『my』というその作品のなかで、平部は一貫してひとりの女性への未練を歌った。《君にすがりついて/大きな声で泣き出す始末》と、別れを告げられた日の情けない自分を歌った“ホワイトアウト”からはじまり、《君》がいない部屋の空虚さに心を痛める“デイドリーム”は、その翌日の歌だ。ほかにも、ふたりの思い出の地をひとりで訪れてしまう“二色浜”、すれ違いはじめた日々の切なさを歌った“クラムジーミーツ”など、全曲が実体験に基づく楽曲たち。そのミニアルバムの最後は、ふたりで過ごした部屋から彼女が荷物を運びだす“room”で終わる。のちに平部は今作を振り返って、「当時の曲は、まだ別れたばかりだったから生々しかった」と言っていたが、自身の傷を抉るように紡がれるリアルな楽曲たちは、だからこそ多くの人たちの共感を呼んだ。
以降、2018年リリースの『take』、2019年リリースの『soon』というミニアルバム三部作をとおして、reGretGirlは、同じ元カノのことを歌い続けている。特に『take』は、出会ったころの幸せだった日々や、いつの間にかすれ違いはじめたふたりの関係性について、何度も過去の記憶をめぐり、「あのとき、こうしていれば、結末は変わっただろうか?」と、ひたすら自問自答を繰り返す。その切なさが顕著に表れているのが、《「また僕を好きになりますように」と願っているだけ》と絞り出すように歌う “Shunari”や、《いっそのこと出会わなければよかったかな》と締めくくる“黒鳥山公園”だ。なかでも、前作『my』の“二色浜”と同じく、ふたりの思い出の場所を歌った“黒鳥山公園”では、あえて実在する地名をタイトルに置き、《予測変換にいちいち君の名前がでてくるから/もうマ行を押すのが怖くなったよ》という同時代的な表現を使うことで、圧倒的なノンフィクション感がある。そのほか、「ピアス」という共通のモチーフをテーマに男女ふたつの目線で歌った“よわむし”や“ピアス”のほか、コミカルなタッチで「彼女と結婚していたら」という妄想を爆発させる“(L)ONLY”など、前作『my』に比べて、より多角的な視点で「ふたりの過去」が浮き彫りになるのが、2枚目の『take』だ。
そして、三部作の完結編が最新ミニアルバム『soon』となる。その1曲目“12月29日”は、誕生日にフラれたという切ないエピソードから幕を開ける。この曲だけを聴くと、フラれて「終わった」ようにも感じるが、前作『take』の“Shunari”のなかで、《誕生日にフラれかけた》と歌っていることからもわかるとおり、実は、のちにふたりはよりを戻すことになる。そんなふうに、この三部作には、他の曲で出てきたエピソードが、別の曲で出てくる、ということがよくある。他にも、『my』に収録されていた“room”で、荷物をまとめて部屋を出たふたりが駅で別れを告げるシーンが『take』の“イズミフチュウ”という曲であり、その駅は『soon』の“おわりではじまり”にも登場するのだ。また、『my』や『take』から数年を経たこともあり、『soon』の楽曲たちは、これまでより俯瞰的に描かれているのも印象的だ。たとえば、すべてが真っ白になった“ホワイトアウト”の絶望を過ぎて、「僕が別の誰かを好きになってもいいのかい?」と問いかける “白昼夢から覚めて”や、《こうやっていつまでも自分の事/歌われる気分はどう?》とぶっちゃけてしまう“soak”といった楽曲が生まれたのも、時間によって少しずつ傷が癒されつつあるからこそだと思う。そんな『take』 は、思い続けた元カノと同窓会で再会する“おわりではじまり”で締めくくる。歌詞のとおり、実際に、平部は彼女の目の前で泣いてしまったそうだが、どこかで「終わり」を受け入れつつも、《でもまた今日から新しいふたりで/始まったりしないかな》と、淡い期待を捨てきれないまま三部作に幕を下ろす一途さがreGretGirlらしい。(秦理絵)