King Gnu ・常田大希のプロジェクト、
millennium parade が止まらない。今年5月に本格始動のキックオフとなるローンチパーティを恵比寿LIQUIDROOMで開催、この12月には大阪・なんばHatchと東京・新木場STUDIO COASTでのワンマンライブも行われた。King Gnuが勢いを増すのと呼応するように、というよりも表裏で同期するように、millennium paradeもまた、シーンにおける存在感を増しているのである。
日本で活動するバンドとして王道のロック・ポップスを志向する(という言い方も語弊があるが)King Gnuに対して、常田が所属するクリエイターチーム「PERIMETRON」と一体となって音楽・映像・空間演出などをプロデュースするmillennium parade。ライブでの3Dビジュアルやサラウンドの音響を駆使したそのパフォーマンスはまさに総合アートであり、その全貌を理解するには音源だけを聴いているのでは不充分だ。今回は、彼らがこれまでリリースした楽曲をMVを通して振り返りながら、そのコンセプトとメッセージに迫ってみたいと思う。
今年のmillennium paradeの躍進の狼煙となったのが、5月22日に配信された“Veil”だ。そのMVは、白い部屋の中央にうず高く積まれた白いトルソーの残骸の上で、何本もの管につながれた裸の人形(?)が歌うというもの。《黒いベール 宇宙について教えて/彼らが言うような感じなの?》(訳詞)という冒頭部分が示唆するように、この曲では「宇宙の始まり」というのがひとつの重要なモチーフになっている。人形は、おそらく意思と知能をもったAIのようなものだろう。ここに描かれる世界はキューブリックか押井守的なディストピアであり、人工知能が人間を駆逐した未来、あるいは人間がデジタルの世界に取り込まれてしまった未来を想起させるものだ。あえてドラマを作らず、淡々と1シーンで終わるMVは、まるでmillennium paradeの世界のオープニングのようだ。
続いてドロップされたのが、6月の配信シングル“Plankton”。“Veil”と同様3Dグラフィックを駆使しながらも、そこで描かれる世界は対照的。古いビルとギラつくネオンサイン、廃墟と化したガスステーションに止まるオンボロのバン。こちらもディストピア的ではあるが、その風景は『ブレードランナー』的だ。車から放り出されたウシをはじめ、ライオン、キリン、ゾウ、ブタなどの動物が現れ、裸の男と廃墟の中を行進する様子は、聖書の「ノアの方舟」の伝説をモチーフとしたものだろう。
であるならば、機械とAIの世界を描いた“Veil”に対して、“Plankton”は人間(生物)の側を描いたものだということができる。いうまでもなく、タイトルの“Plankton”は生命の進化の原点だからだ。《あの日手放した愛の全てよ/ゆっくり燃えて消えてゆけ》という歌詞もまた、《今の所この愛についてのシステムがよくわからない》という“Veil”の歌詞と対になっている。この2曲は崩壊した未来における愛をめぐる物語なのだ。
それとは少し趣が変わるのが、9月にリリースされた3rdシングル“Stay!!!”だ。Charaのボーカルをフィーチャーしたこの曲は、前2曲と較べても格段にキャッチーに仕上げられている。実写とアメコミ調のカートゥーンを組み合わせたMVもかなりニュアンスが違う……ように見える。だが、その楽曲とビデオに描かれるストーリーを読み解いていくと、実は通じているのではないかと思えてくるのだ。
女の子と飼い犬がエサを巡って戦いを繰り広げるというコミカルなコンセプトの映像だが、Charaのスウィートな声で歌われる言葉を追っていくと、これがいわばラブソングであることがわかる。“Stay!!!”というタイトルにも、犬に対する「待て」と「ここにいて」の意味が重ねられているのである。《リトルファットベイビー怖がっているんでしょう》というフレーズはセクシャルな匂いも感じさせるし、間違いなくこれはある「愛のかたち」についての歌だ。そして前述の通り、そのテーマは“Veil”、“Plankton”の2曲とも通じている。なぜ常田が「愛」に固執するのかはここでは論じないが、ひとつだけいえるとすれば、それはいつどんな場所でも人間の営みの根源にあるからだと思う。
人間の営みという意味では、12月6日にリリースされた彼らの最新曲“lost and found”はますます示唆的だ。病院のベッドで呼吸補助機を付けて眠っている女性が起き上がり、ダンスを踊り出す。トム・ヨークとポール・トーマス・アンダーソンがコラボレーションしてNetflixで公開した短編『ANIMA』にも通じるようなムードを持つこのMVは、音楽と映像のコンビネーションという意味でも、そこに込められたテーマという意味でも、現時点におけるmillennium paradeの到達点だといえると思う。肉体的なビートとコンテンポラリーなダンスパフォーマンス、そこにCGが組み合わされてmillennium paradeの世界をかなり具体的に、そして象徴的に示しているからだ。
“lost and found”というタイトルが示唆するように、そして病院のベッドから起き上がるというシークエンスが物語るように、この曲には「再生」のイメージが強く刻まれている。「愛」から、さらに根源にある「命」へと、millennium paradeのモチーフは深化しているのである。それは“Veil”から“Stay!!!”まで描かれていた世界と物語の「次」を予感させるものだし、状況説明的だったこれまでの3曲に対して強いメッセージを感じさせるものでもある。2020年、millennium paradeは東京の未来をどう描くのだろうか。(小川智宏)
『lost and found』 “lost and found”MVより