、みなさんそれぞれの判断に任せる……。強烈な第一声を、迷いを見せずに全力で叫ぶアイナが、実にかっこいい。

③DEADMAN

2016年5月4日にリリースされたメジャー1stシングルのタイトル曲。99秒という、短い尺の中にドラマチックな展開、印象的なメロディ、メンバーたちの歌のコンビネーションが凝縮されている様は、何度聴いても鮮烈だ。松隈ケンタと音楽制作チーム・SCRAMBLESによるサウンドプロデュースの切れ味の良さを実感させられる。ハードコアパンク的なゲロゲロテイストなのにもこだわらず、どこか可愛らしさも漂わせているメンバーたちの表現力もすごい。この曲の仕上がりは、「極度にブッ飛んだことをやったとしてもちゃんとBiSHらしく表現できる!」という自信をチーム全体で深めることにも繋がったのではないだろうか。そして、BiSHのパンキッシュな曲はMVも非常に面白いことが多いのだが、この曲も素晴らしい仕上がりである点にも触れておきたい。物騒な武器を手にしながら浅草や秋葉原辺りを練り歩き、暴れ回っているメンバーたちの姿から目を離せない。衝撃のラストは、何度観ても心底ほのぼのとした気持ちになってしまう。

④ヒーローワナビー

メジャーデビュー直前の2016年3月、東京・後楽園ヒミツキチオブスクラップで開催されたリアル脱出ゲーム「ある病院からの脱出」の主題歌として書き下ろされた。同年10月8日に行われた日比谷野外大音楽堂ワンマンライブの序盤で歌ったときのことが、鮮烈に思い出される。翌年の1月18日にリリースされた映像作品『Less Than SEX TOUR FiNAL “帝王切開” 日比谷野外大音楽堂』の初回生産限定盤Blu-rayに同梱されたシングルで初音源化。そこそこ「レア曲」ということになるのかもしれないが、ライブで披露される機会は多いので清掃員の間にも深く浸透していて、人気もかなり高い。激しいコールと手拍子をしながら盛り上がることができて、メンバーたちが浮かべる多彩な表情も楽しくて仕方がない曲だ。「ライブを主戦場としながら鍛え上げられてきたBiSHの熱量をストレートに感じられる曲」という位置付けをすることもできるだろう。

⑤Am I FRENZY??

先述の“DEADMAN”と並んで、メジャーデビューしてから間もない頃にBiSHの大切な一面である破壊的な表現を世に示したのが、2016年10月5日にリリースされたメジャー1stアルバム『KiLLER BiSH』に収録された“Am I FRENZY??”だ。不穏な残響を交えたエレキギターのサウンド、何か禍々しいものがこちらに向かって近づいていることを感じざるを得ないリズムが、ゾクゾクするほどかっこいい。殺気と絶望に妖しい光を宿らせるリンリンの独特な言語センス、彼女による怪光線のようなシャウト&スクリームも冴え渡っている。この曲がライブで披露されたときに清掃員の間に漂う熱気は、“BiSH-星が瞬く夜に-”、“beautifulさ”、“ALL YOU NEED IS LOVE”などとは大きく異なる。「なんだかとんでもないものを見ちゃってる……」と固唾を呑んで見守るような、ブルブルと震える感覚に近い興奮を味わえるという点で、「ラウドである」、「音が歪んでいる」、「ビートが激しい」というような部分だけでは語りつくせない「空気感」とも言うべき部分でも破壊的なものを生み出せるBiSHの魅力が、とてもよく出ているのがこの曲だ。

⑥GiANT KiLLERS

2017年6月にリリースされた曲だが、今でもBiSHのライブにおいて清掃員の盛り上がりに火を点けるうえで、重要な役割を果たすことが多い。前年8月にアユニ・Dが加入して、様々なライブやシングル『プロミスザスター』のリリースなどを経ながら磨き上げられたメンバー各々の歌声の個性が最大限に活かされている。6人の歌割りの連携がスピード感たっぷりに展開する様に耳を傾けていると、胸が激しく躍って止まない。ライブで彼女たちが繰り広げるスリリングなパフォーマンスに、清掃員の「ウォーウォーウォーウォーウォーウォーウォー!」という大合唱が加わると、誇張でも何でなく、つむじ風が会場内に発生したかのような感覚を味わえるので、ライブを未体験の人は楽しみにしていて欲しい。こんなにも文句なしにかっこいい曲なのに、エンディングでの振付がツッコミどころ満載で、最後にいつもハシヤスメが浮かべる表情が絶妙なのも、非常に素敵な見どころだ。

