『死刑にいたる病』をまだ観ていない人へ

答えのない深い闇を、クソまみれの現実の真の姿を、光の側から描くとそれは真面目なドキュメンタリー番組になる。
もし、そこにエンターテインメントを求めたりしたら、それは不謹慎なものになってしまう。
逆にエンターテインメント作品においては、それらの現実の闇の部分をどうオブラートに包むかが重要になってくる。
しかし、その答えのない深い闇の側まで踏み込んでいって、明るくのどかだった光の側が遥か遠くに見えるところから、クソまみれの現実をありのまま描くことをエンターテインメントとして成立させるという離れ業を見せてきたのが映画監督・白石和彌だ。

長編2作目の『凶悪』で大きく脚光を浴び、『孤狼の血』シリーズをはじめ商業的な成功も残し、そして最新作『死刑にいたる病』はじわじわと不気味な強さで恐怖が伝染するようにロングヒットしている。
安心感が皆無の不穏な空気が、エンターテインメントの匂いを放ってお客さんを呼び寄せ続けている感じで、ダークなテーマのわりに若いお客さんが多いのは『ミッドサマー』のヒットにも近い。
白石監督は、映画現場におけるハラスメントをなくすためのリスペクト・トレーニングの取り組みを続けていて、先日もテレビ番組で「ハラスメントのある現場で面白い映画を作ることは絶対にできません」と断言していた。
暴力、欲望、狂気、それらがうごめく答えのない深い闇の奥に映画によって踏み込んでいくための信頼を、共に映画を作るチームの中に築き続けてきた白石監督だから、この『死刑にいたる病』という震え上がるくらい怖く、胸糞悪いほど禍々しく、目を覆うくらい生々しいのに、人の心を揺り動かす面白さと美しさを持つ映画が撮れたのだろう。(古河晋)
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