嵐のドキュメンタリー『ARASHI’s Diary -Voyage-』をあなたはもう観たか? ここに映し出される5人の真実について

2019年のの活躍は、本当に目を見張るものがあった。もちろん彼らは日本一のアイドルグループとしてこれまでも大活躍だったわけだけれど、昨年ほど「新しい嵐」を感じた1年は久しぶりだったように思う。彼らは新しい可能性を次々と見出しながら、まるで未来を切り拓くかのように2019年を走りきり、その勢いは2020年へと続いている。

例えば「ARASHI Anniversary Tour 5×20」(2018〜2019)。「ARASHI Anniversary Tour 5×10」に続くアニバーサリーツアーであり、過去最強と言っても過言ではないセットリストで臨んだそれは嵐史上最大規模のツアーとなった。『5×20 All the BEST!! 1999-2019』は驚異のダブルミリオンセールスを達成し、7月~11月にはグループ初の展覧会「ARASHI EXHIBITION “JOURNEY” 嵐を旅する展覧会」を開催。11月の「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」では“Journey to Harmony”を歌い、その翌日にはジャカルタ、シンガポール、バンコク、台北を巡った緊急記者会見「JET STORM」に旅立つという、まさに「国民的」と呼ぶに相応しいダイナミックな活動も続いた。

新曲も5人の歌声の不変の強みを生かしながら新機軸を示す名曲揃いで、《世界中に放て Turning up with the J-pop!》と歌い、J-POPの看板を背負って世界に打って出た“Turning Up”は痛快だったし、デビュー曲“A・RA・SHI”をリプロダクトした“A-RA-SHI : Reborn”は、文字通り「再誕(reborn)」のメッセージ性に懐古とワクワクが交錯した。『第70回NHK紅白歌合戦』で明らかになった米津玄師とのコラボ曲“カイト”も含めて、そのどれもが嵐の新時代の幕開けを告げ、祝福するナンバーだったと言える。

新時代の幕開けという意味では、2019年の嵐の最大の転機となったのがSNSアカウントの開設、動画配信、そして音楽サブスクリプションへの本格参入だったことは言うまでもない。これは嵐のみならず日本の音楽業界を大きく揺さぶった事件であり、嵐の新時代の幕開けは日本の音楽、エンターテインメントそのものの有り様に大きな変化を促すものでもあった。

でも、彼らの活躍が目覚ましければ目覚ましいほど、そこに眩しい未来を感じれば感じるほど、相対的に喪失を強く感じずにはいられなかったのが2019年でもあった。なぜなら嵐の未来は、2020年12月31日でいったんピリオドが打たれることが決まっているからだ。つまり、昨年の嵐の活躍は、活動休止前に悔いを残さないための完全燃焼ということだったのだろうか。未来に思えたものは、実はフィナーレだったのだろうか。

様々な局面で嵐の魅力を再確認した1年だった。5人は以前と変わらず生き生きと輝いていて、彼ら自身も嵐であることを100%楽しんでいるように見えた1年だった。それでも時計の針は一刻、一刻と休止に向かって時を進めていて、今こうして残された時間は1年を切っている。何度も揺さぶられながらそんな彼らを見守ってきたファンも多いはずだ。何度も揺さぶられながら問いかけは続いたはずだ。嵐はなぜ止まらなくてはならなかったのか。なぜこのタイミングだったのかと。

嵐はなぜ止まらなくてはならなかったのか。なぜこのタイミングだったのか。その問いかけに対する恐らく答えになるだろう嵐のドキュメンタリーが大きな話題を呼んでいる。それが『ARASHI’s Diary -Voyage-』だ。昨年12月31日よりNetflixでの独占配信がスタートしている『Voyage』は、1月8日の現時点でファースト・エピソードが配信されたのみだが、これから2020年12月31日の活動休止までの1年間にわたり、随時新エピソードが公開されていくことが決定している。ちなみにNetflixは世界190カ国以上で視聴されている。「世界中に嵐を巻き起こしたい」と言ってデビューした嵐が、今まさに世界に向けて発信しているのだ。

ちなみに「二十年」と題されたファースト・エピソードはトータル22分で、かなりの時間が嵐の歴史をダイジェストした映像に割かれているため、まだ助走段階と言うか、ドキュメンタリー全体のプロローグ的な意味合いが強いエピソードだ。それでも、十分に伝わってくる。BGMやナレーションではなく、大野智櫻井翔相葉雅紀二宮和也松本潤の言葉に潔くフォーカスを絞った『Voyage』に、5人が覚悟を決めて臨んだことが。自分たちの決断に改めて向き合い、自分たちの言葉でファンに伝えなければならないのだという彼らの決意が、これから1年にわたってここで語られるものへの予感に少し怖くなってしまうほど、ひしひしと伝わってくるのだ。

当然かもしれないが、5人の想いは様々だ。活動休止に至るまでの葛藤も、今現在の心境も、そしてこれから先の展望も、5人の言葉は色とりどりで散り散りのモザイクを成している。つまり、『Voyage』は嵐としての明確なコンセンサスを元に「説明していく」のではなく、5人が20年で最も難しかった決断に向けて曲がりくねった道をファンと共に「歩んでいく」ドキュメンタリーだと言える。思えば、嵐はいつだってそういうグループだったわけだけれど。

いずれにしても、ここでどんな解釈をしていても仕方がない。とにかく『Voyage』を観てほしい。世界中にはあらゆるグループやバンドの解散や活動休止の例があるが、ここまで誠実にそれと向き合ったグループは滅多にいないし、どこまでも嵐らしい、嵐にしかできないドキュメンタリーだと思う。嵐の活動休止までの残り1年間を、嵐の今を、こうして『Voyage』を通じて彼らと並走できる感覚は何より得難いものだ。ちなみに嵐のSNSには、元旦に彼らが5人一緒に『Voyage』を観ている写真がアップされている。そこでどんな会話が交わされたのか、どこまでも想像は尽きないのだ。(粉川しの)