⑦SMACK baby SMACK

7月に幕張メッセイベントホールでワンマンライブを行って大成功。12月にはテレビ朝日系『ミュージックステーション』に初出演するなど、BiSHの知名度が格段に上がったのが2017年であった。頼もしい追い風が吹く中、満を持してリリースされたメジャー2ndアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』には“プロミスザスター”、“My landscape”、“JAM”などの代表曲がたくさん収録されているが、“SMACK baby SMACK”の人気も非常に高い。「ものすごい美少女で、大人しそうなのに、妙にドスが利いている」というアユニ・Dの特質が滲む独特な歌唱法が、鮮やかに開花しているという点でも重要な曲だ。そして、ダンスパフォーマンスも見逃せない。サビに差し掛かると、ハシヤスメがモモコグミカンパニーに往復ビンタを容赦なく喰らわす様は、何度観てもワクワクする。メンバー各々の個性と活かし方を心得ているアイナによる振付にも、BiSHの型破りな姿勢は表れているのだ。

⑧NON TiE-UP

2018年6月27日にリリースされた両A面シングル『Life is beautiful / HiDE the BLUE』は、どちらの表題曲もタイアップがついて曲調も爽やかで瑞々しいため、「BiSHはすっかり丸くなってしまった」というような声が結構上がっていたのだが、そんな状況を鮮やかに覆したのが、同日に何の予告もなしにゲリラリリースされたシングル『NON TiE-UP』であった。タイトルにも表れている通り、表題曲にタイアップは一切付いていない……というか、こんなにも挑発的な曲にタイアップが付くはずもない。スペクタクル映画の幕開けのような壮大なサウンドが鳴り響く中、メンバーたちが一斉に発する《おっぱい舐めてろ チンコシコってろ》という歌声の衝撃は桁外れだ。「何をしでかすかわからない」という取扱注意の爆弾のような危険な香りが、BiSHの重要な本質であるというのは、清掃員にとって先刻承知のことなのだが、メジャーデビュー後の代表曲しか知らなかった層にとっては、ひっくり返るくらいの驚きだっただろう。この曲は、2018年12月22日・幕張メッセ9~11ホールで行われたワンマンライブ「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"」でも圧倒的だった。BiSHの大ブレイクを決定的に世に印象付けたこの公演は、“ALL YOU NEED IS LOVE”で美しく締め括られたと思われたのに、高笑いしながら爽やかな余韻をブチ壊すかのようにいきなりスタートした“NON TiE-UP”は、あの場にいた全ての清掃員にとって「これがBiSHだよ!」と涙が出るくらい嬉しい光景だったに違いない。

⑨遂に死

メジャー3rdアルバム『CARROTS and STiCKS』が、CDとしてリリースされたのは、2019年7月3日だが、この作品に関する動きは、春先から始まっていた。全新曲の2枚のEP『CARROTS』と『STiCKS』が4月からApple Music限定で配信されて、それからすぐにスタートしたツアーでも様々な新曲を披露。キャッチー=『CARROTS』/攻撃的=『STiCKS』というBiSHの二面性が存分に発揮されたアルバムとなることも早い段階から発表されていたが、『STiCKS』の曲たちがどうやらとんでもないことになりそうだということをハッキリと予感させてくれたのが、4月2日にMVが公開された“遂に死”であった。轟きまくる爆音、狂乱状態の雄叫び、黒魔術の呪文のような不思議なメロディが渦巻きまくっているこの曲は、異世界じみた危険なムードなのに、爽快感も噛み締められるという併せ技が、実に粋だ。尖りまくっていても幅広い人々を惹きつけることができるBiSHの力を再確認させられる。

⑩FREEZE DRY THE PASTS

『CARROTS and STiCKS』の攻撃的=『STiCKS』な面を、“遂に死”に続いてダメ押しのように印象付けてくれた“FREEZE DRY THE PASTS”。何か不吉なことが起こっていることを予感せざるを得ない張り詰めた空気、無気力に呆けた表情を湛えているメンバーたちの歌、スピーカーから突然、真っ赤なマグマが噴出したかのような感覚となる怒涛の展開……音源で聴いてもゾクゾクするこの曲は、ライブでも、とんでもない存在感を発揮している。椅子に座ったリンリンを中心として、他の5人がうなだれたり、倒れたりしているフォーメーションを基調としながら繰り広げられるパフォーマンスは、虐待を想起させる場面もあるのが目を引く。アイナが手掛けている振付は、演劇の一幕のような空間を作り上げることが以前からあったが、そういう作風がさらに鋭く研ぎ澄まされているのを感じる。一定の枠に大人しく収まることなく、フレッシュな表現を追求し続けている彼女たちの姿が、生々しく刻み込まれたこの曲は、今後もBiSHを語る上で必ず触れるべき曲として強烈な輝きを放ち続けるはずだ。