2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。
10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!
2016年
『ア・ムーン・シェイプト・プール』
レディオヘッド
突き抜けた世界
アルバムを聴いたときの到達感が3年以上経た今でも生々しく蘇る。5年ぶり、通算9枚目として16年にリリースされたわけだが、それまでの『イン・レインボウズ』(07年)、『ザ・キング・オブ・リムス』(11年)がいきなりのデジタル・リリースで驚かされたりしたのに比べるとオーソドックスなプロセスで発表され、しかも多くの人が求めた端正なトム・ヨーク・ワールドを素直にさらす楽曲をはじめ、政治的なメッセージから、長年ライブでも取り組んできて、ようやくスタジオ・バージョンとして結晶化させたものなど、幅広い楽曲が並んでいた。
自ら作り出した巨大な影と格闘し、さらに高い(深い)ところへと向かう彼らの葛藤は大きな成果を生んできたし、メンバー個々のプロジェクトも大きく翼を広げた00年代であった。その収穫期となったのが10年代であり、それをアルバムという形で見せたのが本作だ。
誰もが求めるレディオヘッドの世界がそこにありながら、それ以前とは違うヴァイブが流れている。それを僕は到達感と感じたのだが、実際、この後のツアーのセットリストや、例えば『OK コンピューター』の20周年記念盤『OKNOTOK』の構成などに接していると、さまざまな形で覆っていたこだわりや迷いから突き抜けたからこそたどり着いた境地に思える。その核心にあるのが本作であり、だからこそ今でもこのアルバムはビビッドなのだ。次の段階を期待させるという意味でもこのアルバムの価値は、今もまったく薄れてはいない。(大鷹俊一)